「オーキデウス(花よ)」
「…!」

険しい表情で腰を上げかけたキッドの鼻先に、愛らしい花束が現れた。
「あ?」
拍子抜けしたのはキッドだけではない。突拍子もない行動に出た私に向けて銃や短剣を構えていた彼の部下達もだ。

「あは。びっくり?」

「テメェ…」

「おっつ、マジギレかんべん!…だって」
私は笑ながら降参のポーズを取る。

「今攻撃的な魔法をやって見せたら、きっとあたしが欲しくなっちゃうよ?」

杖先に咲いた花をパキリと手折って手渡すと一瞬で払いのけられた。ナマエスーパーしょんぼり。

「欲しくなる、か。…えらい自信じゃねェか」

「や、だってすごい便利だし!もはや一家に一台レベル」

「テメェで言うな。…仮に俺が欲しがったとして何が悪ィ。どのみちテメェには強い奴が必要なんだろうが」

「あ…俺強いです的な?」

「頭の強さなめんじゃねェぞ!!」
「テメェなんか一捻りだボケ!」
「覚悟しやがれ!!」
「何で戦うカンジになってるのこれ!」

盛り上がり始めた外野が「いっちょやったってくださいよ頭ー!」「こんな小娘ボコボコぐちゃぐちゃに!」みたいなノリになってきた。じ、冗談じゃないぞ。かよわいわたしがこんな筋骨りゅーりゅーおばけに勝てるわけないだろ!

「黙れ」
そんな彼らを大人しくさせたのも当然キッドである。

「テメェの性格がようやく掴めてきたとこだ。…面白ェ方に流れてくタイプだろ」

「ギクッ」

「…だとしてもますます分からねェ。俺の船でこの海に出て、面白くねェはずがねェ。…一体何を拒んでやがる」

「…っ〜拒む理由はいくらだってあるよ!」

こちとらダンブルドア先生からの手紙を聞いてる最中から、ずっと考えていたのだ。

「自分の性格は自分が一番良く分かってる。ホグワーツに帰りたい!早く。」

「…」

「普通に考えて、海賊なんかやってたら魔力回復するどころかむしろ減っちゃうんじゃね?と思う。これが理由その1!理由その2!危ない事はしたくない!だって女の子だもん」

「、テメっ、何を」

「理由その3!…――エクスペリアームス、武器よ去れ!」

「「「!!!」」」

部下の人が全員武器を取り落したのを確認してから、窓枠を乗り越える。武装解除よ、出てきてくれてありがとう!
船の甲板に走り出て、そのまま船縁を踏み台に宙に飛び出した。
後ろからドタドタと追手の足音が聞こえた頃には、私はとっくに浜辺に着地していたから凄いと思う。

「戻れドチビ!話がまだだ!」と大声でのたまうキッドに、振り返って、私も大声で返す。

「恩返しできなくてごめんなさい!」

「あァ!!?」

「だけど分かって!私こう見えてすごい単純なの!美味しいものも、楽しいことも、面白いのも、全部好き!―――だから、


 この世界を好きになりたくない!あたし、絶対帰りたくなくなちゃう……!」


ホーグワーツにはいつか必ず帰る日が来る。良い事をすればするだけ早く。だからこそ私はこの島で地道にポイントを稼いでいきたいのだ!

関われば関わるだけ世界を知ってしまう。

クザンやキッドの、魔法でも何でもない可笑しな能力を目の当たりにした時。
キッドが自分の野望を誇らしげに口にした時。

――正直、わくわくした。

たぶんだけど。おそらく、この世界は私のドストライクなんだと思う。



「それじゃあ、旅の続きをがんばって!オラ、応援してっぞ!」
「チッ、待て!」

キッドの声は聞こえなかったことにして林に飛び込んだ。手当たり次第に「木よ動け」の呪文をかけておいたから、そう簡単に追手は来れないだろう。
ひと時一緒にいた彼らに心の中でもう一度さよならを言って、私は今晩の宿を探しに、再度街に繰り出した。








「キッド。…アレが気に入ったのか」

「分かるか」

「当たり前だ。…今のお前の顔を、見せてやりたい」

「クククッ…」


「この世界を好きになりたくない!
あたし、絶対帰りたくなくなちゃう……!」


「――上等じゃねェか。」

俺が帰らせなきゃいいだけの話だ

甲板に出揃ったクルー達を振り返り、キッドは威厳のある口調で言い放った。


「無傷であいつを連れて来い!あいつァ戦力になる。意地でもこの船に乗せるぞ!」

キッドの意気込みがクルー達にも熱を持たせたようで、甲板中が湧き上がった。
――魔法使いという未知の分類を前に、まるで宝を見つけた時ように炯炯と目を光らせるキッド。そんな彼の脇では、キッドの右腕であるキラーが複雑そうに溜息を吐いた。

(俺としては、危険物資は船に持ち込みたく無い所だが…)
コイツは一度言った事を曲げないからな。
「楽しくなるぜ。キラー」
「…違いない」

異世界の超人達
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