「先に上陸させた奴らの話によると、この島には今俺達以外にも億超えのルーキーが集まってるらしい。極力他の奴らと面倒を起こすんじゃねェぞ。ここはマリージョアの目と鼻の先だ。下手すりゃすぐに海軍が」

「んああああああああああ!!シャボン玉が!!いっぱい飛んでる!!!ありがとうグランドラインありがと、ぐげっ」




心踊れ、少女


キッドにアッパーを食らわされた後、私は無事シャボンディ諸島に上陸した。
皆様ご存知だろうか。
この島はなんと、島ではなく木なのだそうだ。しかもシャボン玉が発生する不思議な樹液が出てるらしい。
何を言ってるか意味がわからない。ファンタジーか?
つまり最高。
しかし浮かれた心のまま走り出そうとすると、キッドの手で腕輪に磁力が発生させられてしまうのだ。鬼畜。まじ鬼畜。

「いい加減にしてくんない?」

「こっちのセリフだ」

私はキレていた。

「もう私さ、さっきから何回、ダッ!(走る)ガッ!(捕まる)繰り返してると思ってんの?いい加減肩外れそうなんですけど!?」

「テメェが突然あらぬ方向へ走り出そうとすんのがいけねェんだろうが!幼児かテメーは!?」

「だって魅力が多すぎるんだもの!」

「ここは諸島だぞ!テメェみたいなアホが迷子になるせいでキラーに余計な労力使わせんじゃねェよ」

「俺が探しに行くのは前提なのか、キッド」

「じゃあキッド!ボンチャリ買って!!」

「お前空飛べんだろ。行くぞ、お前ら」

「ああああああこの薄情者ぉぉぉ」

キッドは旅の醍醐味ってのがまるで分かってない!旅って言ったらテンアゲ(テンションアゲアゲの略)で馬鹿みたいにはしゃいで馬鹿みたいにお土産買って後で家に帰ってから「あれ?これ用途まるでないな??つーかいらなくね?」って素面に戻るとこまでがセットでしょうが。アホか?

「ねえキラー、そういえばさっきキッドが言ってたルーキーってなんのこと?」

「ああ。ナマエは知らなかったな」

ルーキーというのは、今巷を賑わせている11人の億越え賞金首たちのことを言うらしい。超新星とも呼ばれているそうだ。豪勢なことだが、つまりはキッド並みにヤバい海賊達がいっぱいいるというわけか。

「そんなかでも頭の賞金額はダントツなんだぜ!」

クルー達も会話に割り込んできた。

「そうなの?つまりキッドが一番強いってこと?」

「あったりめーよ!!」

「ふうん。キラーも億越えなわけだから、そのルーキーとやらの中に入ってるんだよね?」

「ああ」

「いいなぁ!私もいつか名の知られた人間になりたいもんだわ。いや悪名でなく。偉人的な意味で」

「馬鹿か。俺の船に乗ってるうちは無理だ」

「いや絶対なるし。この世界に名を刻んでから帰るし」

何の気なしに言うと、キッドが唐突にこちらを振り返った。

「帰んのか」

「え?うん、そりゃ、いつかは」

「……」

何だろう、突然機嫌が悪くなった気がする。
またくるっと前に向き直ったキッドは、そのまま歩調を早めて酒場に入っていってしまった。
頭が入ったなら部下も続くのが道理。
そのままゾロゾロ酒場流れ込んでいくクルー達を見て、私は悪態をついた。

「私の寄り道は怒るくせに自分はいいのか!?もう知らん!一生飲んだくれてろ!」

酒場とは正反対の方向へ走り出した。
腕がねじ曲がった。
転んだ。

「ッッッいい加減脱臼するっつの!こンの眉無し筋肉オバケーーーー!」

「アッパッパー!でっけェ独り言だな、お嬢ちゃん!迷子かァー?」

「おっふ……誰?」
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