「なあ、三成」
「なんだ、長曽我部」
「ちゅー」
「ふざけるな」
「いや、嘘。あのさ、」




「別れよう」





拭えない違和感はきっと





あんなに悩んでいた事なのに、言葉にしてみればやけにあっさりと音に変わった。
別れよう。わかれよう。
三成の綺麗で純粋な瞳は、別段驚きもせずに真っ直ぐに俺を見ていた。
波一つたたない海面のような静かな瞳。




「…そうか」
「あんま驚かねぇんだな」
「貴様が言わなかったら私が言おうと思っていた」



三成の白銀の髪が風にとられ、さらりと鳴る。
そっとその細い頬に手を伸ばせば嫌がる素振りも見せずに瞳を閉じる。
三成は何も言わない。



「…お前も、わかってたか」
「最初から知っていた。だが貴様は……、酷く心地が良かったから…」
「ふ、そっくりそのまま返してやらァ」



俺達は、違う。
お互いが、焦がれて止まない存在ではない。





覚えているのは海と、太陽。
数えきれない程の罵声。風に揺られてさらり、さらりは茶色だった気がする。



物心ついた頃から幾万回も胸を締め付ける痛みがなんなのか、未だにそれは分からない。



ただ、それは。
独りになるのが嫌なくせに、不器用で周りから恐れられて。
小さな背中はいつ見たって震えているような錯覚を起こした。



愛しくて、愛しくて仕方のなかったそれは、お前にとてもよく似ていたから。






『付き合ってくれよ』
『…好きにしろ』






でも、違っていたんだ。





「…貴様は、奴によく似ていたから」





三成の真っ直ぐ過ぎる瞳が、俺を射抜いた。
いつも少しだけ罪悪感に染まっていた瞳はそれでも尚純粋で美しかった。




(嫌いなわけじゃねぇ、けど)




アイツはもっと、冷酷な瞳をしていた。
アイツが誰かなんて到底分からないのだけれど。
何を考えているのか分からない暗い瞳で、それなのに、怒るとちらちらと怒りの火が見えて。
俺が、見たいと望んでいる瞳は、三成のものではないのだ。
俺が、愛して止まない色は。





「俺ァ、お前が嫌いなわけじゃあねぇんだ」
「…そうか」
「ただ、お前じゃなかった」
「そう、だな」





伏せられた瞳はこんなことになった今でも綺麗だった。
そこに唇一つ落とし、サヨナラを。
三成は、何も言わなかった。





「…ばいばい、三成」
「精々、また間違えないように気を付けろ」





何かが違っていた。
お前では駄目だった。
だけど、決して嫌っていたわけではないんだ。





背を向けて歩き出す三成の後ろ姿を眺めて、ゆっくりとひとつしかない目を閉じる。




…ここは海ではないのに。

だけど確かに潮の匂いがする。
焦げ付くような太陽の光に、冷たい無表情、浴びせられる罵声。
そして、鮮やかな緑。





「    」





懐かしい呆れたような溜め息が、確かに、俺の耳に響いた。






拭えない違和感はきっと君がいないからだよ

寂しい、なんて言わねぇよ。
ただ、堪らなく会いたい。