「貴様は太陽が好きなのか」
小さな声で呟いた独り言のつもりだったが、ばっちり聞こえていたらしい。
「今更なんだ」
めんどくさそうにその鋭い目を細めて振り返る端整な顔立ち。 そんな解りきった事を聞くなとでも言わんばかりの雰囲気だ。
「我は日輪の申し子ぞ」 「…ならば何故西軍についた?」
太陽なら、私よりも、家康の方がそれらしいだろう。私は、あのように照らす事は出来ん。
そう言えば呆れたような表情を浮かべて、からり、部屋の障子を開けた。 今宵は満月らしい、月の光がさんさんと部屋に入っている。
「我は日輪にしか興味はない。徳川などどうでもよいわ」 「…よくわからん」 「フン。…まあ、貴様がわからずともよい。それよりも…」
徳川が太陽なら、貴様は月なのか石田
それこそ興味深いとでも言うように、いつの間にか目の前にいた毛利はのぞきこむように真っ直ぐ瞳を向けていた。
家康は、太陽だ。 私にとっては憎しみでしかないあの光は、周りを照らす光なのだろう。 そしたら、家康と相対する私は果たして月なのだろうか。 もし、私が月だとするならば、私がこうしているのは家康の光を受けているからこそとなって、それこそ憎しみでしかないのだが。
「…自分の事など知らん」 「そうか。我から見た貴様は月に酷似しておるぞ?」 「黙れ」
にやり、楽しそうな笑みを浮かべる毛利はただ性格が悪い。 私は、家康がいないと輝けないとでもいうのか。 あんなに目立って輝きたいわけではないが、それでも自分の輝きがないというのは、なんて虚しいものか。
「良いではないか、貴様は月だ」 「フン、下らん。私は私だ。…それに貴様は太陽が好きなのだろう?」
しまった、
失言だったと気付いたのは愉快そうににやついた毛利を見てから。 ああ、遅すぎた。
「ほう?我が月よりも太陽を好む事が気に入らぬと…?」 「ちっ、ちが…っ、黙れっ!失言だ!忘れろ!」 「三成、」 「っ!」
いつもは呼ばないくせに。 たまに、本当にいきなり名前を呼ぶから、思考が止まる。
「我は日輪の申し子だ」 「…知っている!」 「だが、月も嫌いではない。貴様が月なら尚更な」 「〜っっ、」
さすが知将だと今更ながら感心する。 全く、敵わない。
それがたまらなく悔しかったから、せめてもの反撃に頬の緩んだその口に思いきり吸い付いてやった。
なら月まで走っていこうか
(言わずとも、) (全身で愛を感じ、全身で愛を送るのだ)
text by largo
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