「おいバババア!」

「なんかおおくね?」

「おまえ本当に魔法使いだったのかよ!」

「だからそう言ってんじゃないの!」

「何で飛んでんだよ!」

「魔女は飛ぶものです!」

「アハハ!スゲー!スゲーなおい!ババア!」

「ねえもっと可愛らしく喜べないのかな君」


すっかり空中にも慣れたらしいキット君。
私は広場の真上を旋回しながら訪ねる。

「どう?いそう?」

「あ!なあ見ろよ!キッドいるぞ!」

「ほんとだ」

「おーい!」

「おーい!ってあれ?何か叫んでない?」

耳を澄ます。
――早く見つけて戻ってきやがれ!
…はーい

「皆こっち向いてねぇからわかんねーよ」

「んー。」

声が拡声器並みに大きくなる魔法はあるけど、また無駄なもんに使いやがって、とかキッドに怒られたらいやだしなぁ…。
「ああ!そうだ。」

私はもう一度杖を取り出した。

「オーキデウス!花よ!」

もう何度もお世話になったその呪文で広間に花をばらまく。
適当に飛びながら花を巻いていると、すぐに人々の視線が上に集まった。



「なんだあれ!」「あ!あの子はこの前の魔女さんじゃないか?」「魔女の姉ちゃんだ!おーい」「ナマエちゃーん!」

「おまえって知り合い多いな」

「…うん。」

私が手を振って彼らに応じている中、キット君は真剣に人混みを見下ろしていた。

「…」

「…」

「………あああ!!」

キット君が指さした先、白い馬の銅像の近くに、一人の少年と父親らしき男の姿を発見した。

「あれがそう?」

「…うん。」

「こっち見てないねぇ。…呼んでごらんよ」

私がそう言うと、キット君はあからさまにたじろいた。
「で、でも…でもよ」

「大丈夫。ちゃんとあたしがついててあげる。…ほら!」

キット君は頷いて、下を向いた。


「……っとうちゃん!」

「だめ。そんなんじゃ聞こえない」

「、父ちゃん!」

「まだ」

「父ちゃん!!」

「もっと、もっと…!」


「―――父ちゃん!!!!!」

男の人の顔がこちらを向く、私と、私の後ろにいるキット君に目を向け、彼の顔にはみるみる驚愕が打ち広がった。


「キット!!!!」

「兄ちゃんっ!!」


私はゆっくり下降しながら、振り向かずに彼に尋ねた。

「二人の顔が見える?」

「…みえる」

「二人の手が、空に向かって伸びてるの、見える?」

「…見える」

「よかったね、キット君。
 ――お父さんも弟さんも、君を探しあぐねていたみたい!」

「、う゛ん…!!」

後ろで彼が大きく頷くのが分かった。
箒が地面に下りるのより早く、箒から人混みに飛び下りたキット君。彼は、大きく手を広げる父親の胸へと飛び込んだ。

「どう、じゃぁん!!!」

「キット!おまえ、手を離すなと言ったのに…!!……っ、とにかく」

無事でよかった。
そう繰り返す男の人。
(まったく…杞憂もいいとこだよ。)

――俺は子供だからっ

「こんなの、誰が見たって愛されてるじゃん」

小さく微笑んだ私は、そっと地面を蹴った。
早くキッドのところに戻ろう。きっと寂しがってる。…と、いいなぁ。(願望だよ?いいでしょ別に。)


「オイ!!」

人垣はすっかり超えたところで、明らかに私に声が向けられた。
お父さんの腕から降りたキット君は、自分の服で涙を拭って、真っ赤な目で私を睨んだ。

「おまえ、海賊なんだろ!」

「うん。」

「『ぐらんどらいん』は、やさしくねぇって父ちゃんが言ってた!!」

「…うん。」

「だから、」

「?」

キット君は小さな拳をめいいっぱい突き上げて、ビッと中指をたてた。
顔に浮かべるのは、年相応の無邪気な笑顔。

「絶対…また会うぞ!!!!―――…ナマエッ!」


きっと、これは彼なりの「ありがとう」。


「…――生意気だよ!クソ"キッド"!!!」


私は笑い返して、箒の柄を引いた。キッドのいる場所へ戻る前に、きっともう来ることのないこの町を見納めよう。


「……」

沈みかけた夕日に染まる、この町の名前はボーナル。
海賊、ミョウジナマエの始まりの地。

(ここはとっても、いい街だった。)
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