バレぬようバレぬようと思っているとかえってそのぎこちなさが現れるのか、その日のキッドが私に向ける視線はといえば90パーセントが疑心と苛立ちで、残りの10パーセントがとって食ってやるというような全面的な殺意であった。

「頭、なんか鬼のような顔してなかったか?」

「仕方ねえよ。昨日の今日じゃ」

「昨日?」

「ああ、おまえ知らねえの?昨日食堂でよー」

廊下を行き過ぎるクルー達の噂話も小耳に挟み、私はもうほとんど確信していた。
(……ば、バレている)
少なくとも私が何か隠していることは確実にバレてる。

「そらそうよなぁー!昨日の出ていき方明らかに不自然だったものなぁー!!」

「でかい独り言だな」

「っ!き、キラー」

完全に1人だと思っていた船内の廊下には、いつから居たのかキラーの姿。私は大慌てですまし顔を作った。

「何が不自然だったんだ?」

「や、その……寝相が」

「ん?」

「寝相が不自然で、その...寝違えちゃって.......私って嘘つくの下手かな?」

「そうだな」

もうここはキラーに泣きつくしかない。と、私は涙ながらに経緯を話した。しかし!日本のことわざに壁に耳あり・障子にメアリー・窓の外にはウルヴァリン。(ジョージ談)というのがあるくらいだし、気を使って甲板の船首の影でこっそり話した。キラーは普段のキャラを夜の海に投げ捨ててマナーモードの携帯電話かってくらい小刻みに震え続けている。


「そ、そんな愉快な話聞いたこともないぞ」

「ちっとも愉快じゃないんだってそれが」

「見てみてもいいか」

「写真を?やだよばか!!」

私はキラーに掴みかかって小声で凄んだ。普段はこんなことしないけどもうなりふり構っていられない。

「お願いキラー!このこと絶対絶対キッドに言わないで!」

「別に言いはしないが、キッドはキッドで何か勘違いしてるかもしれないぞ」

「勘違い?何それ」

「例えば、お前が誰かに」

キラーが何かを言いかけたその時、恐るべき強さで腕が引っ張られた。腕というか、腕につけられた例のブレスレットだ。
私は即座にキラーの腰に抱きついた。
というより蝉が如くしがみついた。

「ぎゃーーーー!!!引っ張られる!!腕ちぎれるぅぅ!!」

「離せナマエ」

「絶対に離さん!!」

キラーはぐっと足を踏ん張って耐えている。私は腕がもげそうになりながら耐えている。が、もう無理そう。このままではキッドに強制送還されて酷い目に合わされてしまう!

そう思ったところで、ふと腕を引き寄せる力が消えた。
私とキラーは突然の事で反対方向に倒れ込む。

「な、何急に」

「.....まずいな」

「まずいって何が.......あ」

キラーを押し倒すように倒れる私達の上に、一際巨大な影が落ちたのはその時だった。
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