目の前に立ちはだかる海賊さん達の人数…ざっと30人。私は自分のできる攻撃呪文を指折り数えてみた。ひーふーみー…


「…キッド!あたしの助太刀期待しないで!」

「してねェよ」


ため息交じりに言われてしまうとそれはそれで傷つくのだけど、でもやっぱり自分の命は大切にしようと思うので、できる限りキッドさんの陰に隠れていようと決め……―――





「あああああ!ダメじゃん、キッド!ダメじゃん!」

「あ!?何がだよ」
思いっきりキッドのコートを引っ張って止める私に、キレそうなキッド。そんな怖い顔されたってここはひけないぞ!

「ソフトクリーム町長と誓ったじゃん!騒ぎは起こしませんって」

「バカ、売られた喧嘩だ。買わねェと俺の名に傷がつく」

「うう……うううう」
乱闘…スイーツ…喧嘩…スイーツ……!キッドの名?は、けっこうどうでもいい!!だがしかし大切なのはこの島で美味しいおいしいスイーツにありつけるか否かという事!
意を決した私はキッドの前に躍り出て、言い放った。


「乱闘にならない喧嘩の仕方…見せてやんよ!!!!」

こう見えて私、悪戯双子の遊びに付き合ってたので喧嘩慣れはしてます!ただ、彼らの考える事だもの。―――相手をおちょくるようなやり方であるのは間違いないのだ。
私はTシャツの裾をめくってハートをチェック!
ここ数日の頑張りのおかげで、ハートは3つに増えていた。――よーし!!


くるりんと敵に向き直り、杖を構える。

「ステュービファイ!(麻痺せよ)」

わけも分からないまま敵の一人が吹っ飛ぶ。続けざまに乱発して、襲いかかってきた相手にはプロテゴで盾の呪文を駆使した。

「リクタスセンプラ!(笑い続けよ)」
「タラントアレグラ!(踊れ)」
「エクスペリアームス!」
「オパグノ!(襲え)」
「デンソージオ(歯呪い)」


がむしゃらに連続して魔法を繰り出す。残念ながら、結局オパグノの時点で魔力のストックが切れたらしく、歯呪いの魔法で相手の前歯をガッタガタ言わせることは不可能になってしまった。それでも、まあ十分な成果だと言えよう。

私は杖を下ろして、腰に手を当てた。

「うーん。」

地面に転がる武器。武器。武器。
道には踊ったり、笑ったり、チョウチョと追いかけっこしたり、さらには寝っ転がってお昼寝している人達までいる。そのほのぼのした光景を見れば、誰も戦闘などと結びつけはしまい。私はふうっと汗をぬぐって爽やかに振り返った。


「良い仕事した!」

キッドはぽかんと口を開けて目の前の光景をひたすら凝視している。


「お前…!!」

「…」

「中々やるじゃねェか」

「ほ…褒められちゃった!」

「確かにこれは乱闘じゃねェしな」

「そうでしょう」

「だがまあ、80点だ。」

私が鼻高々になったところで何故かキッドは付け足した。そして襟首が引かれ脇にズラされると、どこからかスピードをつけて迫ってきていたナイフがビタリと宙に浮いて止まる。

「…っ」

「うっかり気ィ抜くと、風穴が空くぜ」


ニヤリと笑みを浮かべるキッドとは正反対に、私の顔はひきつるばかり。だ、大海賊時代…おっかねー!
「ところで…よォ、テメェ等」
クイックステップを踏みながら私にナイフを投げつけて来たらしい、海賊の男にキッドが詰め寄る。

「――お宝ってなァ、何の事だ?」
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