「おい」

「ん?」

「もういい」

「えー?もういいの?」

「戻せ」

「元気でた?」

「…………あァ」

「えへへ、よかった!」

フィニートで元の姿に戻ったキッドは小一時間くらい顔を見て喋ってくれなかった。心配しなくても馬鹿にしたりしないのにね!





「そういうわけで野郎共。宝探しだ」

町も深い眠りについた深夜2時、キッドは人知れず集めた船員たちと共に船を降りた。
私は言うまでもなく船ですやすや眠っていた。
目が覚めたのは、明け方近く、船が沖へ出てしばらくしての事であった。


甲板に山積みになったたくさんのお宝を目にした時の私の心境は穏やかではない。っつーか大荒れ。

「なんで!!起こして!!くれなかったの!!!」

私の言及に、キッドはうるさそうに耳に小指を突っ込んでそっぽを向いた。

「テメェが起こしてもぷーぷー寝てやがったからだ」

「絶対嘘!!絶対起こしてないでしょ!」

「ナマエ嬢ー、頭ホントに起こしてたぜー」
通りすがりのクルーがそう言って立ち去っていく。

「そ、なっ……いつもだったら叩き起すくせに!今日はやさしめかよ!!」

「たまたまだ」
まさか本当に優しめに起こされたとは思ってもいない私は床に崩れ落ちた。む、むね……ん……

「私も……みんなと一緒に宝探ししたかった」



キッドは昨日、村長達の話を聞いた。
そこでヴァイオレット・スパークのお宝がこの島に実在し、彼らの私腹を肥やすために使われていたことを知った。
場所は、街のシンボルとも言える白い塔の地下深く。額にして、(キッド曰く)5億ベリーほどの価値が付けられるらしい。


幾多にも襲いかかってくるトラップを難なく乗り越え、根こそぎ金品をかっさらってきたキッド達は、そのまま、息つくまもなく出航したんだそうだ。


「ナマエ」

キッドはおもむろにコートのポケットを漁り、中から取り出したものを私に差し出した。

「なにこれ?」

「テメェのだ」

それは翡翠色の宝石がいくつも埋め込まれた金の腕輪だった。キッドが腕にしているのと、少しだけ似ている。

「くれるの?」

「あァ」

「あ、ありがと」

どういう風の吹き回しだろうかとも思ったけど、おそらく置いていった後私がこねることを見越して用意していたんだろうとすぐに、あたりをつけることができた。まあ、綺麗だから嬉しいけど。

「似あうかな……!」


内心でワクワクしながら、ぱかりと1箇所が外れたそれを腕につけてとめる。
カチリ。


……カチリ?

「…………キッド」

「どうかしたか?」

「この腕輪、なんか……外れなくなった」

「だろうな」

しらっと答えたキッド。
は??と絶句している私の横を、宝をひと山抱えたキラーが通りかかる。

「それはずっと昔に流行った、女用の拘束具だな。普通は鎖で繋がれた、毒針入りの対があるもんだが」

「そっちは俺が捻り切った」

「なるほどな。キッド、これはお前の部屋でいいのか」

「半分は宝物庫だ」

「いや待ってぇぇ!!?何ナチュラルに拷問器具つけられてるの?私なにかしたかな!してないよね!?」

キッドが手をかざした。
私の腕は私の意志を無視して、キッドのその手のひらへぴたっと収まった。……ハッ!のう、りょく……?


「テメェはちょろちょろし過ぎるからな。首輪代わりだ」

なんてこった。
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