「頭、女ってのはこういう話はストレートにされると隠し始めるもんでさ。つ、ま、り、遠回しに《お前最近なんかあったか?》とかが良いんじゃねェんですかね、へへ!」

「分かった。」

ナマエの惚れた腫れたも非常に気になるが、憧れの頭に頼られ、いつもよりちょっぴり素直な一面を見ることができたクルーは得意げにそう告げたあと、物の見事にその拳に沈められた。

「明日にはその浮つきと一緒にすべて忘れろ。いいな」
「ば、……ば、い」

キッドが自分のそんな姿をクルーの記憶に留めておくかどうかは別の話である。





「あ、帰ってきた。どうしたのキッド、話の途中に」

「野郎が腹を下したらしくてな」

「えー、今風邪流行ってるの?」

「バカが風邪の心配なんかしてんじゃねェ」

「バカでも風邪ひきますから!!ていうか今は全員バカゼ引いてるはずじゃなかった??」

「ところでテメェ最近なんかあったか」

「話聞いてる?」

「いいから、とっとと、答えやがれ」

「痛いいたいいたい!!え、なに!?ないよ!?特にありません!」

「フン………………ちょっと待ってろ」

「!?!?ぎゃあああっ、か、かしら待っ」

バタン

「……ねえキラー、キッドどうしちゃったの?」

「ふ……さあな。まあ、見ててやれ。お前に聞きたいことがあるらしい」

「聞きたいこと?……あ、戻ってきた」


ドカッドカッと足音を鳴らして帰ってきたキッドは椅子に腰掛けるやいないや、「最近身体に異常はないか」と尋ねた。
首を振るナマエ。

「本当だろうな」

「う、うん」

「妙な動悸、妙な息切れ、妙な精神的高揚は見られねェってことだな」

「ねえ!!!やっぱり何かヤバい病気流行ってんでしょ!?この船こわいんですけど!!」

「煩ェ!!喚くんじゃねェ!最悪テメェがアレにかかってたとしても、どうにか俺が抹殺してやる。この船にゃ要らねェもんだからな」

「アレって何?!抹殺って??船上バイオハザードでもおっ始めようっていうの!?」

「次はテメェだ!来い!」


再びクルーの1人を連れ出しては戻ってきてナマエに質問をする。を繰り返すキッド。
食堂にいた人数が半数ほどに減った頃、キッドはようやく満足げに鼻を鳴らした。

「こんだけ確認しても思い当たる節がねェんなら、安心しろ。テメェは白だ」

「病気じゃないってこと……?よ、よかったぁ。質問はさっぱり意味不明だったし、キッドと出てった人達が一人も戻ってこないのは怖すぎたけど、でも私が健康体でよかったぁ」

「ったく、世話かけさせやがって」

「良かったな、キッド」

「ああ。………いや俺は関係ねェよ、殺すぞキラー」

キラーはにじり寄ってくるキッドをいなしながら、ふと目の端にナマエのポケットから落ちたものを写した。どうやら手配書らしい。

「ナマエ、何か落ちたぞ」

「えっ?何かって……」

それを目に止めたナマエは、ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がり、慌ててそれを拾い上げた。
「みっ、」
彼女の顔は今やキッドの髪よりも赤い。

「……み…………見た?」

首を振るキラー。

「アディオス!!!!」

ナマエはキラーの返答を聞くや否や、食堂を駆け出ていった。残された者達は全員同時に立ち上がった。
キッドの反応を待つ勇気のあるものは一人もいない。


「……止まれ。テメェら」

「いやですすいません頭」「お、俺たちとんでもねぇ箱の鍵を外しちまっ……ギャーーー!!!」

「あの反応はなんだ、アァ?答えろてめぇ」

「あ、ありゃもう疑いようもなく恋、ぐふぉ!!!」「次、テメーだ。おい、あの反応は(略)」


恋だと?

この俺の船にそんな生ぬりイもんあってたまるか。ーーー覚悟しとけ、ナマエ。

「テメーのそれは、俺が完膚なきまでにぶっ潰してやる。」

ああ、ごめんよナマエちゃん。
クルー達の心の声がシンクロしたのは言うまでもなかった。

(というかキッド、あいつの恋路を邪魔したいなら、それはお前も)(止めてくれキラーさん!!!!俺たちまだ死にたくねえよ!!!)
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