「キキキキキ、キッド!キッドさん!キッドの頭!」

「お前には一度痛い目見せといた方がよさそうだな」

「何で!?あた、あたし何かお気に触る様な事…っ」

「したかしてねェかっつったら勿論後者だ。」

「覚えがありません!いや、長風呂はしたけれども!水の無駄遣いとかそんなん全然してないし!」

「覚えがねェか。なら尚更教えとかねェとな」

「目がすわってますよ!せんちょう!」


状況を説明しておこう。本当は全然したくないんだけれどね。まず私はお風呂に入った。良いお湯だった。お風呂から上がった。部屋は風通りがよく潮風が僅かな心地よさを運んで来てくれた。この辺はまあいい。キラーがいた。キッドが私をベッドに投げた。キラーが去った。キッドは今、私の上である。


「ちょ、ちょっと、どうしたのキッド?」

「テメェな。ここがどこだか忘れたか」

「キッドの部屋」

「あァそうだ。で、つまり男の部屋だ」

「…」

「そんな無防備な格好で俺の前に出てきやがって」

「むっむぼうびって!」

キッドの言葉にようやく、彼の言わんとしている事が理解できて赤面。してる。多分。でもだって、皆お風呂上りはこんなもんじゃない!?ノースリーブにショーパンじゃない!?
私に跨って見下ろしてくるキッドはどこか愉しそうに口角を引き上げた。


「……テメェに娼婦まがいの事をさせるつもりは無かったが…――そうだな。」

「!」

「俺を愉しませてくれりゃ、それは善行だろうな。」

キッドの手の平が膝に触れ、するっと脚を撫で上げた時、私は真っ赤になったり真っ青になったり。とにかく頭がグワングワンした。と、とりあえず。



「ご、ごめんなさい。」




ごめんなさいと謝り、船の中では露出を控えるという約束をキッドと交わし、数十分後私はようやく解放された。

「何て乱暴なお説教……キッドのえっち!!」
部屋の端まで逃げてブーイングだ。鼻で笑われてるけども!

「ガキが。男は皆狼と襲わんなかったか?」

「イギリスは紳士淑女の国だバカ…。お嬢さん、お先にどうぞってやつね!」

「ハッ、女を先に行かせるなんて情けねェ…。テメェ等俺に付いて来いってのが男だろうが!!」

「く、くそう。確かにそっちのが格好いいし男らしい」

まさかここにきてイギリスの紳士観念を揺るがされることになろうとは…。ぐっと言葉に詰まっていれば、キッドが真面目な顔に戻った。


「そういや、さっき奇病がどうの言ってたな」

「え、あ、うん」

「見せてみろ」

「えっち!!」

「殴るぞ。いいから来い、バカ」
暫くじっとゴネていたけどキッドがそろそろ怒りそうだったから、仕方なく傍に寄る。

「捲って見せろ」

「……はい」

「あ?何だこりゃ」

「あれ」

服の裾を捲っておへそを出した私だったが、異変に気が付く。
「増えてる…」
さっきまで二つだったピンクのハートは、今見ると三つに増えているのだ。


「さ、さっきは2個だったんだよ」

「…さっきってのはいつだ」

「お風呂入ってる時!…ど、どうしよう。これ病気?――もしかしてだんだんコレ増えて増えて、最終的に体中ピンクのハート柄になっちゃうんじゃ…!?」

「聞いたことねェな。……風呂入って出るまでに、何かしたか?」

「かいたりとか!?してない!かゆくないもん…。普通にお風呂洗って、服着て、キッドに説教された」

私がそう言うとキッドは急にひらめいた顔つきになった。
「杖持って来い」

「え、」

「いいからさっさとしやがれ!!」

「うわわわかったよー!怒鳴んなし!」
怒っているふうではないもののメッチャ急かしてくるキッド。私は慌てて隣の部屋に行き、トランク(この前買った)の上で寝ているクロコを追っ払って杖を取り出した。


「持って来たけど…どうすんの?」

「この椅子ブッ壊せ」

「………え。」

「早くしろ」

キッドがえげつない笑顔で差し出してきたのは、キッドの部屋のかなり頑丈そうな造りの椅子。

「魔法で?」

「決まってんだろ」

まだ魔力溜まってるか分かんないんだけど、と言いかけるも、キッドが何故か自信に溢れていたので溜息を落として杖を握り直す。まあ、やって出来なかったらそれまでだ。

「レダクト(粉々)!」
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