「ん?」 三つ目のホールケーキに取り掛かり始めた私は、ふとある事に気が付いた。 隣で気持ち悪そうにこちらを見ていたキッドに顔を向ける。 「そう言えばキッド、バイオレットさんのお宝は?」 あの花畑に眠っていたのは、そりゃお宝と言えばお宝だけど、バイオレット・スパークとは無関係の代物だ。 キッドはアア、とつまらなそうな目線をカウンターに向けた。 「ガセだな、恐らく」 「えー!」 「こんだけ島中に聞き回っても何も出ねェんだ。あの海賊共がどっかのバカに踊らされてたんだよ」 人騒がせな奴らだ、と受け取ったビールを盛大に煽ったキッドが、そこまで不機嫌そうではなかったのは、恐らく別のお宝を手に入れられたからだろう。 ローラを売るのは、未だにいい気はしていないけど、ジミールさんも同意の事だからもう口出しは出来ない。 「そう言えば、お前、また魔力溜まったのか?」 「え?」 「さっき新しいの使ってただろうが」 言われてみれば、確かにそうだ。 いそいそ服をめくって確認してみれば、ハートのゲージは三つとも空のままだった。 「もしかしてさっきの呪文で全部使っちゃったのかなー」 「あぁ?使えねえな」 「そんな難しい呪文じゃないはずなんだけど……って使えないって失礼な!!」 その時、お店の戸が開いてキラー達が入ってきた。 「ここに居たのか」 「おう。遅かったなテメェ等」 「準備に手間取ってな。邪魔が入った」 奥に腰かけながら言うキラーに、キッドは無言で先を促した。 「先日の海賊達が、俺達の船を乗っ取ろうとしていてな」 「あのダサバン海賊団!?」 「ださばん…?――いや、名は知らないが。俺達の居ぬ間を狙っていたらしい」 「で、どうしたんだ」 「沈めた。いけなかったか?」 尋ねたキラーだったが、キッドの笑みを見て愚問だったかと思い直したようだ。 「準備は整った。いつでも出航出来る」 「…予定より滞在が長引いちまったな。キラー、お前も一杯飲め」 キラーが頷いたのを見て、私は腰を上げた。 「先に船に戻ってるね」 キッドは少し驚いたようだったけど、私だって気の遣い所は心得ているつもりだ。 キッドから貰ったお小遣いは、ローブの中から取り出す前に遮られてしまった。 箒を持って店を出る。 夜風がひんやりと肌をかすめて、煙草の香りを運んできた。 「あ、ジミールさん」 やんわりと笑んで煙草を消した彼は、私を待っていたらしく、静かに口を開いた。 「出航する前に君と話がしたかった」 「……私も聞きたいことがあったんです。お店は、あそこがいいな」 ジミールさんはおかしそうに肩を揺らして頷いた。よかった。甘いものが好きなのは、嘘じゃなかったみたい。 私たちはいつかのお店に足を踏み入れた。 ← top → ×
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