ばさっと翼を羽ばたかせ、私のお腹の上にとまったカラスに視線が注がれる。 漆黒の羽。炯炯と輝くルビーの瞳。足の指が一本欠けているそのカラスは紛れもなく、カラスの『クロ子』だった。「魔女と言ったらフクロウ!」なご時世を非難の目を向けられながらも共に懸命に渡ってきたあたしの相棒。 「おまえ!なんでこんな所に居るの?」 「…」 「もしかしてあたしと一緒に飛ばされてきちゃったの?ねえ」 「…」 「おいこらシカトぶっこいてんじゃないよ!はるかちゃん怒っちゃうぞー…」 「…何やってんだ、お前」 「え?あ!キッド!」 いつの間に起きてきたのだろう。メイキングも髪のセットもバッチリなキッドが不機嫌そうに尋ねてきた。びしょ濡れでカラスを抱える私は、彼の目にはさぞ異様に映った事だろう。 ヒート達は持ち場に戻り、居合わせたキラーがキッドに説明をしてくれた。それを聞いたキッドは呆れ顔で… 「カラスに突き落とされてたらこの先生きてけねェだろ」だってさ。ほっとけ。 「自己紹介するね。キッド、こちら相棒の『クロ子』です。クロ子、こちらこの船の船長キッド」 「自己紹介じゃねェしどうでもいい。」 「ちなみにこのクロ子はホグワーツ在住時代、手紙とかも一切運んでくれなかった、あたしの部屋であたしのお菓子盗み食いとか平気でしてたねぼすけさんです」 「捨てろ」 「イヤ!なんてこと言の!」 「船にカラスがいる意味が分からねェだろ」 「それでもクロ子はあたしの相棒なんです。この世界で、たったひとりきりの、あたしの……ちょ、ちょ、痛!クロ子痛いよさっきから!」 「つつかれてんじゃねェか!」 キッドは怖い顔をして人差し指を突き立てた。 「いいか。主人に従えねェイヌはゴミだ」 「鳥だけど…」 「…」 「え、いっだだだだっぁ!」 「そういう意味じゃねぇ比喩だ理解しろ。」 「は、はーい!!だからその頭グリグリ止めて出ちゃう脳みそ出ちゃうよ!!」 やっとこさキッドに解放された時、クロ子はふわりと舞い上がりキッドの肩で羽を休めた。やっべ!やられる!と私は立ち上がったが、その心配は無用らしかった。 「…こいつ。」 くぅと小さく唸って、黒い嘴をキッドの頬に触れさせるクロ子。そのまま、アイツは何とキッドのほっぺたにスリスリしやがった。 「く、クロ子てめぇぇえええ!何なんその懐き方!」 相変わらず私には冷めきった視線を投げている。 「ハッ…媚び売る相手は解ってるって事か」 「やめてよ!その尻軽女みたいな扱い!」 「こいつオスだろうが」 「え、何で知ってんの」 「勘。…まあいい。気に入ったぜ」 キッドはニヤリと笑って目を細める。カラスとキッドってなんか不吉な組み合わせだな、と心の中で溢したのは内緒だ。 「俺の船に乗せてやる。カラス」 クロ子はまるでその言葉に従うように一度頭を垂れ、再度私の方へ戻ってきた。私、戦慄。―――こいつ自分で事を解決しやがった。前々から侮りがたしとは思っていたけど…クロ子め、もしかして本当はアニメーガスとかだったりすんのか?だとしたら…だとしたら、あたしの着替えシーンはバッチリ見られてるじゃないか!! 「クロ子ォ…!勝負しろ!!!あっでだだだ指!指ィ!噛むなばか!」 「テメェなめられてんじゃねぇの?」 解りきった事を呟いて船室に消えていくキッド。 ともかく、こうしてクロ子は無事乗船を許可されたわけである。つれない相棒だけど、向こうとの繋がりがまた増えた。 「頑張ろうね、クロ子!」 さっきみたいにクゥって頷けば可愛いもんを。一瞥された私は、とりあえず着替える為に船内に戻るのであった。 ← top → ×
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