「本日は、お部屋のお掃除を、やりたいと、思います。」
「…」
「おもいます!!」
「やれよ。」



初日の苦難



連れないキッドは放っておいて、私はさっそく部屋に足を踏み入れた。右手に箒、左手にモップ。昨日買った服はキッドの部屋に(勝手に)避難させてある。今着ているのはキッドの古着だ。ちなみに勝手に着てる。白いTシャツは裾の部分をおへそで結び、ズボンの裾もまた5回くらい折れないと履けないのが少々空しい。


「よーうし、やるぞー!」

杖一振りで綺麗にすることを掃除と言ったらダメなのよ!これは成績優秀ハーマイオニーの最大にして唯一の受け売りであった。


「それはね、はつこいという名のー、罠ぁ、それは気のまよーいーなのよ」

「…どんな鼻歌だソレは」

「キラー!」

「どうだ、掃除の方は」


捗ってるか?といった質問をしに来たらしい。そんな事より切実にヘルプミーだ。そんなわたしの心情を読み取ったか、はたまた部屋掃除の進行状況を見てか、キラーは溜息を吐いた。そして部屋の中を見渡す。


「お前棚の上はきちんと拭いたのか?」

「いえ、まだ」

「先に床の掃除をしたら、棚の上に溜まったほこりを後で落とせなくなるだろう」

「あ。なーる!」

「それからベットのマットは甲板で日干しさせておくといい、随分使ってないからな」

「……お」

「?」

「オカン…!」


キラーに尊敬の眼差しを向ける。有難くも何ともなかったらしい「オカン」の称号を手に入れたキラーは、心なしか足取りを重くさせて、私の部屋を出たのだった。ということで私はさっそくお掃除再開に踏み込んだ。

「まずは…マットを干すんだよね」

サイズはそれほど大きくないが厚みがあり、干してふかふかになったらとても気持ちが良さそうだと思った。しかし、いかんせん…重い。私は背負うようにマットを持って歩く、若干引きずってるけど気にしない。


「ふんぬ、ぬぬ…ぬぬ!」
「…何してんだ」
「え。その声は、キッぷぎゃ!」
「おい!」

マットに潰された私は、直ぐにキッドに助けられた。何よりも悲しかったのは、わたしが苦労に苦労を重ねて運んでいたマットをキッドがいとも簡単に持ち上げてしまう事だ。男女の力差とはこうも歴然としたものだったのか。



「重くて重くて死にそうだったん」

「テメーは魔女ならそれらしく魔法使ったらどうだ」

「お掃除は自力でやれと母ちゃん…じゃなかったマイフレンドが言ってたんです!」

「そうか。じゃあ頑張れ」

「ぶひょぇ!」

「……潰れてんじゃねェか」

「急に離さないでよね…!はやくどけてぇ」

「…」

「ぐえ!ふげ、ちょ、踏まないでよー!!」

遊ばれた末ようやく助け起こされ、キッドにマットを干すのを手伝ってもらって、私は再び掃除に取り掛かった。
キッドに手伝ってと言ったら睨まれた。
テメェ何で俺の服着てんだ。だってさ。今更じゃんかね?バーカ。











「ふーーーー…やっと思わった。」

結局一人で掃除を終わらせた私。えらい!
足跡だらけだった床も綺麗に磨き上げてピカピカだ。

「夕方になったらマットを戻して…またキッドに手伝わせよ」

床の上で伸びをすると、だんだん眠気に襲われた。逆らうこともないかとそのまま瞼を落とせば、私はのび太君もビックリな速さで眠りについたのである。








「おい」

「んぁ」

「起きろチビ」

「キッ…ド」

「さっさと起きねぇと」

寝ぼけ眼をこすっていると、お腹をするりと撫でられた。そして。
むぎゅ


「ぎゃ―――!!!」

「煩ェ!」

「お腹のお肉つまむとかマジ!人道に非ず!!滅されよ!!」

「よし起きたな。来い」

「聞けい!…ってあれ。」

飛び起きた後で、ベッドの上に乗せられたマットに気が付く。
窓の外はもう薄暗い。


「運んでくれたの?」

「アイツ等がな。」

「そっかー………てか身体痛いんだけど。」

「床で寝てりゃな」

「私をベッドに運んでくれるという優しさは?」

「俺が止めた。運んだら起こしちまうだろ。」

「うん、絶対優しさじゃないよね。だってニヤニヤしてるもんね。」

「飯だ。」

「意地悪!!」
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