「出航までまだある。さっさと魔力稼いで来い!」
そう言ったキッドに船から追い出され、私は町にリリースされてしまった。(でも、船の場所は把握したから次はちゃんと戻れるはず)


「…盾と攻撃かぁ」

私的に攻撃よりも治癒系の呪文の方が使える気がするんだよなぁ…。だってほら、盾は攻撃から防げるけど、あたっちゃったらそれまでだし。
とか言って勝手にエピスキー(癒えよ)なんて覚えて来ちゃったらキッド怒るんだろうなぁ。怖!

「くわばらくわばら」

「ギャー!!!」

「うおっ…な、なんだこのがきゃ、びびらせやがって」

すぐ右下で突然上がった大声(というか絶叫)に思いっきりビビってしまった私は、その声の発信源である子供を恐々見下ろした。ギャー、というのは泣き声だったらしい。ギャーから始まり、ウオーン、ワギャー、あああああ、みたいな。とにかく、うるせえ。キッドだったら秒で殺ってる。
それでも私は魔力回復の名のもと、優美女(優しい美女)として彼に話しかける事にした。


「どうしたの坊や?」

「うるせえババア!!」

「え、絶句。」









生意気すぎる口をきいて来たクソガキ、名前をキットと言うらしい。うちの船長はキッド。クソガキはキット。お間違えのありませんように。
しかもなんと彼、キッドのチャームポイントでもある真っ赤な髪まで被せてきたから大変だ。ややこしすぎる。大きな違いは身長くらいのもんだ。…うん、見間違えはしないな。


「なあババア、この俺様を餌で釣ろうったってそうはいかねぇんだよ」
堤防に腰かけたキット君は、鋭い視線を海に向けてそう言った。彼の片手には半分以上かじられたアイスクリーム。フレッシュバナナ味。

「君どうしてそんなに辛辣なの?わたし何かした?」
私はひと二人分ほど空けて、彼の隣に座っている。

「泣いてる俺様にソフトクリームを与えた」

「いいことじゃんかバカヤロウ!」

クソ生意気なキットは、真っ赤な髪をがしがしかくと、私に向かって中指を立ててきた。もしかしてソレの意味分かってないんじゃないかな。「オハヨ」とか「アリガト」的意味だと思ってるとしたらかわいそう。私が今ここで軌道修正をかけてあげよう!
「キット君。それどういう意味か知ってる?」
「うん。死ねだろ」

理不尽過ぎて気絶しそうになった。
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