キッドとキラーの前から逃げ出した翌日、船長命令が執行され、私は有無を言わさずキッドの部屋に担ぎ込まれた。


「お前に言いたいことがいくつかある。座れ」

「.........はい」

ベッドに腰掛けるキッドの前に酒樽を用意して座ったら、目線がキッドより数センチ高くなってしまい秒で蹴落とされた。床から見上げる赤い髪が憎い。

「テメェが何かを隠してることは知ってる」

キッドの顔は険しい。
ただその中に微かに寂しげな色が見えて、私はそっと姿勢を正す。

「キラーから、あまり問い詰めるような真似はするなと言われたが、ここは俺の船だ。そしてお前は俺のクルー。そうだろうが」

「う.....うん、キッド」

「正直、俺もどうしてここまで気になるのか分からねェ」

えっと、思わず顔を上げる。

「気になるの?そんなに」

キッドがまさかそれほど私を気にしていたなんて、まるで考えていなかった。
彼は「煩ェよ」と一度そっぽを向いたが、少ししてまたこちらを見た。

「ここにお前を呼んだのは、無理矢理秘密を聞き出す為じゃねェ」

「そ、そうなの?」

「大体見当も付いてるしな」

キッドはそう前置きすると、驚く私にはっきり言った。

「隠し事するのは構わねェが、どうせすんなら、墓場まで持ってく気で隠せ!テメェがソワついてたらこっちまで落ち着かねェ。それが出来ないなら、いっそ全部ぶちまけちまえ」

私は何故か、胸を突かれるような気になって、同時に自分の悩みがいかに些細なことだったのかを思い知った。
立ち上がって、出そうになった涙を堪える。

「ごめん、キッド.....私、間違ってた!」

「.....分かりゃあいい」

「私、恥ずかしくて.....。絶対誰にも言えないって思ってたの」

「なら聞かねェよ。興味もねェしな」

素っ気なく言うキッドに、私も笑ってしまう。
「そうだよね.....!ていうかもういいんだ、その件については」

「あ?いいって何だよ」

「昨日一晩考えて、捨てちゃおうと思って。今朝、海にね」

キッドがこんなふうに受け入れ態勢を整えてくれると分かったら、そりゃ恥ずかしいけど、コレが噂のアレですって写真の切り抜きを見せることも出来たかもしれないけど、もう捨ててしまったのでどうにもならない。キッドの気持ちは受け取って、あとは世間様が早々に忘れてくれることを願うばかりだ。

「.....テメェはそれで良いのかよ」

キッドが険しい顔で尋ねる。どうして怒ってるんだろう。

「仕方ないじゃん.....今更どうこうできるわけじゃないし」

「テメェの気持ちひとつ伝えねェで諦めてんじゃねェって言ってんだ!情けねェ!!」

「うわ、びっくりした.....!え?気持ち?何の?」

「あんだろうが。絶対に言わなきゃならねェことが」

言わなきゃならないこと!?!?
いたいけな乙女のパンツ公表しやがってファッキンベイベー!とか?いやこれ言うタイミングあるかな?

「今が時じゃねェなら、機を改めてもいい。だが逃げ出すようなマネだけはすんじゃねェ」

キッドの剣幕に押されて頷いてしまう。
こんなに怒ってくれるなんて、相変わらず男らしさの塊みたいな人だな、私たちの船長。

「うん、じゃあ機会があったらちゃんと言う!キッド、ありがと」

「フンッ、ならとっとと甲板掃除でもして来やがれ」

「はいはい、素直じゃないなー」

「....ああ、オイ!何か落ちたぞ」

キッドが拾い上げたのは、私がポケットに突っ込んでいたキッドの手配書だ。写真の切り抜きを海に捨てる時に手前に持ち上がってしまったのだろう。
それを手にしたキッドが、カチン、とマグル式ロボットのように動きを止める。

「.........キッド?」

声をかけても反応がない。
私はそっとキッドの手の中から紙を抜き取り、もう一度ポケットにしまった。「皆も持ってるし.....一応ね。クルーだから」私の声は聞こえてないらしい。
私は白目のキッドを置いて静かに船長室を後にした。

(.....なんか話噛み合ってなかった気がするけど、まあいいか)
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