「…三成」



微笑を浮かべているようにさえ見える三成は、その白すぎる肌を真っ赤に染めて帰ってきた。



「家康…」
「……三成、その血は…?」
「秀吉様を裏切った愚鈍な奴等の返り血だ」
「真っ赤、だな」
「…何が言いたい?」
「……悲しい」



思わず取った掌は死人のように冷たくて驚いた。
自分の血ではない、おそらく自分が斬り殺した者の返り血で真っ赤に咲いた三成。


だって三成はそれでも笑ってるんだ(凄く、幸せそうに。)
それで、それが美しいんだ(ワシも救いようがない、な)


まるで彼岸花のような。



「お前は、美しいな」
「フン。戯れ言を」



ぱ、と離された手はあっという間に離れてしまう。
三成は手にも血が付着していたようで、離した自分の手も紅く染まっていた。



離れて行く指を愛しいと思う。
真っ赤に染まっても尚美しいその背を抱き締めたい。



「さっさと行くぞ、家康。秀吉様の元へ」



ああ、嗚呼。

振り返ったその身のなんと気高いことか!!


解っている。
あれはワシが触れていいものじゃない。
ワシが触れて汚していいわけがない。


伸ばしかけた手は引っ込めた。
後はただ笑って。



「ああ、今行く」









三成は今、真っ赤に染まって地面に横たわっている。
こんなに近くに彼を見たのは多分、秀吉公を討ったとき以来だ。


目を瞑る三成の腕に静かに触れる。
元々体温の低かった男だが、やはり生きている者とそうではない者の体温差は圧倒的で。
彼は生きていたのだと、今更になってあのぬくもりを理解する。

触れたそれを今度は掴んで。あまりの細さに眉を寄せる。
善くもまあこんな腕で刀を振り回していたものだ、と。
それほどにワシが憎いか、三成。


手に触れる赤は三成のもの。
ワシがやった。

思い返せば、最初から傷付けてばかりだった。
奪ってばかりだった。

ワシはこんな結末を望んでなどいないのに。



引き寄せて抱き締めて。
思うままに抱き締めて、三成からの反応はなくて。


何故お前は、此処にいないというのに、こんなにも気高いのだろう。美しいのだろう。

今、こんなにも近くに在るのに、何故遠いのだろう。

やっとお前に触れるのに。(お前はもう、いないけど)




頬を滴が伝った。
最後まで伝えることは叶わなかったが、きっと。



(愛して、いたんだ)




泣きたくなるような恋でした


もっと上手に恋が出来たら良かった。