見覚えのあるソフトクリームのシルエット。

「村長さん?……の息子さん?」

彼はきょろきょろとあたりを伺いながら、誰も見ていないことを確認すると、とある喫茶店へと入っていった。

「くせェな」

「お風呂は昨日の夜と今日の朝とたった今さっき入りましたが?」

「テメェじゃねぇよ!……あと節水しろ!!」

キッドに節水を怒られる日が来ようとは。
早くアグアメンティを使えるようになろう。
そう心に誓った私の服をおもむろにめくり上げたキッドは、おへその横の魔力ゲージを確認し、「よし」一つ頷いた。

「いや……いやよしじゃないよ!!なにさらしてくれてんの!?!」

「テメェはいちいち煩ェんだよ」
片耳に指を入れて悪態をつくキッド。
舌打ちまでされたけど、え、これ私間違ってるの?キッドが正しいの?清らかなお肌見やがったのに?

「花も恥じらう乙女だぞこちとら!」

「ゲージは溜まったな」

「無視すんな!」

「中の話を聞く。透明になる呪文か、耳がすこぶる良くなる呪文か、そういうのはねェのか」

「あるよ!!」

「やれ。」

でもお水を出す呪文の方が……と、言おうとしたけどキッドが文字通り般若顔だったので、控えた。えらい、私。


それから覚えたての「目くらまし術」をキッドにかけてあげた。キッドは透明になった。

(どう?)

(体中を……水が流れてる感じだ。気持ち悪ィ)

(でもキッド見えなくなったよ!声出したり人に当たったりしたら流石に気付かれるから気をつけてね)

(で、この後はどうする気だ)

(んー……それじゃあね)




バッターーン!!

私が扉を開け放つと、喫茶店にいた数人の人達がぎょっとしたようにこちらを見て、腰を上げかけた。

「ういーっ、ひっく!」

対する私は、酒瓶を片手に酔っ払った演技で床に転がる。「もぉ飲めないよー」一滴も飲んでないけどね。

「お、おい、!!この子はあの海賊たちの仲間じゃ」

焦る声が上の方で聞こえる。

「何で鍵閉めとかないんだバカ!!」
「し、しめたと思ったんだが」

アロホモーラ(鍵よ開け)で、ちょちょいのちょいよ。

「あーー!ソフトクリームのおじさんだぁ!」

「や……やあ。すまんが今は職員会議中でね……。酔ってるとこ申し訳ないんだが」

「あ?わたしおじゃま虫ー?はーあい、退散しまぁーす」


ひゃらひゃらと笑いながらお店を出る。
さっきキッドと隠れていたところまでフラフラ歩く演技を続け、そこに入るなり酒瓶を捨てて身を潜めた。

「作戦成功ー」


私が飛び込んだ時キッドも一緒に店内に入ったのだが、ここから中の様子は見えないためどこにいるのかは分からない。
出てくる時は、中にいる誰かに便乗してバレないように……という計画だけど、果たして上手くいくだろうか。いやいかなそーー。キッドだし。体でかいし。

「ふう……」

体、といえばキッド、男らしい良い筋肉してたな……とさっきの一瞬を思い出して一人赤面する。なんだ私は。痴女か。

(……キッド、大丈夫かなぁ)
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