あの後おじさんを探して、クルーの皆は色んなスイーツのお店を探し回ったけれど、おじさんが自ら営んでいると言ったお店にも、あのスイーツパラダイスにも、どこにもその姿は見当たらなかった。 「テメェ会った時に何でとっ捕まえとかねェんだボケ!」みたいなことをキッドに言われたけど、知った事じゃない!だって私にとってあのおじさんはただの親切なおじさんだったんだもの! 「だが、その伝説の話は怪しいな……キッド」 私とキッドとキラーは、休憩と言う名の小会議を開いていた。 「アァ。死神に魂を奪われた間抜けの話しなんざ、野郎共の報告にゃ一つも入ってなかったぜ」 「キッドもそいつ間抜けだと思うよね。あたしも」 「黙ってろ、ナマエ」 「あい」 「――西の山っつったな」 キッドは考え込むように口をつぐんだ。 やがて、何かに思い至ったと言わんばかりに極悪そうな顔をして席を立つ。 「キラー。ヒート達を集めろ……1時間後にアルヴィアス火山の入り口だ」 直ぐに立ち上がったキラーが店を出て行く。 私はぼうっとその成り行きを眺めていた。手の中で、空のグラスが氷を鳴らす。――からん 「……火山?」 「何ぼさっとしてやがる」 「え、ちょ……火山?キッド、今から火山いくの?」 「ああ」 「マジか……気をつけてね」 「テメェも行くんだよ!」 「いやだよ!」 か、かかか火山てアホか! 「噴火したらどうすんの!行く理由が見当たりません!」 「テメェが掴んだ情報だろ」 「ってことは、西にある山…あれ火山なの?このファンシーな島にそんな物騒なものあるにょ?」 「安心しろ。もう死んだ山だ、噴火なんざしねェよ」 キッドの言葉にひとまず安心する。 山違いであればいいと望むけれど、どう考えてもこの島の山は一つだけなのだ。 「ジミールの言う伝説は、恐らく作り話だ」 「え!でもウェイターの人も知ってたよ」 「お前が奴と会った店じゃ働いている男は店主一人だそうだ。――そいつも奴の部下だったに違いねェ」 「まさか……でもなんで?」 「お前、自分の素性を言ったか」キッドからの問いかけに頷く。睨まれた。 「うかうか自分の情報垂れ流してんじゃねぇ!このバカ!」 「ひででで!!!ごめんなさい!」 「利用されたんだよ。テメェは」 キッドが言うには、ジミールは、自分が与えた情報を私がキッドに伝えることを読んでいる。らしい。 で、こちらの頭数が多いのを利用して、お宝を探させ、そんで後から横取りしてやろうという寸法。らしい。――だとしたら、相当悪知恵の働く人物で、かつ命知らずだ。 「………でも、どうしてそんなこと断言できるの?」 酒場を出て山に向かう中、私はキッドの背中に尋ねた。 「良い人だったよ。ジミールさん……本当にただおとぎ話をしてくれただけなのかも」 「馬鹿か」 キッドは言う。 「海賊相手に、怯まず、媚びず、嘲ずに、近付いてくる輩は、大体が海賊(おれたち)を利用しようと考えてる。 ―――騙されるんじゃねェよ」 信用できる人間なんて、一握りいりゃ十分だ。 吐き捨てることも無くそう呟いたキッド。 「…」 私は取り出した杖を空に向けて、一振りした。 杖の先から舞い出た、ピンク色の小さな花びらを風にのせ、キッドにおくる。ふわり、ふわり 「みて、キッド」 肩越しに振り返ったキッドと目が合う。 「これ、桜っていう花だよ」 ――私が生まれて初めて、大切な人に贈った、せかいいち優しい花だよ 「ハッ、……テメェはそればっかだな」 (キッドはちっとも寂しくなさそうだね) (……だけど、私はそれが、すこしだけ寂しいよ)) ← top → ×
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