「現時点で、お前が使える魔法は」

キッドの口から「魔法」という言葉が出るのにも、だんだん違和感を感じなくなってきた。本人もそうだろうなと思う。実は最初少し恥ずかしそうだったのを私は知ってる!

「何ニヤニヤしてやがる。さっさと答えろ」

「うんーとね。まず木を動かす呪文。それとお花を出す呪文」

キッドの枕に向けて杖を振ると、枕からお花がポポポポポンと咲き乱れた。
「やったね!これで春日和のほのぼのした夢が見られるよ!それになんとファブリーズいらず」「むしれ。今すぐ」「…あい」




「他には武装解除かな。」

「つまり変わってねェのか」

「あ、その気になれば空も飛べます!」

「変わってねェんだな」


テメェさっさと人助けして魔力溜めて来い。このままじゃ役に立ちやしねェ、と吐き捨てたキッド。海賊の台詞とは到底思えない。

「魔法使いってのは他にどんなもんが使えんだ」

「えーと」

「分かってると思うが、戦闘に使えるもんだけ言えよ」

「…とりあえず保護呪文かな」
ちぇっと内心で舌打ちしつつもそう答えた。

「保護?」

「こうブワーッと盾の膜が出るんですよ。あ、でもあれ魔法には有効だけど、銃とかも弾けるのかな…わかんない」

「じゃあ後で試してみるか」

「え、どうやって?」

「他には」

「(怖い怖い怖い!)……ほ、他には、治癒の呪文とか」

「攻撃的なのはねェのか?」

「ありますよ。気絶させたり、相手を切り裂いたり、石にしたり、色々」

キッドは部屋の中を歩き回りながらへえ、と相槌を打った。悪巧みをしている顔だ、これは。
「あの、一応言っとくけど!私戦わないからね!」

「は?」

「だって良い事したいんだもん!」

「俺の船に乗ってて戦わねェなんて言わせねえ!!」

「いや言うよ!あたしが戦わなくていいくらいキッドが強いから、あたし一緒に行くって言ったんだよ!?」

「チッ!しかたねえな!!」

「え、早っ!」

キッドは一瞬醸し出した不機嫌さをどこかへ放って、しかしやや真剣に私を見た。

「ただし、自分の身は極力自分で守れ」

「…」

「強盗や略奪、戦闘には参加しなくて構わねェ」

ホグワーツにいた時も、自分の身は自分で守れ、と言われたことは何度もあった。
でも…何に対して?
私はハリーのように宿敵を持って生まれてきたわけでもないし、マルフォイとも比較的仲が良い。私の世界に、私を狙う敵はいなかったからしっくりこなかった。
でもここでなら分かる。

「お前が次魔力を溜めたら、盾と攻撃呪文を使えるようになれ」

私は大きく頷いた。
キッドはキッドなりに、私の身を案じてくれているんだと思う。


「…ああ。テメェの知る中で、一番攻撃的なのは何だ?」

すぐに浮かんだものがいくつかあったが、咄嗟に口には出せなかった。
どうにか誤魔化そうとする心の奮闘は何故かキッドにはすぐにバレてしまう。

「何度も言わせんな。」

「う」

「正直に言わねえと殺す」

「……。」
私は深く息を吸い込んだ。

「死の、呪文。」
top
×