「キッド君のパパってどんな人?」 キット君の口の悪さと人相からすると、もしかしたらカタギの人じゃないのかもしれない。そんな憶測をしつつ尋ねると、 「フツーの父さん」 となんとも煮え切らない返事がかえって来た。 「フツーのとうさんってどんなもんなのかな」 「顔も名前も性格もフツーなんだよ」 「…探しようがないな…。でも一応特徴聞いとく」 「顔、フツー。髪型、フツー。目、口、鼻、フツー。」 「(ギリイッ)…」 「……あ。でも目の下にほくろがある。」 「この惑星にごまんといるわ」 「俺と一緒」 キット君は自分の目の下を指して言った。…確かに、よくよく見つめるとホクロがひとつ。 私がこの短時間で得た彼の父親の唯一の情報はそれだけだった。 (探させる気あるんかな…) 私がそれを口に出さないのは、キット君の細長い目がさっきからしきりにあちこちへ投げられているから。やれババアだウンコだと悪態をつきながら、彼の小さな手は私の手を離さないようにぎゅっと握っているから。 「…よぉし!こうなったら手当たり次第、探してみよう!!」 「声うっせ」 「。」 *** 私は、昨日職業体験をして回った場所を中心に聞き込みを始めた。しかし手持ちの情報が情報なだけに、目撃したという人には巡り合えない。 私達はもう一度広場で捜索活動を再開する事にして、来た道を戻り始めていた。 「お前、知り合い多いんだな」 「ん?…あー…まあね」 「この町に住んでるのか?」 「違うよ。明日には出航するみたい」 「旅人?」 「海賊。」 キット君は私を見上げて、ハナクソを投げつける仕草をした。こ、こんガキャ…! 「お前みたいなへなちょこが海賊なわけあるかよ」 「ば、ばかにしないほうがいいぞ!なんせあたしは、海賊・兼・魔法使いなんだからなっ!一口に二度おいしい!」 「あそこの角曲がったらせーしんかあるよ」 「頭おかしい人ちゃうわ!!」 「…ま、もしほんとでも、お前じゃ父ちゃんにはかてねーけどな」 「何であたしがキット君の父ちゃんと戦わなきゃいかんのだよ」 「海賊は戦うもんだろ。」 「同業者とはね」 「だから。」 「………え?」 「だから。」 「キット君のお父さんって……もしかして、海賊?」 「え、今更?」 「初めて言ったくせに!!」 つーか、え!?キット君のパパ海賊?うそじゃん!キッドじゃないだろうな!でも…そんな!彼女とかいなそうだなアイツってずっと思ってたのに! いや、奴は海賊だ。テキトーに抱いた女の人を孕ませてポイッとかフツーにしそう。怖。マジ女の敵。 「ね、ねえ…キット君のお父さんの名前…」 いや待てよ。コレはいくらかダイレクトすぎる!! 「名前…の、最初の文字教えてくれる?」 「いいよ。キ」 「キィィィ!!?キッドめ!!!!あの女たらし!女の敵!」 「誰が女の敵だ」 「ん?待てよ。でもキッドの顔って『フツー』とはカテゴライズしにくいな。顔、閣下。性格、鬼。目、鼻、口、悪。だもの」 「目、鼻、口、悪って何だ」 「いや全体の90%は悪意で構成されてますっていう…オッハー・キッド!はうあーゆー!?」 ボカッ… 「で。何だこれは。テメェのガキか?」 「こっちの台詞だい!!」 突如現れたキッドにゲンコツをお見舞いされた私を、キット君はしげしげと眺める。 「誰こいつ。お前の男?」 ――ゴンッ 「生意気なガキだ」 「なんで私をぶつの!」 「テメェのシツケがなってねェようだ」 「あたしまだ学生よ!?子供はおろか結婚もしてないのに!」 「行こうぜ」 「ぐお!」 私の手をぐいっと引っ張って歩き始めるキット君。しかしキッドがそれをみすみす見逃してくれるはずもなく、前を通る際にシャツの襟をガッシリと掴まれてしまった。 「ぐるじーっすきっどさん」 「どこ行きやがる」 「コイツは俺のだ、離せよ」 「あ゛……?」 「キ…キット君。胸きゅんした」 「「キメェ」」 「うそだろ!」 まさかのハモりを頂いてしまった。 ショックで打ちひしがれたかったけど、早いとこキッドの機嫌をどうにかしないと町に被害が出そうだったから私は大人しく状況を説明する事にした。 「念のため聞くけど、キット君。」 「あ?」 「キット君のパパってこいつ?」 「は?チゲーよババア」 「………。ごめんねキッド」 「俺にガキがいるように見えるとは、テメェの目も大概だな」 「あっちゃこっちゃで女の人とっかえひっかえしてそうだったからつい…」 殴られるかと思ったけどキッドは何も言わなかった。うん、きっと否定できないんだ。 (キッドに遊ばれる女の人を助けてれば魔力稼げそうじゃね?) 「……そういやお前、親父は海賊だっつったな」 「うん」 強面のキッドにも物怖じせずに話して見せるキット君。 「今この島に居んだろ?なんて名だ」 「ちょっと出航前に喧嘩とかかんべんしてよー!あたし穏便にいきたいです!」 「喧嘩?しねェよ。殺し合いだ」 「ますますあかんわ!」 キッドと私に挟まれて歩いていたキット君は、海の方に視線を投げた。 そして寂しそうな声で小さく告げる。 「……いねェよ。死んじまったもん」 ← top → ×
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