ゲージ




部屋でまったり買った服を眺めていると、突然ドアが荒々しく叩かれて開いた。
「オイ。」
当然のごとくキッドだった。


「ねえキッド。ノックをするという習慣はないわけ」

「ねェ。つーかしただろうが」

「え!!あれノックだったの?…威嚇かと思ったよ、ほげげげ」

部屋にズカズカ入ってきたキッドは私の頭を気の済むまで握り潰し、そしてようやく用件を言い始めた。


「風呂掃除しろ」

「…ふぁい」

「不服そうじゃねェか」

「だって広いんだもん」

「文句言わずにとっとと行け!」

「あうっ」


部屋から蹴り出された私はブツブツ文句を言いつつ廊下を歩いた。歩きながら名案が浮かぶ。
「そうだ!お風呂洗ったら一番風呂いれてもらおーっと」
こっちの世界に来てからこの方ゆっくり湯船に浸かる機会もなかったのだ。あ、言い忘れていたけど私、大の日本マニアです。ジブリとかもう悶え苦しむほど好き。魔女の宅急便が一番好き。


話しを戻そう。
ホグワーツでは、必要の部屋と呼ばれる不思議な部屋があり、私はそこで毎日お風呂に入っていたくらいである。必要の部屋は本当に必要なものしか出してくれないから、これで私がどのくらいお風呂を愛しているか伝わったはずだ。



そうこうしている間に風呂掃除を終え、湯船にお湯を落とす。
船でお風呂とか贅沢〜楽しみ〜ウッホッホ〜!と、アホさながらに浮かれに浮かれながら、お湯を落としている間キッドの部屋にダッシュした。



ガチャ、バン!!

「キッドー!風呂掃除終わったよ!!」

「テメェこそノックしろ!」

ゴーグルとコートを外してラフスタイルなキッドは、お酒のボトルをガン!と置いて怒鳴った。やばい、なんか全然怖くないや。


「あ、ごめちょごめちょ」

「(イラァッ)」

「ねえキッド、私お風呂洗ったから一番風呂に入ってきてもいい?」

「駄目だ」

「ジーザス!!」
ショックのあまり床に倒れた私に、冷ややかな視線が降り注ぐ。しかし諦めない。私は立ち上がってキッドに詰め寄った。すごいウザそうな顔されたけど知んない。


「なんで!!な・ん・で・よ!!」

「…」

「あたしお風呂だいすきなんだよ!?そりゃ、そりゃこの船に乗る時は雑用だし当分はお風呂生活バイバイだなって思ってたけど!」

「…」

「だからこそこの船にお風呂があるって聞いた時死ぬほど嬉しかったのに!バカ!キッドのバ、ぶひゅっ」

「馬鹿はテメェだバカ。自覚ねェのか?」

「ふゅ?」

キッドの片手でお口をタコさんにされた私は、首をかしげる。


「うちの浴室に鍵なんてねェぞ」

「!」

「うちには女に飢えた荒っぽいのが首揃えてんだ。テメェみたいな細いの一瞬で餌食だぜ」

「……」
再度床に膝をついた私。鍵がないくらい、「ただいま入浴中」の札でどうにかなると思ってたのに。キッドにそう言われてしまえばもうどうしようもない…じゃない。


「風呂くらいで落ち込んでんじゃねェ!」

「だって…」

「テメェにはこの部屋の風呂使わせてやるって言ってんだよ!」

私はぱっと顔を上げた。

「え…!」

「雑用には勿体ねェ待遇だがな…おい!」

ものすごく不本意そうなキッドの脇をすり抜け、バスルームと思しきドアを開ける。
「わああ!」

シンプルながらも、一人で浸かるには十分な広さを持つ木製の浴槽。壁には丸い小窓があり、なかなかのハイセンスだ。


「キッドー!!」
「!!」
バスルームから飛び出した私はその勢いのままキッドに飛びついた。ひどいしかめっ面をビックリさせて私の激突にニ、三歩よろけたキッド。また怒鳴られたけどやっぱり気にしない。


「ありがとう!!ほんとに、うれしい!」

「チッ……良かったな。」

「お風呂はいつ使っていいの?!」

「好きに使え。ただし、水は無駄にすんなよ」

「はーい!!」

小躍りしそうな勢いでキッドの部屋を出る。さっき出しっぱなしにしていたお湯がそろそろ溜まる頃だ。

「戻ってきたら入るからねー!キッドありがとー!!」

うるせえ!だって。照れ屋さんだけど、優しいねキッド。
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