相棒




「あ・の・ひーとの・ママに会うために、ズンチャチャズンチャチャ、い・ま・ひとりー電車にのーったの」

「何故いるテメェ…」

「あ、おはようキッド!」

私は寝起きの不機嫌そうな顔でベッドから体を起こすキッドを見た。

「ノックしやがれ!つーか入ってくんな」

「それより見てみて!どう?かわいーい?」

街に買い物に行った時、パン屋さんに貰ったんだ!と自慢しながら身を翻す。ふわりとスカートがひらめいた。
キッドは無い眉を寄せつつ私を上から下まで眺め、一言。

「地味。」

「どちくしょう。」

でもまあ地味と言われても仕方がない。だってこの服はお洒落をメインに作られたわけじゃないもの。
紺色のワンピース。赤いリボン。
もう分かる人はお分かりだろう…!!私はあの時、パン屋のおじちゃんにどれだけありがとうと言ったことか…。


「私今から空中散歩いってくるから!許可くれ」

「大人しく寝てやがれ」

くそ、まだ6時じゃねェか死ねよとぼやくキッド。彼の脇に行ってどやどや騒ぐわたしに、折れたキッドはようやく許可を出した。

「いいか、6分だ。」

「やっふーっ!!!」

嬉しさのあまり扉を蹴り開けて出て行った私。その背中にキッドの怒号が追いかけてきたけど(「ナマエ―――!!戸閉めて出やがれェ!!」)まあ振り向くのは止めようね。



「おー!ナマエチャン!早起きだな、オイ」

「ガキとジジイは早起きだってな」

見張り台の上から声が落とされたので上を向く。
「ワイヤー!ドレッドヒート!おはよう!」

「何だ俺の呼び方!?」

「ガキとジジイとか言うからだよ!」

「何だと!」

「見張りご苦労様です!ワイヤーさん!ワイヤーさん!」

「ワイヤー。ちょっと待ってろ俺下行って格の差を見せつけてくる。」

「ちょ!来ないでよ!お尻ぺんぺん!」

「間違えた。痛めつけてくる。」

「喧嘩すんなよお前ら…」

ヒートと軽いトークを交わした私は、持っていた箒を置いて思い切りのびをした。キラキラキラキラ、まるで海面に宝石がばらまかれているみたい。輝く海を前に深く深呼吸。

「どこかに行くのか?」

「あ、キラー!ちょっと散歩に」

キッドの許可取ったよ!と言えば、そうかと頷かれた。それにしても昨日皆あんだけ騒いでたのに、意外と起きてる人が多いな。
寝坊してるのってもしかしてキッドくらいのもんじゃないの。


「もしかしてキッドってねぼすけ?」

「まあな。」
マスクの奥でキラーが小さく笑った。
「アイツは船長だから、いいんだ」

「へー」

「寝起きはすこぶる悪いしな。」

そんな寝起きの悪い船長様のお部屋で朝っぱらからかっ騒いでドア蹴っ飛ばして出てきちゃった!てへ!とはさすがに言えずに視線を泳がせた。

「さ、さーってと、ちょっくら行ってきますか」

「気を付けてな」

「はーい!」

箒に跨って船縁に飛び乗った私。ひらめくスカートが視界の端に映った時、頭の中には再び例のテーマソングが流れた。

「いざゆかん!私は今からキキにな、ふぐぉっ!!!」

「ナマエ!!」


―――バッシャーン

水しぶきで視界がいっぱいになる。飛び立つ寸前の私の背中に、何か鋭利なものが突き刺さった。

「ほぐっ、げほっ。なっ…何!?」
さっと頭上を何か黒いものが横切る。海面から必死で顔を出して上を見上げれば、船縁から乗り出したキラーやヒート達がいた。


「大丈夫かナマエ!?今引き上げてやる」

「ナマエちゃんって能力者だっけ!?」

「ちがうよ魔女だろ!おいナマエ!無事かー!?」

幸い右手にしっかり掴んでいた箒のおかげですぐに海面から離れる事ができた。ゆっくり上昇する箒にぶらさがったまま甲板まで行き着いた私は、言うまでもなくそこに倒れ込んだ。

「だ、大丈夫か??」

「せなかがしぬほどいたい。」

「背中!?さするか!?」
そう言って私の背中をさすってくれるヒート。こんな時は優しいんだね。見直したよ。さすってる場所痛いとこと違うけど。


「私の背中に何かが追突したんですけど…」

「ああ、俺達にもそう見えた。」

「アレじゃないのか?」

キラーが上の方を指差した。体を起こした私も見上げると、そこにいたのは――――…

「ク、クロ子!!?」

「ぎゃあ!」

ホグワーツに置いて来たはずの、私の相棒カラスであった。
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