「ローラが呪われた理由を知ってる?」

ジミールさんは私を見上げ、やや逡巡してから頷いた。

「彼女は話したがらなかったが、時を経てやっと教えてくれた。
――この世で最も憎い男を、殺そうとしたせいだと」

これで全ての辻褄があった。
私はジミールさんの両手をひいて立ち上がらせると、箱の崩れた場所に彼を立たせた。

「私の友人にハリーという青年がいます。彼が魔法界史上最悪の敵を追い払った時、彼は赤ん坊でした。でもその代償に、愛する両親を失いました。彼の母親の名前はリリー・エバンス。――ローラの娘だよ」

ジミールさんは目を見開いた。
「ローラの……娘?ローラには娘がいたのか……?」

「ハリーに写真を見せてもらったの。リリーさんは、赤毛に、明るい緑の瞳をしてた」

「ローラ!!ローラも赤毛だ、それに瞳の色は、瞳は……深い、緑」

「……ハリーは両親共に魔法使いだから純血。だけど、リリーさんはマグル生まれの魔法使いだったみたい」

ジミールさんをはじめ、キッド達はきょとんとしている。
ああ、少し説明足らずだったかな。


「魔法族じゃ無い人達のことを私達はマグルって呼ぶんだけど、ハリーのお母さん、リリーさんは、マグル生まれの魔法使いだった」
ハリーの話をよく思い返しながら告げる。間違いないはずだ。だって凄く驚いたのを覚えている。

「つまりリリーさんの両親は二人ともただの人間」

「そんな、……待ってくれ。ローラは魔法使いじゃなかったということか?それに、娘が居たって、…そんな事一度も」

「ハッ、愛人に娘の話なんざするわけねェだろうが」

「ちょっとキッド……」

「そもそも、その女にはガキが居て、そのガキにもガキがいたなら、テメェと出会ったのは随分歳くってからのハズだろう。テメェはババアに惚れたのか?」
ジミールに向けられた言葉に、彼は頭を抱えてしまった。

「いや、私の知っているローラは、女性というよりも少女に近い姿をしていた。――それに魔法を使うのを何度も見たんだ」

「ナマエ。その、マグルとやらは、なろうと思えば魔法使いになれるものなのか?」

「完全になるのは無理かな。ただ、リリーさんが魔女だったってことは、その母親であるローラの中にもその素質は少なからずあったんだと思う。だからローラは少しだけ魔法が使えたの」

憶測だと言われてしまえばそれまでで、なんの確証もないけれど分かるのだ。
ローラの痛みを共有した時、彼女の感情が波のように流れ込んできたから。


「でも彼女が倒したかったのは、とても力の強い悪の魔法使い。彼女は無理をしなければいけなかった。――それこそ寿命が縮むほどの無理を」

「それで、勝てたのか?」

私は首を振った。

「負けたよ、当然。相手にもされなかった。その身体に呪いを受けて、命からがら逃げ込んだのが、この場所」
ローラの深い悲しみが蘇ってくるようだ。

「その男を倒せないと分かった彼女は、せめて娘を生き返らせようと"時を戻す魔法"を使ったの。でも力のない彼女は魔法に失敗して、自分を取り巻く時間だけを巻き戻してしまった」

「それで若返ったってことか……?それもスゲェな」

「うん。きっと禁忌の呪文ばかりを覚えていたんだと思う。あがくように呪文を試しては命を削って、削って、もう魔法界に戻る力も無くなってしまった頃、ジミールさんと出会った。

嬉しかった。人に会えたことが嬉しくて、悲しくて。とても愛おしかったよ」

ジミールさんの目から涙がこぼれた。
うん、今の言葉は、私のものではなかったね

「驚かないでね。ジミールさん、


ローラは今もここに居るよ」
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