彼、キット君(推定10歳)は迷子らしい。お父さんと弟と買い物に来ていたところ、気が付いたらはぐれてしまったんだとか。そして気付いたと同時に涙がちょちょぎれたという彼に、かわいくもなんともない泣き声と泣き顔と泣き態度だったね、と告げれば、コーンを持つ部分の紙を投げつけられた。うん。かわいくねえ。 「ババアは何で俺に声をかけてきたんだ?」 「キット君。私の名前知ってる?」 「知らねえ」 「うそこけバーカ」 「うんこマン」 「ぐっ……。ナマエだよ。さっき自己紹介したでしょ」 「ああ、なんかほざいてたかも」 「ババアは止めて。ナマエさんとかナマエちゃんとかナマエ様とかそういうカンジに呼んでくれる?はい、せーの」 「ババア」 「くそしね」 もうこれ以上彼と一緒にいたくないのが本音だ。キット君は幼い見た目に反して膨大な悪口のボキャブラリーを保持していると見た。なんてったって毒というには殺傷力が高すぎるレベルの台詞がばんばか出てくる。(例えるなら…鎌?いや、モリ?ナタ?……釘バット。もうそれでいいや。殺傷力釘バット。) ここは彼のお父様や弟様を探す手伝いをするべきなんだろうけど、今現在私の心のヒットポイントが2桁を切っている。このままいけば瀕死である。出航前にそれだけは避けたい。 あ。キット君にソフトクリームをあげた事で魔力蓄積されてないかな。 「プロテゴ!」 期待を込めて杖を振ったが、その場には沈黙が訪れるばかり。盾の呪文を使うにはまだ「良いこと」をし足りていない、というわけか。 溜息を吐いて横を向けば、キット君はかなり怪訝そうな目をこちらに向けてきた。あ、あかん。 「…大丈夫?」 し、心配、だと・・・。 この瞬間キット君の言葉の殺傷力は、私の中で「釘バット」から「火炎放射器」にまで跳ね上がった。ま、まじこええ。瀕死だ。ゲージ真っ赤っか。こんなの耐えられない。 「ごめんキット君。私用事思い出しちゃった。おうちに帰るね」 「かよわい俺を一人置き去りにしていく気かよ」 「ごめん今の台詞全文カタカナに聞こえた。カヨワイオレ?カフェオレか何かの一種ですか」 「俺と俺の家族を一緒に探せ」 「いやだ!」 「拒否権はねぇ。返事は」 「はい!」 「よし。んじゃそろそろ行くぞ」 「あれ!」 なんでだ。思わずとびっきりの良い返事をしてしまった。 多分キット君の言葉と行動の節々からキッドっぽい絶対的な何かを感じてしまったせいだと思う。 こうして私は、真っ赤な髪の、口と目つきの悪すぎる少年と共に、彼の家族を探す冒険に飛び出したのであった。(訂:飛び出さざるをえなかったのであった。) ← top → ×
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