(キッド、上手くやれるかな……。) ドドォン……!! ガラガララッ (やれるわけなかったー) 慌てて現場へ駆けつけてみると、カーテンの引かれた窓ガラスが突然割れて、中から椅子が飛び出してきた。デジャブ! 「キッ、キッド!!」 部屋の中からは野太い悲鳴が聞こえてきて、通行人や野次馬たちがわらわらと集まり始めた。 私は施錠されたドアをもう一度、アロホモラで開けて、身を屈めながら中へ入った。 「キ、キッド……?」 中は、泥棒……いや、強盗?……ていうか怪獣?ーーが大暴れしたんじゃないかと言うほどの荒れ具合で、ガラスや食器は割れ、テーブルも粉々、村長さん達はもれなく残骸の下で白目を向いて倒れている惨状。 しかし、きっと間違いなくこの大惨事の加害者であるキッドの姿はどこにも見えなかった。 「キッド、ど、どこー?」 返事も聞こえない。 姿も見えない。 何か気に食わないことがあって暴れたのなら、「とっとと戻せグズ!この糞共に俺が制裁を下したってことをよォくわからせてやる」なんて悪態を吐きながら現れそうなものなのに。 私は杖を握りしめ、部屋の中で立ち竦んだ。 なぜか、キッドが傷ついている気がした。 「キ」 もう一度呼びかけようとした時、ぐいっと強い力で腕を引かれて前につんのめりそうになる。 キッドは私の腕を掴んだまま店を出た。 「ど、どうしたのキッド……」 返事はない。 時折すれ違う人の肩にぶつかり、不思議そうな顔をされながら、私たちは街の外れまで来てしまった。 キッドは、姿と一緒に声まで消えてしまったとでも言うように、私の手を離した。 私は慌ててその離れていく手を掴んだ。 「……」 手のひらに触れる。 さわさわ、 冷たい。 それからコート越しに腕と、ふわふわが付いた襟元、背伸びをして頬に触れた時、そこが濡れていないことに安心したくらいだ。 私はキッドの頭を、両手でわしわしと撫でてみた。 「なんか、やなこと聞いたの?キッド」 もしそうなら、キッドが透明なうちに私がいっぱい慰めてあげよう。 姿が誰かに見えるようになったら、キッドはいつも通り肩で風を切ってどかどかと、何でもないふうに威張りくさって歩くんだから。 「いつもお疲れ。キャプテン」 (…………からかおうと思って黙り込んでたなんて……言えねェ) ← top → ×
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