キッドの指示で船医のおじちゃんが私の容体を診てくれたけど、どこにも異常は無いと驚かれた。私の身体を内側から蝕んだ、あの黒い痣も、裂傷の跡も、もうどこにもない。残ったのは痛みの記憶だけだった。

「箱の中で私が受けた痛みは、…あれは全てそのローラの感じた痛みだったんだ」
私がそう告げると、ジミールさんは心底痛ましげに顔を歪めて膝をついた。

「君には本当にすまない事をした……。彼女が残したものがそんなものだったとは、考えも及ばなかったのだ」

「ハッ、中身は財宝か何かだとでも思ったのかよ」

「……恥ずかしい話、そんなような物じゃないかと思っていた」

ジミールさんは続ける。

「彼女が姿を消す前日に残した言葉を思えば」

「姿を消した…?」

「ああ、彼女を連れて島を出ようとした私に言葉だけを残して、彼女は行ってしまった」

ああ、その言葉を
私は知っている。

「don't forget me」
私の言葉に、ジミールさんは言葉を失う程驚いていた。

「な、ど……どうして君がそれを」
「この花畑に踏み入った時、誰かの記憶が流れ込んできたの。一瞬だったけど、すぐにジミールさんだって分かったよ」

「…俺達を呼ぶ前か」

「うん。ここには絶対に何か残ってるって思ったの。でも一人じゃ見つけられないとも思ったから、クロコにキッド達を呼んで来てもらった。
ここにあるものは全て、ローラがジミールさんの為だけに残したものだって分かってて呼んだの。


ごめんね、キッド……」

キッドは何も答えなかった。
裏切らないと決めたのに、こんな利用するような真似をしてしまった。


「……意味は何だ」

「え?」

「言葉の意味だ」

「……あれ」

そこで私は初めて、自分が彼らと話している言葉が英語で無いことに気が付いた。
まあ、自分でも知らない言葉を当たり前のように聞き取れて喋ることの出来る魔法はいくつかあるから、ダンブルドア先生あたりがそれを施してくれたのだろう。


「意味はね、」

「言葉の意味は、六年程前、偶然この島に訪れた魔法使いが教えてくれた。――“砕いて、あなたの為に使え” という事らしい」

「………?」

(砕いて)

砕いて、
あなたの為に


「…―――!!」





「思えば彼女は、一度も私の愛に応えてはくれなかった。―――やっとの事で砕いた箱の中は、彼女の苦痛で溢れていた。私は憎まれてすらいたのかもしれない。
出来もしない理想ばかりを奏でる無能な私が、彼女に愛されるはずも無いのに。



結局、全ては私の独りよがりだった」


「ナマエ」

キッドが口を開いた。

「泣くな」
「……っ」
「声が出ねえのか」
大きく首を振った。ちがう、

「なら、とっとと紐解いて見せろ。
……今回の件はそれでチャラだ」
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