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※沖田氏、でてきません。
かわりに坂田の旦那、でてきます。



前回のあらすじ

結婚生活1日目。
あたしは家事、総悟さんはお仕事がお休みということで寛いでいた。
しかし総悟さんたら、寝転がってお煎餅を食べているもんだから、部屋の掃除では凄……ちょっと邪魔。
そういうわけであたしは彼に一旦部屋から出てもらうため、外に出掛けることを提案。
でも、なんかあたしがデート行きたいみたいに受け取られてしまい、「じゃあ連れてってやるよ」みたいな空気になっていき…なんやかんやで、あたし達は街に出掛けることになった。


以上、踏まえて今現在。


「ねぇねぇ、オネーサン!初めて見るねー!上京したて?イイねー!!お仕事とかもう見つかった?良かったらさぁうちの店で頑張ってみない?怪しいこととか一切ナシ!ちょーっと軽いボディタッチあるくらいで後は全然ナイよ!」

「い、いや…その、そういうのはちょっと、」

「えー、まぁそう言わずに!ね、話だけでも!」

「すみませんが…結構ですので、」


迷って変な店が建ち並ぶ通りに出た挙句、変な人に捕まってしまった。
なんかよからぬ商売の勧誘みたいで…さっきから断ってるのにもかかわらず、しつこい。

…どうしよう。

さて、何故あたしがこんなことになってるのかというと…まあ一言で言えば、総悟さんとはぐれたのだ。

あたしの実家は江戸は江戸でも街中外れたお城の裏手にある高台で、そんなに人でごったがえすようなとこじゃなかったし、たまーに中心街に出るといっても、丸の内とかそっちのほうばっか行ってたから…、今の住まいから近い新宿方面は全く土地勘無し。

その上、人ごみに慣れてなかったあたしは横断歩道渡るときに人とぶつかって、人に流されるうちに本道から逸れてしまったというわけ。
慌てて、元いた道に戻って総悟さんを探そうと思ったんだけど、歩くうちに迷っちゃって今いる道に出てしまった。相変わらずしつこい勧誘の男性は「キミなら良い線イクよ!最近はさ、清楚系にみせかけて実は淫乱エロ女!…みたいなの超ウケるよ?絶対稼げるって!ね、一回ヤってみよーよ!」と、どんどん顔を近づけてきたかと思えば、ガシッとあたしの腕を掴んできた。


「ちょ、ちょっとやめて下さい!!本当困ります!!」

「そんな言い方なくね?俺親切で言ってやってんだよ?どうせこんなとこ歩いてんだ、金欲しいんだろ?」

「あたし、そんなんじゃないです!離して下さい!」

「…ンだよ、こっちが優しくしてやりゃ調子に乗りやがって…オラ、来いよ!イイ仕事紹介してやるっつってんだからよォ!!」

「や、やだっ!」


勧誘男の手をなんとか振り払おうと腕を力一杯振り回してみるけども、あたしが痛いばっかりで全然手は離れず、それどころか更に男の力は強くなってあたしは腕をひっぱられる始末。これじゃ…何処かに連れていかれかねない。
今まで、男の人に触られたことだってないし、ましてやこんな目に遭ったことなんてなくて、恐怖心が芽生える。

ホント、勘弁してほしい。なんなのよ。
なんでこんな目にあわなきゃ、いけないの。
通行人はチラチラとこちらを見れども、我関せずという感じで。
ただただ、怖くて帰りたい。
今にも涙が溢れでてしまいそうな、その時。背後から男の人の声がした。


「おう、兄ちゃん。良い仕事があるってんならその嬢ちゃんじゃなくて俺に紹介してくんね?最近依頼も全然で、まともな稼ぎがなくってよォ、困ってんだわ。」

突然現れたのはふわふわの銀髪で腰には木刀を刺した男性。

彼は、真正面にある定食屋さんから出てくるなり、あたし達に近寄ってきた。


「あ?なんだ天パ、邪魔すんじゃねーよ。」

「テメ、天パ馬鹿にすんなコノヤロー!あのなァ…キャッチなら乳臭さそうな乳無し嬢ちゃんじゃなくて、向こうの乳デカ女とかのがいんじゃね。そのほうが集客狙えんじゃないのオタクもさぁー、」

「はぁ?急に出てきて何、っ?! 」


それからの展開はというと、間近で見てたあたしでさえ何が起こったかついていけないくらい早かった。

とりあえず銀髪さんが勧誘男のことをぶん殴って吹き飛ばしてくれたのはわかる。手には、あの腰に刺さってた木刀があるから…多分、それでやったんじゃないだろうか。
あの勧誘男は、気を失って白目向いて失神してる。

ホント助かって良かった。あのままじゃ、どっか連れて行かれてただろうし。

でも、それ以上に気になることが。


「嬢ちゃん、ここはねお子様が来るようなとこじゃないの。もっと大人の街なの。わかる?」


…普通、木刀で人って吹っ飛ぶ?

「キミみたいなね、いかにも良い着物着て何も知らなさそうな子はね、ああいうバカな大人の格好の餌食なわけ!なんでこんなとこ、一人でフラフラしてんの!!バカなの?!どう見てもアレだろ?!ギラギラムラムラの、どピンク通りだろ!!」

「……、」

「ったく…家出か?あんなしょーもないチンピラ一人かわせないんじゃ、かぶき町じゃ出来ることなんてそうそうねェよ。駄目駄目。俺が送ったげるからもう帰んなさい。お家どこ?」

「……。」


銀髪さんがさっきからなんか色々言ってるけど、そんなことは全然頭に入ってこない。

乳臭いとか乳無しとか腹立つこと言われたけどこの際、それはもう良い。おかしいよね、木刀で殴るならわかるけど、吹っ飛ぶってソレもう普通じゃないよね。ヤバいよね。

恐らく…、いや絶対に幕臣の方じゃないし、大概この人怪しい。だいたいなんで、廃刀令のご時世に木刀なんかもってんの。もしかしてアレだろうか…攘夷志士だろうか。


「なあ、ちょっと嬢ちゃん!銀さんのお話きいてる?!今アンタに大事なこと聞いてんだけど?!」


どうしよう。

もしこの人が本物の攘夷志士だったら、あたし人質とかになっちゃうんじゃ…そういえば2週間前ぐらいにそういうの、ニュースで見たな。あれ、確かに藤堂屋敷の娘さんだったな、街に出かけてたところを攘夷志士に捕まって、5時間ターミナルでテロの人質になったって…、


…なんか考えすぎて気持ち悪くなってきた。


「オイ嬢ちゃん、顔色悪ッ!!だいじょうぶ………って、マジかよオイ!なんで?!ちょ、しっかりしろオオオオオオ!!」


次第に血の気がひいていく。

路上のど真ん中で気を失って意識が戻らなかったあたしは、その後近くの病院に運び込まれた。



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