「ふんふふーん!はんはーん!」

「お、随分ご機嫌だなナマエ」「何かイイことあったんかー?」

「今からキッドんとこのお風呂入りに行くのー!」

ご機嫌もご機嫌。廊下をスキップしながら進む私の背後で、クルーの人達が目を剥いていたなんて、当然私は知る由もない。





「コンコン!キッドー!お風呂いただきにきたよー!」

「殺すぞ」
さっきとあまり変わらないスタイルでお酒をちびちびやっていたキッド。

「いいか。無駄遣いはすんじゃねェぞ」

「心得てます!ねえ、シャンプーどれ?」

「テメェで勝手に調べろ」

「右の赤いのー?」

「ああ」

面倒臭そうなキッドの返答を受けてもなおご機嫌な私はさっさと脱衣場に入った。終わったら栓抜いて洗っとけ。と遅れてお達しが来たので、そこもご恩と潔く承諾する。キッドはメイクも落ちていたからシャワーだので済ませたんだろう。
髪と身体を洗い流してそうっと湯船に浸かる。この船に乗ってから初めてのお風呂だ…!


「気持ちい――――!!!」

煩ェ!バン!うわ、キッドの奴ドア蹴ってきた!さいあくだ。
まあ私も少し煩かった自覚はあるので今度は心で叫ぶことにした。ふうう。癒される。やっぱお風呂だよね。午前中クロコに海に叩き…突き落とされたから疲れてるんだ今日は。
温かいお湯に心の底から幸せを感じていると、ふとある事に気が付いた。


「何だこれ」

ざば、と湯船の中で立ち上がる。
おへその上に模様…1センチくらいの、ハートの模様が2つ連なっているではないか。

「変だな…。刺青なんてした覚えないし。結構かわいいけど……痣かな。ピンクだけど。」



なんか変な病気だったら困るなぁ、と思考を巡らせるが、生憎病気関連の知識は一切無い。後でキッドに見てもらおう、と楽観的に考えてもう一度湯船に腰を下ろした。うん、やっぱりお風呂はいいな。



**



「キッド。いいか?」

「あァ」

開いた扉の向こうには海図を持ったキラー。針路の確認に来たんだろう。

「……」

「どうした、キョロキョロして」

「いや。…ナマエの姿が見えないな」

「あの間抜けなら風呂だ」

「出直すか?」

「あ?馬鹿言ってんじゃねェ」

「クルーが騒いでいたぞ」


キラーが言うには、ナマエと俺が今真っ最中かもしれない!という噂が船内に広がっているらしい。どうりで、さっきから妙に足音がしねェと思った。

「いらねェ気遣いだ殺すぞテメェ等、と伝えとけ」

「分かった。」

「むしろ何故そうなった」

「今からキッドの部屋の風呂に入りに行くと、嬉々としてナマエが公言して回っていたようだ」

「脳たりんが。」

まあそんな噂が往来してりゃアイツに手を出す奴もいなくなるか。って、俺は何でさっきからあんなすっ呆け魔女の心配ばっかしてんだ?いや、そもそもアイツが不用心すぎなのが悪ィ。どこの平和惚けした国で生まれ育ったのかは知らねェが、ここじゃ警戒心の無い奴は必ず痛い目に遭う。そうだ。俺のクルーになったからには、あいつにもしっかり教え込んでやる義務が
「キッドー、あがったよー」

「。」

「……ナマエ。お前そのナリは一体」

「あ、キラー来てたんだ!お風呂はいんの?お湯抜いちゃったよもう?」

「……」

「あ!そうだそれよりキッド見てこれ!!あたしもしかしたら謎の奇病にかかったかもしんない!ほらオヘソにハートの痣が」

「キラー」

「…何だ」

「海図は後だ。やっぱ出てけ」

「…ああ。」

ノースリーブの裾を腹までめくりながら歩いてくるナマエの首根っこを引っ掴んでベッドに投げる。勘違いすんなよキラー。
 襲う気はねェ、教育だ。

(………パーレイ!!!)
(黙れ。)
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