キッドの拳が青い花を砕き、激しくガラスの崩れる音と共にナマエとキッド達を阻んでいた壁が消えた。

「す、すげえ、頭!!」
「ナマエちゃんは無事か!?」

「退け」

近付いたキッドだが、ナマエの傷を見て咄嗟に抱え起こすのを躊躇った。
「キ、」

「!!」

ナマエの瞼がゆっくりと開き、掠れた声が漏れる。
「ナマエ……」
先程までもがき苦しんでいたのが嘘かのような、安らかな表情にキッドの心臓は冷たく脈打つ。(何だ、…この胸騒ぎは)

「、オイ」

「キ…ド……ぁ」

「喋るんじゃねェ!―――喋るな…」

ナマエの身体の負担を思っての台詞では無かった。キッドは無意識に恐れたのだ。

ナマエはそんなキッドの手を弱々しく引くと、声を絞り出した。
「………、しか」
「…?」




「さみし、かっ…」



キッドは先程の躊躇いを振り解きナマエを掻き抱いた。
その途端、彼女の身体中に浮いた痣は薄まり、見る見るうちに顔に生気が戻っていく。赤みの差した頬には、ボロボロ大粒の涙が伝う。
「う、っうぅー」

「お……おい」

「、きっ、キ…ッド、ひっ」


嗚咽の隙間に何度も名前を呼ばれ、そのたびキッドは深く安堵した。自身の背に回された腕に徐々に力が込められていく。
「杞憂じゃねぇか…」
心配させんじゃねェ。軽く殴ると、えぶっと間抜けな返事が返って来た。






痛いより寂しかった。苦しいより、切なかった。呪いが身体を蝕む一方で、あの人に焦がれた心はゆるやかに壊れていったのだ。

「……魔法の力を、こんなに怖いと思ったのは初めてだよ」

キッドに支えられながら立ち上がり、私は彼を見上げた。

「伝説の死神は、本当は死神なんかじゃない。ただの一人の魔女だった」

彼は答えない。

「死神に騙されて命を奪われた僧は、本当は生きていたんだね。
奪われたんじゃない…―――奪われたかった。彼女を愛していたから。…そうだよね?

ジミールさん」
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