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「……。…多すぎたかな、コレ。


ご飯、味噌汁、卵焼き、酢の物、肉じゃが、焼き魚、ほうれん草のおひたし、金平ごぼう、納豆、沢庵、海苔、サンドウィッチ、コーンスープ、サラダ、ヨーグルト

テーブルに並んだこの料理の数々は、一応総悟さんとあたしの朝ご飯である。統一性は…ない。

母様から料理を教わった時に、食事は朝食が大事って繰り返し言われたもんだから、かなり気合い入れて作ったんだけど、度が過ぎてテーブルの上はもう他には何も乗らない状態になってしまった。とりあえずご飯もパンも用意して、どっちが好みでも対応できるようにした結果、コレだ。

体力のいるお仕事とは言え、流石にこれは品数が多い。まあ少ないよりかは多分ましだけどこれはいくらなんでも多い。

…せめて総悟さんが寝る前に朝御飯はパン派かご飯派か聞いとくべきだった…そしたらきっとこんなめちゃくちゃなことにはならなかったただろうに…


「……ふぁ……あ゛―…眠ィ……。」

「あ。総悟さん、おはようございます。」

「…んー……はよ…。」


そろそろ起こしにいかないと、と思って寝室に行こうとしたら、総悟さんが部屋に入ってきてテーブルの前に座った。
挨拶こそしてくれたものの、俯いて動かないし目は殆ど開いてない。

眠そうっていうか、むしろまだ寝てるんじゃ………これは、朝御飯食べれる状況なのだろうか。

でも時間が時間だし、流石に二度寝は勧められない。だから眠気覚ましにコーヒーを入れようとしたら総悟さんに「…茶ァ。」と言われた。
一瞬、何言ってるんだろうと思ったけど、お茶がいるってことだろう。多分。
どうやら総悟さんはコーヒーよりお茶が好きらしい。あたしは朝一で沸かしていたポットのお湯を急須に入れてお茶を入れる。

湯呑みからは湯気がいっぱい出ていて、正直熱すぎたかもしれない。


「熱いですから火傷しないように気を付けて下さいね、」

「おー…。」


総悟さんはゆっくりお茶を飲んでいく。
彼は湯呑みを置くと、卵焼きに箸をのばし、口に運んだ。
暫く無言で箸を進めていく彼をみていてかなり不安になる。
食べてくれているところを見ると、不味いってことはないんだろうけども。

あたしも総悟さんの正面に座って、朝食を食べ始める。

…自分としては、なかなかだと思うけど総悟さんの好み知りたいんだけども。


「お口に合いますか?辛すぎたりとか、しないですかね?」

「別に。」

「えっと…」


その後に続く言葉は、『口に合わねーよ』ってことか『問題ない』ってことかどっちですか。

相変わらず、総悟さんは黙々と箸を進めていく。表情は変わらない。ほんとびっくりするくらい淡々と食べているけど、これから毎日彼の食事を作るんだ。折角食べてもらうならやっぱ気持ちよく食べて貰いたい。なんとか好みを聞き出そうと、質問を続ける。


「あの、そうだっ!総悟さん朝はパンかご飯どちらがお好きですか?」

「あー…別に。」

「じゃ、じゃあ…お好きな食べ物は…?夕食で食べたいものとか、」

「いや、……」

「嫌いなものは?」

「ん、…。」

「…。」


最低限知りたかったことを尋ねてみたけど、返事は曖昧なものばかりで。正直困る。
パンかご飯か聞いたのはどっちか答えてほしい。まあどうでもいいってことなのかもしれないけど。

浅く溜め息をついたら、総悟さんが何かを思い出したように「あ。」と、声をあげた。


「…どうかしましたか?」

「…食いたいモン、ありやした。」


あたしはその言葉をきいて、ホッとする。

これで晩ご飯は総悟さんの好みのものが作れるし、一安心だ。
ちょっと嬉しくなって、彼の答えを待つけれど、総悟さんから返ってきたのは「……えーと、とりあえず駄菓子。」というもので。
いや、まあ確かに食べたいのかもしれないけど夕食の献立の参考にはならなくて、がっかりしてしまう。期待させないで欲しい。

けど総悟さんはそんなあたしの気持ちなんて知るわけもなく。


「最近食ってねーんで。麩菓子とか。」

「……麩菓子、」

「そういやアンタ駄菓子食ったことあんのかィ?」

「…いや、食べたことないですけど。」

「へー…流石お嬢。」


彼は感心したようにそう言うと、また箸を進め始めた。結局あたしが知れたのは、全然これからの生活に直結しないことで。
ただでさえ不安思ってた結婚生活を更に不安に思ってしまった。


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