キッドのゴーグルは首にかけたまま、泊めてくれた夫婦に心からお礼を言って店を出た。さーて、まずは生活用品調達だ!

「…ところでこの金貨いくらくらいあるんだろう」

単位はガリオン、じゃないんだった、ベリーだっけ?
思い悩んだ私は傍を通りかかった適当な人を呼び止めて、麻袋の中身を見せた。

「あのこれ、いくらくらいあると」

「ひっひー!!!」

「え」
袋の中身を見た人は皆仰天した様子で逃げて行ってしまう。えらい大金なのか、それとも悲鳴あげちゃうくらいしょぼいガリ貧レベルのはした金なのか、それすらも分からないまま、結局私はお店に出向くことにした。
「まあどうにかなるか」



1回目の買い物では金貨の額がさっぱりなので、試し買いということでキャンデーの小袋を買った。
店員さんにお財布を渡してお勘定を任せたことで(「すいませんお姉さん、私お金の単位いまいちで…」「あら、ふふ。ええいいわよ。貸してみなさいどひー!!」)袋に入っていたのは相当な額だと理解した。使い方も何となく分かった。
それから数時間、町を散策して物資調達。
女の子に必要なあれそれや動きやすそうな服や、美味しそうなお菓子を買い終えた頃には、太陽はちょうど頭の上あたりに来ていた。
いやあ、けっこう時間くったな。ドンキみたいに全部同じ店で買えたらいいんだけど。

「ドンドンドン、ドンキー、ドンキホーテ」

「呼んだか?」

「ふぎゃう!!」

いつからいたのか、もしくはちょうど通りがかったのか、私のすぐ後ろには昨日のモコフワピンクさんがいた。確か名前は、

「ドンキー・ドンフラミンゴさん」

「フッフフフッフ…そりゃ強そうだな、オイ」

「あいたたたた、鼻、鼻もげちゃう」

しばらくしてようやく彼は私のキュートなノーズを解放してくれた。地味に痛い。こんなことならもっと鼻油を分泌しておくべきだった。…私きたねーな。

「鼻攻撃されたの初めてっす」

「フフフ!ちょっと高くなったんじゃねェか?」

「まじで?ありがとうドンキーさん!」

「ドフラミンゴ。いい加減覚えてくんねーと、そろそろ痛い目見るぜ?」

「そっか、ドフラ………ぎゃあああ」

「フッフフフ…」

人間って、脳みそから指令を受けて、それが感覚神経から運動神経を経て行動に繋がるんだとか。違うかな?すっごいうろ覚えなんだけど。
でも私の今回の行動はアレ、脳みそから発信されることも無ければ感覚神経も運動神経も反射神経も何もかもぶっ飛んで起こった。

「なななな、なにこれええ」

ドフラミンゴの腰に回される私の腕。
「オイオイ、何だァ?一体」
ドフラミンゴは言いつつも楽しそうに笑っていて、私を引き剥がそうとはしない。
白昼堂々道の真ん中でこんなことをやっている私たちは、道行く人から白い目で見られている。あ、昨日のパン屋さんの…あ、ちょっと待って逃げないでー!

「相変わらず積極的な嬢チャンだ」

「ち、ちがうかんね!勘違いしないでよマジで!体が勝手に、そのっ」

「身体が勝手に?フッフフフ、そんな事あるわけねェだろ。あァ、本能ってやつか?」

「ち、っちがうううう!私そんな変態とちゃうう!」

そう言っている間も私はドフラミンゴのシャツにすりすりと頬を摺り寄せていた。本当にどうなってるんだこれ!もう自分の体じゃないみたいに、動きが謎!つーかこのままだと私マジで変態じゃね?
本格的に泣きそうになった時、腰をかがめたドフラミンゴが私の耳元でささやいた。

「真っ赤だぜ?ナマエ」

「ちょ、えろい!」

「オトナだからな。フフ、そんなに俺が好きなら、攫っていってやろうかァ?フッフフフフ」

「お、お断りしますマジで!ちょ、えろい!違う!誰かぁあぁ助けてー!キッドー!」

ピクリ。
ドフラミンゴの無い眉が動いた。

「ナマエチャンよォ…その『キッド』ってなァ、まさか」
「ふぉ…?」

「ドフラミンゴ」

第三者によってかけられた声に、私とドフラミンゴは顔を横に向ける。
そこに立っていたのは腕組みをした小柄なおばあさんだった。
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