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”ウゥゥーーーカチッー、カチャッ…ウゥゥィーン、”

「…あのー総悟さん、掃除機かけるんで、ちょっとだけ移動して下さいません?」

「や、別にここキレイだからそんなもんいらねェでさァ。大丈夫。」


”ウィーーーーンッッー、カチャッ、カタッ…ゥィーン”


「いや、お煎餅の粉思いっきり落ちてますからね、なんも大丈夫じゃないです。寝転がって食べたりするから…ほら、そことか、」

「オイオイ母ちゃん…煎餅ってなァ寝転がってテレビ見ながら頬張るから美味いんですぜ?…あ、食いやす?これオススメの激ヤバ醤油草加煎餅。」

「…いらないです。あと、あたし貴方のお母様じゃないです。」


現在時刻は午前10時30分。

朝食の片付け、洗濯は既に終えた。
ちなみに大量にあった朝食はやっぱり食べ切れなくて、味噌汁以外で残った分は冷蔵庫に入れてとりあえず保存して、今日のお昼へ持ち越し。洗濯は滞りなく、1回で終了。
新生活1日目、家事の方はうまくいってるんじゃないかなコレ。後はとりあえず掃除。
これが終われば一旦休憩して、お昼ご飯だし午後は残りの荷物の片付けを…と割とあたしは堅実な計画をたてていた。

ただ、この考えが甘かった。一番厄介なのが、この掃除機かけ。原因はまあ…総悟さんだ。

今朝、朝食中にやってした土方様から「総悟、今日お前非番な。」と言われた彼はテレビを見ながら寝転がり、寛ぎモード全開。
別にテレビ見てゴロゴロしてるのは全然問題ない。父様だって休みはゴロゴロしてたし男の人はそういうもんだって認識してる。それに詳しくはわからないけど武装警察に所属してる方だし、きっと普段は体力仕事で忙しいはず。一応、妻としても休みはゆっくりしてもらいたい。
問題はこの人が寝ながらお煎餅食べてることだ。畳にはパラパラとお煎餅の粉が落ちている。部屋中、コロコロ転がりながらお煎餅食べてるから…かけてもかけても、掃除終わらない。


「…そうだ。総悟さん、お散歩とかどうです?」

「…んー、散歩?」

「はい。えっと、お昼前にお腹空かせてくるのにどうかと…」

「あー。」

「…街中ぶらぶら歩くのも悪くないと思うんですよね。ほら、今日凄くお天気良いですから絶対気持ち良いですよ。」


とりあえず短時間でも構わないし、どこでもいいからこの部屋から一旦移動して欲しい。
もしくはお煎餅は座って食べて欲しい。
そんな気持ちを込めて、あたしもちょっと前のめりに提案してみた。…まあこれについては、意外と効果があったらしい。
さっきまでは掃除機から逃げるように部屋中転がってたのに、突然ピタッと動きを止めて、総悟さんはゆっくりと体を起こしてくれたし。
あたしとしてはやっと、掃除機まともにかけられる…と喜んだわけ。

でも、どうやらあたしが意図した方向性ではなく、彼には「なんでィ、デートのお誘いか。」なんて言われてしまった。

…あの違う。そうじゃないよ総悟さん。
あたし、ただここの掃除したいだけ。掃除機かけたいだけ!!
アンタだけに出掛けて欲しいんですあたしは!10分…いや、5分とかでもいいからちょっとどっか、行ってほしかっただけなんです!!
とはいえ、総悟さんにあたしの心中一切伝わらなかった。


「ま、行ってもいいですぜ別に。どうせ暇だし。」


大きく背伸びして、欠伸をひとつかました彼はそう言うと、そのまま部屋を後にしてしまう。

やっと総悟さん、出てってくれたけど…これじゃ、あたしも行かなきゃいけない流れになってない?
しかも、なんかあたしがちょっと彼に「デート行きたいしどっかつれてって欲しいなー!」ってお願いした感じの流れにもってかれてない?!


「…いや、そうじゃないんだけど!ホント違うんだけど!掃除したいんですけどあたし!」


今の気持ちは本当に、ただただこの部屋を掃除したいってことだけで…しかし、あたしの言葉に対する応えは無く。さっきまでぐうたらしてた呑気な彼は既に玄関にいて、そこから「おーい、早くしなせェ!」と、あたし呼ぶ。

…仕方ない。とりあえず、ココだけかけとこう。

そしてもうなんか出掛けるしかない流れになってしまったあたしは、というと。
総悟さんが落としたお煎餅の粉が大量に落ちてる所だけ軽く掃除機をかけ、お財布だけもって慌てて玄関に向かうのであった。

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