潮風に吹かれて、ふわりふわり、銀髪が揺れる。
楽し気に微笑む姿は、以前の奴を連想させた。



「三成も来いよ!気持ちがいいぜ!!」
「馬鹿か。貴様、今何月だと思っている」
「うん?5月か?」
「まだ夏ではない」
「でも、来いよ!」



波がかえしては寄せ、そんな光景をぼんやり見ていると一人で遊ぶのに飽きたのか、ざぶざぶと滴をしたらせ近付いてくる。
季節はまだ春だ。寒い。
そんなこっちの気持ちも知らずにぐいり、強引に私の腕を掴む。



「貴様、何をっ…」
「そんなとこで突っ立てても暇じゃねぇか」
「暇なのは貴様だけだ!」
「そう言わずによ。せっかく海に来たんだ、入っとこうぜ!」



仕方なく靴を脱いで、爪先だけつけた海水は予想通り冷たかったが耐えられない程でもない。
波が足首にあたり、なかなかに気分が良い。



「なっ、気持ち良いだろ?」
「フン、悪くはない」
「ははっ、変わんねぇな!」



一度離された腕をもう一度掴まれ、今度は引き寄せられた。
心地好いぬくもりが広がる。
鼻腔に広がる匂いは海の、潮の匂いだろうか。
コイツにぴったりだ。



「なあ、三成」
「…なんだ」
「俺ァ、幸せだ」



いきなり何を、と口を開く前に背中が折れるのではないかというほど力を込められ、小さな呻き声しか出なかった。



「…幸せなんだよ」
「…そう、か」
「お前が、いることが」



泣きそうな声で言うから。
少しだけ昔を思い出した。

嗚呼、そうだ。



「貴様だけでは、ない」
「……は?」
「…私だって、幸福だ。」
「…うん、」


「貴様が隣にいることが」



小さく、感謝すると呟いたのは聞こえなかったことにしてほしい。
貴様の嗚咽も聞こえないふりをしてやるから。



海の匂いが辺りを包み、静かな波が足下ではじけた。





「私と生きろ、元親」





幸せは与えたり与えられるものではないけれど、確かにあたしは君からもらってた



昔も、今も。





text by 1204