しょーと | ナノ







同級生に世にも奇妙な六つ子がいる。

いや、言い方が悪かった、訂正。世にも珍しい六つ子がいる。

正直どれがどれでも同じだけど、あたしが関わりあるのは次男坊。
名をカラ松と言い、彼はあたしにとって部活仲間であり、そしてクラスメイトでもある。
中背中肉、成績普通。性格は温厚。基本的に良いヤツだ。
良いやつなのだが、二、三ヶ月前に見た映画だか舞台だかに凄く感銘を受けてからはワイルドかつハードボイルドかつギルティかつダンディな男を目指すことにしたらしくここ最近はやや迷走気味である。

色々盛り込みすぎだとか何みたんだろうとかそういう話はこの際置いといて。
松野がハードボイルドとは似合わない通り越してもはや面白い。
理由は色々あるけど、ひとつ挙げるとするならば。ハードボイルドな男はまず、バカップルのペアルックについて嬉々として語ったりしないと思うのだ。





「…俺は愛し合う人と一つになりたいとおもうことは当然だと思うんだ!暑く甘い夜を共にすることも一つだとはおもうんだが、体を繋げずとも同じ物を身に纏いそれぞれの肌に触れる布の感覚を共有することもまたプラトニックで美しいと思う!一体感こそ至高!嗚呼なんてロマンチック!そう思わないか?」

「いや。あんたなに言ってんの。」

「え。…あ。ペアルックって一体感感じられて良いよな、なんかラブラブっぽいよなって話なんだが。」

「あー、はいはい。まあペアルックするんだから仲良しだろうね。…てゆうか、松野。それよりこっちこだわってくんない?このキャベツちゃんと切れてないんだけど。口より手を動かして。なにこれ、芯デカすぎて食べれないって。」

「んんー?いや、具はデカイほうがゴージャスに見えるだろう?…フッ。まさに男の……クッキング!そういえば知ってるか?ペアルックの最全盛期はバブリーゴージャスなあの頃より若干昔らしいが、今また流行ってて最先端にクールファッションだと話題なんだぜ。」

「いや、知らない。だめだからね、こんなの大分食べにくいから。あ、ちょっと。芯の部分絶対入れないでね?千切った葉の部分だけ使って。」

「オーケイオーケイ。」

「いや、ねえあたしの話聞いてる?言ってるそばからやらかさないでよ。芯、入れちゃダメだってば。」


天気は快晴。しかも日曜。
空には雲一つなく、ひたすら青が広がっている。こんな日は何処かに遊びに行きたいところだけど、生憎私が通う赤塚高校では文化祭が開催されて、今日は登校日。

そりゃあ文化祭なんだから登校日とはいえ校外からも色んな人がやってくるし最高に盛り上がる一大イベントではある。が、しかし。
私はといえば、中庭に建てられた白い屋根のテント下で同じ演劇部の松野と並び、ひたすら焼きそばを焼き続けるという悲しい現状。
しかも、こいつがペアとか…。
誰よコイツに店番任せたやつ。客引き行かせたほうがまだ、良かったんじゃないの。

はぁ、と溜息をつきながらデカすぎるキャベツを適度な大きさに千切って鉄板に入れる私を尻目に松野は随分ご機嫌な様子で「さあレッツ、フレバリンングターイム!」と、ドバドバとソースを加えると、よくわからない鼻歌を唄いながら麺とお肉とキャベツを鉄板の上で炒めていく。
私は本当に不安しかないのだけど、やっぱり松野はこちらの気持ちに気づくことなく話を戻して楽しそうに喋り出すのだ。

これのどこがハードボイルド。
どの辺りがワイルドだというの。
それに私には松野がペアルックに憧れるのもよくわからない。コイツが誰かとお揃いとか今更だ。


「アンタさあ、5人も兄弟居てまだ誰かとお揃いしたいわけ?変わってんね。」

「ノンノン!兄弟とのお揃いと可愛いガールとのペアルックはまた別の話だ。」

「へー。」

「ちなみにペアルックというのはそもそも和製英語らしいぜ。クイーンイングリッシュではマッチングというらしいが….なかなかクールだよな。クールにキメる俺…フッ」

「なにもクールじゃないからね。つーか、ちゃんと炒めてソース焦がさないようにしてよ。鉄板にこびりついたらとるの超めんどいから。」

「そうそう、そういえばこの前街に行ったときにな、」


だめだ。聞いちゃいねーな。このポンコツ。


「てゆうかペアルックなんか大して意味なくない?一緒だからってそれがどうしたって感じ。」

「はぁーっ!!ドライだなあ名字!ガールはクールよりもちょっと甘えたなぐらいが良いぞ。全く可愛げがないぜぇ…」

「うっさいなあ。だって例えばほらこのTシャツ。あたしらお揃いのだしペアルックじゃん。あんたにとっちゃ念願叶って女子とペアルックだけど」


でもだからナニって感じじゃん?ね?
と、そう笑えばヤツは眉間に皺を寄せる。
おいおいそんなイヤか。まああたしだってやだけど。てゆうか文化祭用の部活Tシャツだしノーカンだけど。でもなんかちょっと腹立ったから
あんたとペアルックなんてこっちから願い下げだわとでも言ってやろうかと思ったけど。

「ちょっと照れ臭い、モンだな…はは、」と、もごもご言ってきやがったヤツの顔はお酒でも飲んだのかってびっくりするほど赤くなるもんだから、喉の奥まできてた言葉はひっこんでしまった。

なにそれ。あたしでさえ照れるの?
可愛くないとかいってきたばっかのくせに?
勘弁、してよ。そんな顔されたらなんて返したらいいかわかんないわ。

ちなみにこの後。
松野もあたしも妙に気まずくなって、この日はチラチラ目はあうんだけどまともに会話出来なかった。ついでに焼きそばは案の定焦げっこげで、交代で戻ってきた部活仲間にはめちゃくちゃ怒られた。

失敗したのは全部松野のせいであり、あたしのせいではない。




あると思う。文化祭マジック。

もとは友人からのリクエストで書いたもので、
お題はペアルックだった。一応掠って申し訳程度にペアルック。と、言い張る。

どうでもいいけど、関東弁も標準語もよくわからんわけ。でもあっちのほうの女の子は総じて喋り方可愛いと思う。


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