私は意外とやればできる子だと思っていた。実際やればできた事は多々ある。だけどお仕事に関しては話が別だったらしい。と、お仕事体験をさしてもらいつつ街を練り歩いていた私は悟った。正直、キッドどころじゃない。


興味津々な皆に、ちょっとだけ今までのバイト体験を垣間見せてあげよう。



自分に合ったお仕事を見つけよう★お花屋さん編

「やだそのエプロン似合うじゃない!やっぱり可愛い女の子は可愛いお仕事をするものよ!」
「そ、うでっすね……っ」
「あら?どうかしたの、そんなクシャクシャな顔して…」
「…っ、っ……う」
「?」
「ぶえっくしょォォい!!いくっし、いきしっ!!」
「…」
「ブーンッ(鼻をかむ音)ずいません…私、花粉症だったみた、いぶしょい!!ひぶっ」

⇒花粉症につき、断念



自分に合ったお仕事を見つけよう★パン屋さん編

「初めてにしてはいい出来だ!」
「うわ!あたしうまっ!」
「じゃあさっそく試食してみようか。これで味が良ければ是非うちでぐはぁーっ」
「てっ店長うううう!!!」

⇒殺人的な料理下手につき、断念



自分に合ったお仕事を見つけよう★工事現場編
「じゃあここで道路封鎖の旗持っててくれ」
「はーい!」

「…」
20分経過
「…あ、ここ通行止めですはい!あっちの道に…ええ」
40分
「…」
1時間
「…」
1時間40分

⇒暇につき、断念



自分に合ったお仕事を見つけよう★ケーキ屋さん編
「あらん、かわいいじゃない?あなた!うちのケーキと一緒に食べちゃいたーいわーんっ」

⇒店長オカマにて、逃走



自分に合ったお仕事を見つけよう★ウェイトレス編
「ご注文お決まりになりましたらお呼びくださーい!ってアギャー!」
「お前昨日の泥棒娘ッ」
「(昨日の勘違い海賊ー!)」
「野郎共、この女とっちめてやれ」
「ちょ、ストッ…!!キ、キッドー!!ヘルプミー!」

⇒店内大乱闘につき、入店禁止




「……。」何故だ!私は今日一日であんだけ色んなお仕事を体験したのに、アタリがこない!やっぱ今のご時世ユーキャンで資格とんなきゃだめなもんかな。でも私面白いことじゃないとやる気でないんだよな。
ベンチに腰かけて項垂れる私を、影が覆う。
見覚えのあるシルエットが、夕日でオレンジ色になった地面に伸びてため息が出た。


「……どうせあたしはダメやろうですよ」

「まだ何も言ってねェ」

「え?もしかして慰めに…」

「いいか、今日お前を見てて分かった。お前はとんだでくのぼうだ」

「おっふびっくりした!」

まさか傷ついた小鹿ちゃんを更に刺すとは。さすが海賊。えげつねえ!
私が胸を傷めている間に、何故か横にドスッと腰を下ろしたキッド。最初から持っていたのかもしくはポケットに入れていたのか、どこからか酒の瓶を取り出して栓を開ける。
その仕草を眺めながら、もう私の胸に会った瞬間のような恐怖は宿っていない事に気付かされた。


「楽しい事が好きで、面白ェのがやりてェんだろ」

「…うん」

「ハッ、簡単じゃねェか!俺と海へ来い」

もう何度目にもなる勧誘に、呆れよりも興味の方が湧く。
でもその気を悟られては癪なので、あくまで素っ気なく尋ねてみた。

「…海賊はそんなに楽しいの?」

「そこらへんのちんけな職業に比べりゃよっぽどな!」

「へ、へえ……」

海賊って言ったらやっぱジャック・スパロウだよね!フック船長も!宝探ししたり冒険したりするんだろうな…!海ってちょっと怖いけど船旅にはすごい憧れる。
キッドがニヤリと笑みを浮かべてる事に気付いたのはその時だ。


「気が変わったか」

「まっまさか」

「じゃあ、この世界を何も知らねェ不憫なテメェに、一つ知識をくれてやる」


聞かない方がいいと頭では分かっていても、湧き上がる好奇心が決心を揺るがす。
大人しくしている私を見て可笑しそうに喉を鳴らしたキッドは話を始めた。

それは、私の知るどんな物語より壮大で、ただ、ただ、

「未知の海、グランドラインの更に向こうにある大秘宝、ワンピースの話だ」
――ロマンが、あった
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