出航から何日かたった今日、ようやく待ちに待った瞬間がやって来た。遠くに見え始めた島にそびえるのは高い、高い塔。あの島のシンボル!ここからでもよく分かる程なのだから、実際は相当高いに違いない。この前キラーに話を聞いた時から心待ちにしていた島。
――メルヴェイユ!


「お菓子の、国!」




歓喜しながら甲板を駆け抜け、船縁を踏み越えたナマエは空へと舞い上がった。







「…毎度のことながらヒヤヒヤさせやがる」

「なんで箒で空が飛べんのかサッパリ分からねぇ!」

「おーい!お嬢ちゃーん!」

「俺はいつ落っこちるか気が気じゃねェよ」

「すげーもんだなぁ、魔女ってのは」

「俺も魔女になろうかな」


ぼーっと空を見上げるクルー達にのもとへやって来たキッドは、上陸前だというのにその腑抜け具合を見て若干苛立ちを起こしたらしい。気合を入れなおしてやると出向いた次第だ。

「何してんだテメェ等」

「頭…!!」

「もう直ぐ上陸だ!とっとと準備を………―――ナマエ!テメェそこにいやがったかァ!!」


頭上に向かって急に怒鳴り声を上げたキッドに、クルー達はビクリと肩を揺らした。空中のナマエもまた然り。うっかり箒からずり落ちそうになっていて、見ている側は始終冷や汗だ。だがしかしキッドの怒号は止まない。


「さっさと下りてきやがれ!来た暁にはただで済むと思うんじゃねェぞ!」

「ちょ!キッド!下りて来てほしいのかほしくないのか!」

「何もしねェから下りてきやがれブッ殺す!」

「嘘じゃん!何もするじゃん!」


ぎゃーぎゃーと上と下で言葉を投げ合う二人を遠目にするクルー達の所へキラーが現れる。
彼らの疑問の答えをキラーは確かに持っていた。


「朝起きたらな、部屋が花畑になっていたそうだ」

「…いつかやるとは思ってたけど」

「前からちょくちょくやってたもんな」

「頭の部屋…今花畑か」

「見てェような見たくねェような」

「俺は見たくねぇ」

「オレも」

キッドは般若のような顔をぐるっとクルーに向けて檄を飛ばす。

「テメェ等何くっちゃべってんだ!さっさと上陸の準備しやがれ!!」

「ア、アイアイサー!!」




「キッドー!」

憤慨するキッドを、ナマエは空から大声で呼ばわった。ギッと睨み上げた視線の先には、太陽を背にした満面の笑顔。
不覚ながら毒気を抜かれたキッド。


「島に着いたら、また一緒に出かけよう!」

「…テメェが俺の部屋を片付けたらな!!」

キッドの出した条件に返答はない。聞こえていなかったかもしくは聞こえていない振りをしたか。後者だったらブッ飛ばそうと心に決めて、キッドもまた前方に見える島へと意識を投じるのであった。
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