しょーと | ナノ






「気持ちは嬉しいけど俺、彼女いるからさー…」

生まれて初めての告白でそう言われ、クラスメイトの加藤君にフラれて今日で1週間。
未だその傷は癒えてない。

なのに、なんでこうなってしまうんだろう

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「それじゃあ名字、これ加藤に渡しといてくれ。まだアイツも学校残ってるだろうから頼んだぞ」

「……はぁ。」


今手元にあるのは加藤君の再提出プリント。
英語のやつだから本当なら授業の時に返却されてるはずなんだけど先生は返すのを忘れたらしい。
で、たまたま職員室に日誌を取りにきていたあたしに強引に押し付けてきたというわけだ。

全く勘弁してほしい。
なんでよりによって加藤君の。
フラれる前なら喜んで引き受けただろうけど、絶対やだ。単にプリント渡すだけっていっても気まずい。いや、気まずすぎる。


「…フラれた相手にわざわざ自分から話しかけるって…」


深く溜め息をつき、重い気分のまま教室にむかって廊下をトボトボ歩く。しばらくすると前方から女子と男子が仲良さげに歩いてきた。
良いなぁー…カップル、なんて思いながら彼らをじっくりみて気づいたことがある。
男子のほうは加藤君だ。
隣に居るのはきっと彼女さんだろう。
まさか二人が歩いてるとこに遭遇するなんて、…今までそんなこといちどもなかったのに。

……最悪だ。


「…加藤君、」


本当はこのタイミングで声なんかかけるつもりなかったけど、ポロッと出てしまった。
やっちゃった…と思うけど、加藤君も加藤君でかなり気まずそうにあたしを見つめる。でも彼女さんの手前だからか、出来るだけ平常心を保とうとしてるのがわかる。


「おう。どうかしたか?」

「え…、えっと…先生からプリント預かったんだ。はいこれっ」

「あ、ありがと。」

「…ううん。こっちこそ彼女さんと一緒に居るとこ声かけてごめんね、」

「……悪いな。……その、わざわざ…」

「あっ、謝んないでよ!!プリントなんて大したことじゃないし!!にしても、彼女さん可愛いねっ!!加藤君にお似合いだよ!!」


加藤君が自然に接しようとしてるんだから、あたしもそれに答えないわけにはいかない。
だからプリントを渡してできる限り軽いノリで笑いながらそう言った。

ちょっと顔を赤らめて小さく会釈する彼女さんは見るからに良い子そうでお世辞抜きで可愛い。優しい加藤君にぴったりの子だ。

正直、「お似合いだよ」なんていうつもりなかった。
わざわざ自分の首絞めるようなこと言って、自分の傷口抉るようなことするつもりなかった。

でも、出ちゃったもんはしかたない。あたしの出る幕はもう一切ないとも気づいちゃったし。

あたしの言葉を聞いて彼女さんも加藤君も顔真っ赤。でも、なんかすごく嬉しそうだった。
お互い、心から好き合ってんだなーって、とても伝わってくる。


あたしは二人が去っていく姿を、じっとみていた。

理想のカップルそのものの、甘い雰囲気の彼らを見てるのはどうもつらい。見なきゃいいんだけど、つい気になってしまう。

…加藤君の笑顔、あたしが見てきたのよりずっと優しいじゃんか。

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「名字さーん。お届けもんでーす」


突然、背後からちょっと低めの声が聞こえてきた。
振り向いてみると頭の後ろで何かを持って腕を組んでるクラスメイトが目にうつる。


「…高尾君、?」

「よっ。急に声かけちまったからもしかしてちょっとビビらせた?」

「いや、そんなことはないけど…」


なんでこんなとこにいるんだろう、と少し疑問に思う。
高尾君は鞄持ってるし、きっと部活に行くところなんだろう。でもクラブボックスがあるのは南校舎で、北校舎のここは明らかに正反対。
確かに北校舎からクラブボックス直通の渡り廊下もあるけど、あたし達の教室は中校舎にあるし、当然中校舎から南校舎に向かったほうが近い。


「なんでこっちに?部活じゃ…」

「今日化学の課題提出だったじゃん?授業の時はプリントねェと思って提出諦めたんだけど、さっき見つけてさぁー…出しに行ってたんだよ。」

「あ、そうなんだ…」


なるほど…と、納得していると高尾君はあたしに学級日誌を差し出した。
持ってたのはこれだったみたい。
一瞬なんのことかわかんなかったけど「お前今日日直だろ?忘れてたぜ。」と言われてハッとする。

…加藤君のプリントで頭一杯になってたけどよく考えたらあたし、職員室には日誌取りに行ったんだった…これ書かないことには帰れないや…


「…ごめん。ありがと」

「どーいたしまして。………ところでさ、お前大丈夫か?」

「え」


顔だよ顔、と言われて側の窓をみる。
すると涙が頬を伝っていた。全然気づいてなかったけど、あたし泣いてたらしい。恥ずかしくて慌てて涙を拭ったら高尾君に「変に擦ったら目腫れるぜ」と、止められてしまった。


「悪ィ。俺さ、ずっと思ってたんだけど…名字って加藤のこと好きだったろ?」

「…え」

「お前、なかなか演技派で誤魔化すの上手かったから彼女は気づいてなかったっぽいけど、俺結構鋭いんだよなー。こーゆうの外したことねェの。」


図星をつかれてギクリとする。

…バレてる。てゆうか、見られてたんだ、さっきの。

一見口調は普段通り軽いし言葉だけならちょっと茶化すつもりなのかともとれるけど、彼のこ表情は真剣そのもので、いつものお調子者な彼じゃない。「どう?」と尋ねる彼にあたしは小さく頷くしかなかった。


「あーあ。もったいねーよなぁ加藤のヤツ。名字、かなり良い女だっつーのに。」

「なっ、か…、加藤君の彼女さんのが可愛いじゃん。」

「お前も十分可愛いっしょ。それに引き際見極めて動けるなんて良い女じゃん。俺は好きだね、そーゆうの。」


そんなかっこいい感じじゃないんだけど、高尾君にそう言って貰えて嬉しかった。
どんな軽いノリでも、今のあたしには「好き」って言葉は凄く身に染みる。

正直、一週間経って彼女さんを知った今もまだ加藤君への気持ちが残ってる。

あたしだって彼に好きだと言われたかった。
優しい笑顔、向けられたかった。

けどそれ以上に、高尾君が優しくて安心しちゃって涙が溢れてくる。


「…ひっく…ぅ…うっ、…」


頬を伝う涙の量はきっと半端じゃない。さっきよりも顔はずっとぐしゃぐしゃだろう。
本当にカッコ悪い。
でも、涙は全然止まってくれない。

そんなあたしを見て、高尾君はケラケラ笑いながら「あーあすっげー顔」なんて言ってあたしを引き寄せて自分の胸元にあたしの顔を押し付けた。

びっくして離れようとしたけど、彼の力はめちゃくちゃ強くてあたしの力じゃ無理だ。


「っ…、たかおく…、…なにっ…」

「今誰か来てグッシャグシャの顔見られたくねーだろ?俺の胸貸してやるからさ、好きなだけ泣けよ。別に鼻水つけられたくらいでキレるほど俺、器ちっさくねーしな。」

「…つっ、つけないよぉぉ…でもぉ…、ひっく…ぅ…うぅ…ぶ、ぶかつ……」

「だーいじょーぶ。真ちゃんに職員室行くから遅れるって伝えて貰ってるからさっ。…、この際溜め込んでたもんはもう全部出しちまえ。遠慮はいらねーよ。なっ。」


なんで、この人こんなに優しいんだろ、
意味わかんない


「うぅぅ…っ、う、わぁぁんっ、ひっく、ぅ…ぅ、たかおく…っ、あたしね…っかと…かとうく、のこと、すきっ、すきだっ、たよぉ…」

「…そーか」

「っ、いっか…いで…いっから…すきって…言われたかったんだっ…ぅぅ…」

「…うん」

「…ひくっ…でもっ、…かの、じょさ…と、いっしょの時っ、すごく…幸せそうだったから…ぅぅっ…あたし、っ…あたしっ!!」

「…うん。…ったく、お前に好かれる男は幸せ者だよな。次は加藤より良い男好きになりな。俺とかなっ。」

「…っく…ぅ、う…ぅ…なにそれぇ…」

「ハハッ、まあ名字が元気になって加藤のこと忘れたくらいにガンガンモーションかけるからさっ、」


その時は覚悟しとけよ、なんて言いながら高尾君はあたしの頭を優しく撫でる。

…ほんとかな、

まあお調子者の彼のことだから、あたしを慰めるためのいつもの軽い冗談の可能性が高い。
ただ、そう言った時の彼の心臓の鼓動が心なし速くなったから少しだけその言葉を本気にしたい。

そんなことを考えるあたり、あたしはきっとこの先、高尾君に惚れてしまうんだろう。


………それはまだぜったい、口に出せないけども。

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テーマは女心と秋の空って感じだったはずなの、モブに失恋からの高尾に移り気みたいな話になっちゃった。おかしいなぁ←

高尾君はここぞというタイミングは逃さない。なんだかんだで強引さもある。でも、相手が困るようなことは絶対しない。まさにハイスペック。 …なイメージです。個人的に。


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