乗船前の試練



「覚悟は、出来てんだろうな」

キッドのぎらめく眼光に圧倒されつつも、私はこくりと頷いた。
夕暮れ時の港で向かい合う私とキッドの間に緊張が走った。私達の距離は数メートル。お互いの手には武器が握られている。
私は杖先をキッドに向けながら、彼の手の中で鈍く光る銀色を見つめた。

「…もし失敗したらさ、出航前に大参事だね。」
痛すぎてあたし乗船拒否るかも。そう呟けば、キッドは嘲笑を浮かべて言った。

「それはねぇよ」

「どっから来るのその自信」

「勘。…だが、お前の力はまだ底尽きてねぇ。もし尽きてても、そん時ゃそん時だ」

「他人事過ぎだよ!」

「うるせぇな!いいか、俺がこれを放ったら、テメェは保護呪文とやらでそれを防げ」

「……分かった。」

魔法相手に効いても、それが物体で有効か分からない。

だけどキッドは、私が私の身を守るために必要最低限の力は持っているべきだという。
だからこうして、危険ながらも実験に付き合ってくれているのだ。



「…―――来い!」

「いくぜ。」

キッドがビュッと勢いよく投げつければ、鋭利な先端は私に向かって一直線に宙を裂いた。
私はキッドの勘を信じ、杖を振るう。


「プロテゴ!(護れ)」

ヴゥン…。叫んだ瞬間、青白い空気の膜が私の前に広がった。(で…できた)
しかしほっとしたのもつかの間、私が杖を払ったせいで、それは勢いをつけてキッドの方へと弾かれてしまったのだ。

「、キッド!!!危ないっ」

「チッ」


大参事を想像して手で顔を覆ったが、つんざく様な悲鳴はいつまでたっても聞こえてこない。
恐る恐る目を開ける。―――そこには、いつかのように手の平を突き出して、攻撃をぴたりと止めるキッドの姿があった。


「こんなもん俺には当たらねェよ」

「………ふう」

私はそっとキッドの傍に寄り、地面に落ちたそれを拾い上げた。そっか…これ金属か。

「大丈夫なら大丈夫って早く言ってよねー!もー」

「あぁ?」

「心配しちゃったよバッキャロー」

「テメェが勝手にしただけだろ」

「まっ!この子は親に向かって何て口きくの!」

「お前の息子なんざごめんだ」

「もう、素直じゃないんだから。…でもこれで盾の魔法はマスターしたね!」

そう言えばキッドも満足そうに頷く。

「攻撃はおいおいマスターしとけ」

「はーい!…ふう、でもよかった。刺さんなくて。あ!これ返すね」

「いらねェよ!…刺さっても痛くねェだろこんなもん」

「キッドってどんだけ強靭な肌なの?鋼鉄なの?キッドはアリでも乙女の柔肌にはちょっと厳しいよ」

「なめてんのかテメェ」






「おーい!頭−」

「出航の準備できやしたぜー…って、魔女娘も一緒か?」

「ああ、なんか喧嘩してんな」

「何で頭フォーク持ってんだ?」

「さあ。」
top
×