山の中腹、突然視界が開け、そこにあったのは美しい花畑だった。
ナマエの代わりにキッド達をこの場に引き連れてきたクロ子は、自分の役目は果たしたと言わんばかりに空に羽ばたいていった。
ざわりと、この場に足を踏み入れた瞬間に感じた何か。

「長居はしねェ方がいいな……」

「…違いない」

「それよりナマエはどこだ」

「あれじゃないか」

花畑の中央。ぽつんと小さな影が見える。
ナマエは自分のホウキや荷物を放り出して何かを探しているようだった。






「――オイ、何してんだ」

「何って……宝探し?」ナマエはキッドを軽く見上げて答えた。

「見つけたから呼んだんじゃねえのか」

「うンや、多分ここにあると思ったから」

あ、コレ頭キレるな。というのは居合わせたクルー総員が数歩後ろへ慄いた理由である。そしてそれは案の定であった。

「テメェ見つけてから呼びやがれ!!」

「だって一人で探すのしんどいんだもん!大丈夫。私の勘を信じて」

「どんな自信だ!!いいか、俺は手伝わねえからな」

「え!?ケチじゃん!ドケチでべそ!へぶっ」

「二人ともその辺にしろ。―――見たところ、ただの花畑だが」


キラーの言うとおり、そこは、なだらかな斜面を草と花が埋めただけの場所だった。
これと言って値打ちのありそうなものは見受けられず、当然宝箱などがあるわけでもない。キッドは不機嫌さを隠そうともせず尋ねる。

「まさか、この景色がこの島の宝だ、なんつーくだらねぇオチじゃねェだろうな」

「うっさいなー。この山でここだけ気配が違うんだから、何にもないわけ―――」

「、!!?」

先程まで座って花をかき分け、何かを探していた様子のナマエがおもむろに倒れ込んだのだ。
「ナマエちゃん!!?」
「ナマエ嬢!!」
慌てて駆け寄った彼らは、すぐに事態の異変に気付いた。




「どうなってやがる……!!」




死人のような顔色で地に伏せるナマエ。
だが、助け起こそうと手を伸ばせば、その手は何か見えない壁のようなものに阻まれて届かない。妙な悪寒がキッドの背を駆け上った。
「恐らく、魔法の類だ」

「――…全員、声かけてナマエを叩き起こせ!アイツにしか破れねェなら中からやるしかねえ」

「でも頭!ナマエ嬢の魔法の杖はここに」

「―――!?チッ、使えねえな!!」

「キッド!!」

杖を手に振り返る。
事態は既に、悪い方向へと転がりつつあった。

「ナマエの様子が変だ」
「!!」
先程までピクリとも動かなかったナマエが、突然目を見開き、胸を押さえてもがき出したのだ。じわり、じわりとナマエの顔や腕に黒い痣が浮かんでくる。

「な、何だあの痣!!」

「――息ができてねぇのか!?」

「違う、痛そうだ!!オイナマエちゃん!!」

キッドが拳を固めてその透明な何かを殴りつけたが何も起こらない。砕け散る様子も、曲がる様子もない。「ナカ」にいるナマエはしきりに叫んでいる様だったが声も遮断されてこちらには届かなかった。

「キラー」
「ああ!」
しかしキラーが刃をかざして挑んだところで結果は同じだった。

「まるで鉄のカゴだ………」
欠けた刃先をなぞりながらキラーは呟く。

こうしている間も、ナマエは涙を流して苦しげにのたうち回っていた。頭を抱え、胸を掻き毟り、喉を震わせて叫ぶナマエ。その声が聞こえないのはこの状況においては幸いだと、無意識にキラーはそう思った。

「頭!何か方法はないんですか!?」

「このままじゃナマエちゃんが…!!」

「うるせえ、分かってる!!」

焦燥に胸を焦がしているのはキッドも同じだった。ただ敵が魔法なら打つ手が無いのも事実。焦りが冷静さを欠く中で必死に思考を巡らせる。
(くそ…どうすりゃいい…!!)

「ナマエ…!」
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