「へー!アプーさんっていうの!私はナマエっていいます!ご覧の通り魔女です!」

「ご覧の限りはふつーの嬢ちゃんだけどな。アパパァ!知ってるぜ、お前キッドんとこのクルーだろ」

「え?どうして知ってるの?」

「理由は一つだな」

指さされた方を見る。あっちのテーブルからとんでもない形相でこちらを見ている人物がいた。言うまでもなくキッドだ。私はすぐに目を逸らした。

「純粋に顔怖すぎ」

「戻らねェのか?」

「私今喧嘩中なんで」

「アッパッパァ!!!面白ェ嬢ちゃんだ。よーしいいぜ、ここに座んな!」

「あ、どうも…」
隣に腰掛けようとすると、ぐいっと腰に回った手に引かれてそのままアプーさんの膝に腰掛けるに至った。

「そっちじゃなくてこっちだろォ?」

「えっさすがに、距離近へぷっ」

座ったかと思いきや目の前が真っ暗になった。
後ろから誰かが片手で顔面を覆っている。誰かっつーかキッドだ。

「あいたいいたいいたいいたい!!!わかった!おります!おりるから首引っ張んないで!え!?そんな引き剥がし方ある!?」

「とっとと降りろグズ魔女が」

「よーォ、ユースタス・キッド!悪ィが今取り込み中でな。後にしてくれよ」

「何が取り込み中だ。うちのバカを返しやがれ」

「あっ!待ってやばいこれ腰!腰いった!!どっちでもいい!どっちでもいいからどっちか離して!体もげるから!!」

顔面を掴んだキッドに引っ張られ、腰を掴んだアプーさんにキープされている。腹筋も腰も限界だ。
と思ったら、キッドの胸板が背中にぶつかった。
なるほどこれにもたれれば確かに腰の崩壊は回避されるわけか。顔面は離してくんないけどってわけね。ハイハイお気遣いどうも、お借りします。

「流石のお前もこんな場所で暴れたりはしねェよなァ?ユースタス」

「さァな。テメーの態度次第だ」 

「オラッチの姿見てみろよ!こんなに大人しく飲んでるっつーのによ〜」

「飲みたきゃ勝手にやってやがれ!!俺はこいつを、………あ?」

なぜかぴたりと会話が止まった。
なぜ、いや、いや分かるぞ。

「………オイ、」
「い、言わないでぇ!!!!」

私がシャウトすると、見てもいないのにキッドの機嫌がみるみると良くなっていくのが分かる。手のひらから伝わってくる。
そうだこれだ。この手が全部悪い。
恨んでいる傍で、それがゆっくりと離れていった。
思った通りニヤリと笑う悪い顔とぶつかった。

「テメェ、俺の手火傷させる気かよ」

だって、意識し始めたらどうしようもなかった。
手のひらの大きさとか硬さとか、背中や後頭部に触れる力強さに、ついうっかりくらくらしてしまったのだ。
さぞかし茹でダコになっているだろう顔面を思って、私はなす術なく項垂れたのだった。
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