しょーと | ナノ






!原作未登場の一氏君の兄ちゃんが出てきます。
!地名は実在。建造物については名称を微妙に変更してありますが、特徴は合致しております。
!地形についてはだいぶアバウトなので、雰囲気で読んでください。




“名前ちゃんごめんな、ほんまごめん!”

「あ、うん。全然大丈夫!また遊ぼ。」

“この埋め合わせは絶対するし!ほんまにごめん!ありがとう!”


約束していたえっちゃんに生憎急用が出来てしまい、今日の約束はお流れに。
彼女との電話を終えた後、あたしは駅の雑踏の中で一人深くため息をついた。

お母さんに「お母さんらもう出るし、あんたも出掛けんねやったら一緒に出て。」と言われ、待ち合わせに丁度いい時間よりも随分前に家を出ることになって、現在地は既に梅田駅の改札前。


「どうしよっかな、今日…」


普段は家から行きやすい難波か心斎橋ばっかやから正直梅田はそんなに来る機会がなくて、あんまりよく知らん。誰かこの辺りに詳しそうな友達を誘うにしても、流石に急過ぎるしちょっと気が引ける。
鍵は持ってきてるし、家に帰るという選択肢は
勿論ある。でも折角梅田来たのに何もなしに帰るんはやっぱり電車代が勿体ない。
とりあえず何処か一人で行けそうなところはないかと、近くにあった駅周辺案内図をちょっと眺めてみたら。案外早く、良さそうな場所が見つかった。


「ペップか…」


梅田のなかでは個人的に馴染み深い所。
他にもいっぱい店あるけど、良いなと思うのが売ってるんはあそこ。梅田で服とかをお母さんに買ってもらうといえばかなりペップに偏ってると思う。
地下から行くのも一人で行くのも初めてやけど、地下街にはちゃんと今みたいな案内図もあるし、頭上にも案内はあるし。


「…ちょっと行ってみよかな。」


別に方向音痴なわけでもないし、問題ないやろう。
あたしは目的地をペップに定めて、頭上の案内表示を頼りに歩きだした。
初体験なもんやからちょっとドキドキする。

しばらく歩いてると、なんとなく見たことのある景色が現れた。
あの前方左のお店…知ってる。
雑貨とかめっちゃ可愛くて、去年の誕生日に今日持ってる鞄買ってもらったとこや。
隣のカフェもお母さんと入ったけどケーキと紅茶が美味しかった。

慣れへんところで、知ってるもんを見つけるとなんか安心する。今日もちょっと覗いてみよかな…と思って雑貨屋さんの店内に入ろうとしたら
、店の入り口付近で今度はこれまた見慣れた人物を見つけた。


「一氏君?」


クラスメイトの一氏ユウジ。
モノマネがめっちゃ上手い。
学校でお笑いライブ開いたら校外からも人がすごい集まる。…確かテニス部やけど、あたしは彼がテニスをしてるとこはみたことない。テニスも上手いらしいけど。あと、クラスメイトの小春ちゃんとデキてるとかデキてへんとか…なにかと目立つ男子で、あたしは彼と2年の時からクラスが一緒やったりする。
けど個人的に取り立てて関わりがあったわけでもないし。席近かった時は挨拶とか、まあなんかちょっとくらいは話した気もするけどあんま覚えてない。

もしかしてあの人店入るつもりなんやろか…とか、似合わなさすぎてめっちゃおもろいとか色々思うけど、なんにせよ彼は一人やし、あたしも一人やからちょっとテンションが上がって思わず声をかけた。
急に声をかけたもんやから、振り向いた瞬間の一氏君は思いっきり眉間に皺寄せててめちゃくちゃ目つき悪かった。
でも知らん人に声かけられたとでも思っただけらしく割と直ぐに彼の表情が若干柔らかくなった。


「あ?あー……名字やん。よお。一人か?」

「うん。もともとはあたしもよっちゃんと約束してたんやけどよっちゃん、家の用事で無理になったから。一氏君も一人?」

「いや、兄貴と一緒。今トイレ行っとるから待っとるだけ。」


ほれ、向こうの。と、彼が指差した方をみたら確かにトイレの表示があった。

「これからどっか行くん?」と一氏君に尋ねられ、「うん、まあ。ペップ行こかなって。」と答えた後は特に話すこともないから、結局一氏君の「ふーん。気ィつけてな。」の一言でその場は別れた。

校外でクラスの男子と会って喋る機会なんて今までなかったからちょっと新鮮。
たまには、一人でこうやってあんまり馴染みのないところ歩いてみんのも楽しい。

まあ、そんなん言うてられんのも今のうちにで、梅田の地下舐めてたあたしは完全に迷子になってまうんやけど。





「あかん。あかんわ…やばい。どっちから来たんかさえ、だんだん解れへんくなってきた。」


一氏君と別れてから少なくとも1時間後くらい。

未だにあたしは目的地であるペップに辿り着けてへんかった。
最初のうちは頭上に見えてたペップの文字はすっかり無くなり、いつのまにか北新地と駅前ビルの表示ばっかり出てくるようになった。
地下鉄の梅田とペップはそんな離れてなかったはずやから多分このエリアにペップはない。
でも、もうどう行けば良いかわからん。

人にも聞いて、言われた通り進んだつもりやけど、駅ビルの中に入ってしもて、それから暫くおんなじとこを何回もぐるぐる回ったし、終いにはよくわからん階段とか坂出てくるし。
完全に詰んだ。


「なんやねん!梅田ややこしいわ!ほんま嫌い!」


服屋さんとかは確かにある。
でもあたしが行きたいんはあくまでペップや。そこの妥協は出来ひん。そもそもこの辺りの服屋さんはどこも大人っぽすぎて入れそうなとこが一個もない。

グルグル歩き回って、いい加減めっちゃ疲れた。喉も渇いたしとりあえず一旦休憩したい。
どっか飲食店が集まってるとこないかなと、キョロキョロしてたらさっき聞いたばっかりの声が聞こえてきた。


「は?名字…?」

「…一氏君。また会ったな。」


本日2回目。一氏ユウジ。
この巨大迷路みたいなとこでまた会うとは、どうやら今日は彼と相当縁があるらしい。


「何してんねん、お前こんなトコで…。ペップ行ったんちゃうんか。こっち反対やろ。」


そう言ってきた彼は、ここがどの辺りかちゃんと理解してるらしく、思いっきり変なモンを見る目で見られた。てゆうかやっぱり、こっちちゃうかったんか。


「あー…途中で道わかれへんくなって、この辺りずっとぐるぐる回ってるんよな。」

「地下から行こうとするから迷うんやろ。地上出ろや、観覧車ですぐわかるやんけ。」

「そんなんゆうたって、自分の今居る位置さえわかれへんもん。スマホの地図とか構内案内図見ても、人にも聞いても全然あかんし。てゆうか、外出れそうやと思って一瞬めっちゃ喜んだ時あってんけどさ、それ実は地下二階やって…」

「ダッサ!」


確かにダサい。それはわかってるけどそう言うアンタはどうなんやとちょっと疑問が浮かぶ。
さっき、お兄さんと一緒に来てる言うてたけどそれらしい人の姿が見えへんし。


「一氏君こそまた一人やん。もしかして迷子?」

「それお前にだけは言われたないわ。…ちゃうに決まっとるやろ。兄貴待ちや。あそこの靴屋で買い物しとる。」


目線の先にはちょっと高そうな靴屋さん。
「俺にはなんか居心地悪いし出てきた。」と話す一氏君の気持ちはなんとなくわかる気もする。
そういや、一氏君のお兄さんてどんな人なんやろ…と、店内を眺めてたら背の高いお洒落な感じの男の人がこっちにやってきた。


「おっ。なんやユウジ珍しいな。女の子と喋っとるやん。ナンパしたん?やるやん。」

「ちっ….ちゃうに決まっとるやろ!何言うとんねんアホ、クラスメイトやクラスメイト!…名字、これ兄貴!」


どうやら、やってきた男の人が一氏君のお兄さんらしい。顔立ちは似てる気もするけど、仏頂面な一氏君よりも、落ち着いた雰囲気で大分優しそう。


「は、初めまして。一氏君と同じクラスの名字名前です。」

「はじめましてー、こんにちは。ユウジの兄です!弟が世話になってますー。あー…やっぱり女の子はええよなあ。ちっさいしかわええし口悪ないし。今日は買い物?なんか良いモンあった?」

「あ。えっと…」

「兄ちゃん、こいつまだ目的地たどり着いとらんから。」

「え、そうなん?」

「ペップ行くん迷っとんねんコイツ。」


まだ何も買い物してなくてとはなんとなく言いづらくて、ちょっと口籠ってたら先に一氏君がサラッと話してしもた。ちょっと恥ずかしいなと思ったけどお兄さんは「あー。あるある。」と、共感してくれてちょっとホッとした。


「地下から行こうとしたんやろ?そらわかりにくいわ。慣れとっても気ィ抜いたら普通に迷う。」

「あ、そうですか…やっぱり。」

「ちょおユウジ、お前名字ちゃん連れてったりや。場所わかるやろ。俺お前が名字ちゃんと一緒の間に阪新でオカンのお使いしてくるし。」

「あー…せやな、」

「え。いや悪いしそんなん!大丈夫です!どう行けば良いんか教えてもろたら行けます!」

「いや、お前人に聞いてわかれへんかった言うてたやろ。教えたところでそんなん無駄やんけ。連れてったるて。」

「ほらユウジもこう言っとるし。コイツ小春小春言うてな……まともに彼女もおらんから女の子と出掛けたこととか全くないし、ムッサイのばっかで連んどんねん。せやから名字ちゃん、ちょっとデートしたってや。」

「デッ……?!」

「余計なお世話やクソ兄貴!……まあ、デパ地下行くよりはマシやし!ペップには行ったるけど!」


確かに一氏君の言う通り、既に人に尋ねてたどり着けへんかったんやから、この後一人でペップに無事たどり着ける自信は正直なところ、一切無い。一氏君と二人ってのはちょっとなんか…緊張するというか照れるというか…複雑な心境ではある。
でも、ここは素直に彼に頼る方が、きっと賢明。あたしは、ひとまず一氏君に、着いてきてもらうことにした。


「えーと…じゃあお願いします。」

「…。おー。」

「よっしゃ、ほなユウジこれ持ってき。軍資金や。」


そう言ってお兄さんがほり投げたものを一氏君はしっかりキャッチ。
お兄さんが投げたのは500円玉やったらしく、小さな声で彼は「…いや500円とかシケすぎやろ。せめて1000円やで、ケチ臭いわ。」とボソッと呟いた。
まあお兄さんにはちゃんと聞こえてたようで、「いらんなら返せ」と言われてたけど、しっかりポケットに入れたところをみると…案外一氏君はちゃっかりしてる。

その後、お兄さんと別れて、一氏君とあたしはペップを目指す。
そんなに話題はないから、すぐお互い喋らんようになってしもたりするけど、沈黙は別にそんなに気まずくはなかった。


「一氏君、ありがとう。なんかごめんな…付き合わせて。」

「別に。これくらい大したことあれへんわ。」

「一氏君、意外と親切やんな。女子のこと目の敵にしてそうやし、こういうのめっちゃ面倒くさがりそうやのに。ほんま意外。」

「お前、ほんまに感謝しとる?なかなか失礼やぞ。」


そして歩き出して、暫く。
吹き抜けの広場っぽいとこに来たら一氏君が小さく「…おっ。」と発した。


「どうかしたん?」

「ちょおそこ座って待っとれ。」

「え、ちょっと一氏君?!」


彼はなにかを見つけたみたいで、そのままあたしを置いて走ってってしもた。
あたしは、また迷子になっても困るからとりあえず言われるままにベンチに座って待つことに。


「ん。」

「え。何、」


思ったより早く戻って来た一氏君から差し出されたのは、レモンティーの小さいペットボトル。ようわからんで首を傾げたら、大げさに溜息をついた一氏君が言葉を続けた。


「何って紅茶や。女子ってなんか休み時間とかやたら紅茶飲んどるやんけ、好きなんちゃうん。歩きまわっとったんやったら喉乾いとるやろ?…飲んどけ。」

「あ、うん。まあ。…ありがとう。」


そう言ってペットボトルを受け取ったら一氏君は「…軍資金は有効活用せなあかんやん?まー、500円以内やったらこんなもんやろ。」とあたしの横に腰かけ、ケラケラ笑いながらそう言った。
…どうやらあの500円玉で買ってきてくれたらしい。


ちょっと一氏君…イケメンやんか。


でも正直言えば、今は炭酸飲みたかったから一氏君の手元にあるコーラがちょっと羨ましかった。

紅茶好きやし、ご厚意は素直に嬉しかったから流石にそれは黙っとくけど。




テニプリ再燃中。四天が好きです。
白石お誕生日おめでとう。この話には、しの字もなかったけど。
ちなみにささめは大阪生まれの関西人ですが大阪育ちではありませんので、大阪弁は曖昧です。



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