一通り歓喜し終えて、はたと気づく。この島への上陸は私のわがままが8割と言っていい。自覚している。多少なりとも申し訳ないと思っている。でも嬉しい。でも…アレだ。

「キッド…一緒に出かけてくれるかしら」


こんな身勝手なクルーのお願いを果たして船長ユースタス・キッドが受け入れてくれるかどうか。昔から「妙なとこばかり気にする」私にとって、それは最大の問題点であった。








「あ?テメェそんなところで何してやがる」

「ご覧の通り。甲板の隅でウジウジしてます」

「あんだけ騒いでて何でまだ上陸してねェんだ。ヒート達はもう行っただろうが」

「ごにょ」

「あ?」

「…キッド待ち」

「…」


キッドとて先程上陸前にナマエと交わした会話を忘れてたわけではない。実際覚えていたし、行こうと言われれば行ける準備はしてあったのだ。
だがその前にキラーと今後の針路について話しておかなければならず、それを終えてみるとナマエの姿が見えない。先走って行っちまいやがったか、と少なからず不満に思ったもの、事実。
――まさか、この暴走機関車が、自分を待っていたとは思いもしなかった。


「…そりゃ悪かったな。」

「何ニヤけてるん?」

「ニヤけてねェよバカ野郎!…さっさと行くぞ」

途端にナマエの顔が明るくなる。

「う、うわっはーい!」

飛び起きるようにして立ち上がったナマエは、キッドの同行許可を得て一気に舞い上がった。怒ってはいないらしい。さすが船長、懐のでかさは世界一だ!(さっきは部屋お花畑事件の事でゲンコツを頂戴してしまったけど)




かくして、上陸!




「そこかしこから甘い匂いが漂ってくるぅ!ハニデュークスさながらの幸福感。ふあー…しあわせほんとしあわせ」

「ああ、吐き気がするぜ」

「しないよ!?」

「大体なんだこの街。酒場が一軒もねェじゃねーか」

「だってお菓子の国だもの!えっへん!」

「何でテメェが誇らしげだ」

「さーあ!食べまくっちゃうぞー!!覚悟しろ、メルヴェイユ!!キッドのサイフが火を噴くぜ!?」

「殺すぞコラ……あ?」

「うげっ」

キッドは私の襟首を引っ掴みながら顔を上げる。数秒後、ザザッとどこからともなく現れたのは、すごーく凶悪そうな顔をした男の人達だった。私は嫌な予感を抱えつつキッドを仰ぎ見た。……おっつ、この人の方が何倍も凶悪そうだ!!


「よォ、テメェらさっき港にいた海賊だな」

リーダーらしきダサいバンダナの男は下卑た笑い声を上げながら、キッドに尋ねた。キッドの凶悪面を見た上でこうしてるわけだから、相当な勇気の持ち主なんだと思う。


「だったらどうした」

淡々とした様子の我がキャプテン。私はヒヤヒヤと両者に目を配らせた。


「テメェらのおかげで島の裏側からの上陸が楽になったぜ!」

「ありがとなァ、ギャハハ」

「悪ィがこの島の宝は俺達のもんだ」

「宝!?な、なにそれっ!!」
私が目をひん剥いて高らかに聞くと、相手の海賊さん達はピシリと動きを止めた。


「…宝探しに来たんじゃねェのか?」

「お菓子食べに来ました」

「冗談だろ」

「いやいや至って本気ですけれども」

「船長!やべェ俺達の失言だ!」



手下Aの慌てた声に
「くっそ、凶悪面にダマされたぜ!あの面で甘党とは…盲点だった」
頭を抱えて唸るダサ(い)バン(ダナ)船長。

「あ゛ぁ?誰が甘党だ、潰すぞ雑魚共!」
すかさず訂正を入れるキッド。

「ねえ宝って…!?もしかして超巨大プリンとか激甘ティラミスとかの事!?」
そして夢馳せる私。

暫くの間睨み合いが続いたが、やがてそれはダサバン船長の一言によって打ち切られることとなる。


「だが安心しろ野郎共…!どのみち敵なら、消しちまえば良いだけの話!!」


うぉぉおおと湧き上がった敵さんをうんざりと見やりながら、私は戦闘フラグが立ち上がった事を悟る。――ああ、ただ…ただ甘いものが食べたかっただけなのに。
隣でキッドは残虐に輪をかけたような楽しそうな顔をして指バキボキしてるし、フラグは間逃れ無さそうだ。

せいぜい巻き込まれないよう気を付けようと心に決めてキッドの後ろに回りながら、私は杖をぎゅっと握った。
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