怨みを糧に生きろ、だなんてとんでもない励ましだ!さすがキッド!と傍らで絶句していた私。しかしキット君は何を思ったのか、しばらく黙り込み、やがて涙を拭って顔をあげた。
「わがっだ!!」

それでいい、とばかりに頷くキッド。
私は腑に落ちないながらも、キット君が立ち直ったようなのを見てほっと安心した。

「それじゃあ、お父さん探しを続行しようか」

「おう!」

「………オイ」

「ん?」

「何だこれ」

キッドが何だと言って掲げて見せたのは、自分の手と繋がれたキット君の手。ちなみに彼はもう一方の手で私の左手を握っている。

「…キッドも一緒に探したいの?」

「あ゛ぁ?ざけんな!」

「だって」

「このガキが勝手に繋いでるだけだ。オイ、離しやがれ!」

「やだね」

「あ゛ぁ?」

「いやだ」

びきっとキッドの額に浮かぶ青筋。


「…まあ、キッドとキット君励ましたわけだし。旅は道ずれと言いますか」

「ざけんな。…ナマエ」

「え?」

「面倒だ。上から探せ」

投げやりに言い放ったキッド。
それはつまり飛べという事か。

「別にいいけど、箒ないよ?」

「船から取ってこい」

「分かった!」

たぶんキット君のお父さん探しで魔力も蓄積されているはず。キッドは盾と攻撃がどうのこうの言ってたけど……多分自分の言ったこと忘れちゃってるんだ。
じゃあいーや、と私は杖を掲げた。

「アクシオ、箒!」

「「!!」」

船の方向に向けてそう言うと、数秒して小さな影が空を横切ってきた。

「きたきた。」
見事にそれをキャッチして見せると、ほとんど同時に私の頭にげんこつが落とされた。

「いってー!いってー!何するキッドこんちくしょう!」

「何だ今の新しいの!魔法じゃねェだろうな!!」

「私は魔女です!魔女は魔法を使うものです!」

「何正当化してんだバカが!俺は、船に"走って"取りに行けっつったんだボケが!」

「……ハシッテ」

ハシッテ、だと?魔法使い的に言えばそれはかなり邪道だ。水道の蛇口を手で捻ることくらい邪道。

「頭をよぎりもしなかった!」

「チッ…まさか今ので全部使い切ったわけじゃねェだろうな」

「わかんないよー確かめる術がないもの」

「じゃあ後で確認するぞ。とにかく今はこのガキの始末が先だ」

「いや人聞きわっるぅ!」

「俺のこと殺す気かよ」

「ほらキット君警戒心バリバリじゃん!かわいそうに」


私は頭をさすりながら箒に跨った。
さっきから通行人の皆さんの視線が痛すぎるけど、もう気にしないようにしよう。ちなみにキット君の心底怪訝そうな視線も相当キてる。

「キット君は私の後ろ!」

「…何してんの」

「その変人を見る目やめて!」

「ガキ、文句言わずに乗れ」


キッドに追いやられて私の後ろに跨るキット君。
この子の顔は本当に信じてない。ちくしょう!ビックリさせてやろうか。

「でも落っこちたら嫌だから、ちゃんとあたしに掴まっててね!」

「は?おまえほんとに何こ、」

「しゅっぱーつ」

ぐんっと地面を蹴る。
同時に遠ざかる地面に、真後ろからキット君の大絶叫が聞こえた。

「ぎゃーーーーーー!」

「ちょ、も、き…うるさ!鼓膜の危機だよ!」
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