「で、ですから、海賊の方の入港は認められておりませんので…」

「あァ?」

「誰もテメェ等に許可なんて求めてねーんだよ」

「それにこっちは略奪に来たわけじゃねェんだ。良いからそこ通せ」

「そ、そういうわけには!」

「何の騒ぎだ」

「うわー、ソフトクリームみたいな髪型の人だ!」

「ああ、頭…ちっと問題が。あとナマエ嬢。締まらねェから黙ってろ」

「ぎゃふん!!」


ヒートに発言を抑制されてしまったので、ナマエは大人しく人間観察と状況把握に徹することに決めた。
港に船を寄せ「今から上陸だぜ!」という時に行く手を阻んだのがソフトクリームのような髪型の、気の弱そうな若い男性だ。なんでも島の掟で海賊の入港は禁じられているらしい。そんなバナナ!あたしがこの島をどれだけ楽しみにしてたと思ってるんだ!!目と鼻と口とあらゆるところから変な液体垂れ流すぞ!!


「この島のログは1時間あれば溜まりますし、次の島との距離もそう離れてはいません…!なのでどうか」

「だそうだ。どうする、キッド」

「どうするもこうするも」

キッドは口チャック状態のナマエに目をやりギョッとした。

「テメェどんな状況だそれ!!」

「ギッドぉ、わだじ、わたし、この島が楽しみでだのしみでたのしみで…っずびー!ひっぐ」

「汚ねェな…」

正直なところキッドはメルヴェイユ自体にさしての興味も抱いていなかった。どちらかと言えば甘いものより辛いものの方が好みであるし、次の島が近いならこの島の停泊を省いても別に支障はない。問題はそこのアホだ。
ナマエがこの島を待ち望んでいた事は、船内の誰もが知っていることだ。


「オイ、テメェ」
溜息混じりにキッドは口を開いた。

「は、はい!!」

「食糧調達に数人。それと、…そこで号泣しているバカだけ上陸させろ。俺達は1時間後出航する」

「却下ァアア!」

「何でテメェだよ!」

「却下だよォ却下!ぐっす、えぐ、何が楽しくてあたし一人…!…ひとりぼっちじゃあ、全然たのしくありゃーせ、ん!」

「…文句言うんじゃねぇよ」

「ていうかキッドあたしとご飯いくっていったじゃん!」

「カラスと行け」

「クロ子はとっくに上陸…上空?してるよちくしょう!あたしを置いて!」


つくづくペットに見放されてんな…と哀れに思ったところで、また別の声が港に響いた。


「待たれい…海賊の方!」

「(うわ!またソフトクリームだ…何?流行り?)」ちなみに空気壊さないように心の中での発言だ。さすが空気の読める女。

「お父さん…!何故ここに」

「お父さんかい!!!…ハッ」

思わずツッコんじゃった!けど、船の方からも同じツッコミがいくつか飛んで来たから多分皆同じ所に注目してたんだろう。


「息子よ…今は村長と呼べ」

「は、はい。しかし何故ここへいらっしゃったのですか…?」

「この方達の入国を許可しに来た」

どういうこと?全員の頭の上にハテナマークが浮かんだところで、村長なる彼の後ろから飛んで来た白いふくろうが悠然と彼の肩に留まった。


「それというのも、このフクロウ、シュガーちゃんが近所の野良猫に襲われてたところを、こちらの船の方が救ってくれたらしくてな」

「俺達の船…って、まだ誰も下りてねェだろう」

「待ってキッド……まさか」

その時ナマエの背後から勢いよく黒い物体が飛んで来て、ナマエの背中に鋭く突き刺さった。キッドは確かな既視感を覚え、同時に納得する。恐らく村長の白いフクロウを野良猫から助けたのは、このカラス。

「この島で騒ぎを起さんと誓ってくれるなら、全員の上陸を認めましょう」
村長のにこやかな対応。そして背中を抑えて歓喜するナマエを横目に、キッドは大きく溜息を吐いた。


(クロ子おおお、おまえは、お前はやっぱりあたしの相棒だぁああ)
(つつかれてるぞ)
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