サクラサク季節

「──澪、聞いてんのか?」

 ぼんやりと外を眺めていた視線を声の主に移すと、呆れた表情の陣平ちゃんと目が合う。

「……全然聞いてなかった」
「何でだよ!」

 ぺちんとデコピンされる。地味に痛いからやめて欲しい。

「進路なんて知らん……私の後ろに道が出来る……」
「ハァ……お前の頭だったら何処にでも行き放題だろ」
「進学はわかるけど進路とか知らん。働きたくない」
「それでニートなんて書くから呼び出されんだよ」
「世知辛い……」

 机に突っ伏すと、わしわしと頭を撫でられる。

「お前ホントに将来何になりたいか何にも無いワケ?」
「特に無いな」
「研究職とかは?」
「自由がなさそうだから嫌だ」
「教師とか」
「学級崩壊待ったなし」
「パイロット」
「行き先は自分で決めたい」
「我儘が過ぎる」

 そしてまた深いため息をつく陣平ちゃんを横目で見ながら、身体を起こして頬杖をつく。意味もなくシャープペンシルを回し、未だ空欄のままの進路希望表を睨む。

「第三希望までとか無理ゲー過ぎる。あみだくじでも作るか」
「ホントにそれでいいのかよ……」

 二人でぐったりしていると、日誌を置いてきた研二くんが教室に戻ってきた。

「あれぇ、まーだ悩んでんの?」
「澪の未来が見えない」
「一寸先は闇」
「やさぐれてるなぁ」

前の席の椅子に座り、研二くんはひょいっとシャープペンシルとプリントを奪う。

「じゃー、もう俺たちで決めちゃお」
「頼んだ」
「それでいいのかお前……」

 陣平ちゃんが心底呆れた声を出す。研二くんがんー、と唸りながら首を傾げた。

「まず第一希望ね。俺たちと一緒で警察官!」
「それいいな。採用」
「えー」
「次、第二希望はー、お医者さん!」
「あー、向いてそう」
「えー?」
「最後、第三希望……じんぺーちゃん何がある?」
「あー……弁護士とかどうよ」
「いいねぇ、採用」
「えー……」
「はい出来た! やったね澪!」
「よし帰るぞ」
「何で全部国家公務員……」
「文句言うなら自分で考えろ」
「それでいいです」

 希望だからね、必ずしもそうなるとは限らない。いつものように三人でわちゃわちゃしながら、夕暮れの中学校を後にした。


 * * *


 ゴウ、と唸りを上げて頭上を飛行機が横切る。久しぶりの日本に、ホッと息をつく。タクシーに乗り込み、大学へ提出する書類をもう一度確認する。不備はなさそうだ。書類を鞄にしまい、懐かしい外の景色を眺める。咲き終わりの桜が、青葉の影からちらほらと見えた。
 暫くして目的地へ到着したので、キャリーケースを下ろしてくれた運転手さんに礼を述べ、帝都大学の門を潜る。ゴロゴロとキャリーを引きながら歩く私は人目を引いている。うーん、失敗した。
 事務所で手続きを終え、校内図を眺める。貰った講義予定表と見比べながら、明日からの予定を立てていると、隣に人の気配。

「もしかして、迷子?」
「いや、迷子ではない。今のところは」

 私の返答が面白かったのか、黒髪猫目の彼はふは、と破顔した。

「新入生?」
「まぁ、新入生になるのか? 二年生だけど」
「へぇ、じゃあ同級生だ。俺、諸伏景光。よろしくな」
「雨音澪だ、よろしく」
「えっ」
「えっ?」

 名乗ると、猫目の彼は驚いた声を上げる。

「……もしかして、海外留学から編入してきた?」
「そうだけど……何で知ってるんだ?」
「いや、噂になってるぞ?」
「えっ。何で?」
「編入試験、新学期試験と同じだったらしくて点数張り出されてたけど、満点で一位だったよな?」
「はい??」

 えっ嘘だろまじか。はぁー……失敗した。

「えぇ……あー……まぐれだよ」
「ずっと主席キープしてた俺の幼馴染みがびっくりしてたよ」
「うわぁ……申し訳ない……」

 思わず片手で目を覆うと、隣からくすくすと笑い声が聞こえる。

「なぁ、雨音さん? 澪さん? どっちで呼べばいい?」
「別に何でもいいけど」
「じゃあ澪って呼んでいいか? 俺もヒロって呼んでくれていいから」
「あぁ、うん、いいよ、わかった。ヒロ、君の幼馴染みに次回は大丈夫だって伝えておいてくれ」
「どう言う意味だ?」
「あー……まぐれだから、次は順位落ちる」
「ふーん? まぁ、伝えとく」

 そんな話をして、彼と別れて契約していたマンスリーマンションへと向かう。必要最低限の物しかないがらんとした部屋に、キャリーを隅に置きながらぺたりと座る。なんだかどっと疲れた。
 先に送っておいた荷物から着替えを取り出し、シャワーを浴びて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一気に飲み干す。荷解きする気も起きないので、そのままベッドへ飛び込んで意識を飛ばした。


 * * *

 その日、私は新しい住まいの内覧に来ていた。

「……何だか外が騒がしいですね?」
「本当ですね、何でしょう? ちょっと見てきますので、雨音様は少々こちらでお待ち下さい」
「わかりました」

 担当の女性が部屋の外へと向かい、私はがらんとした部屋に取り残された。外の気配に気をやりながら、ぼんやりと外を眺める。地上21階の景色は、中々に壮観だ。
 暫くして、バタバタと数人の足音が部屋に響く。担当さんが顔色を悪くして、私の手を引いた。

「あの! ばく、爆弾が! 下に! あの!」
「えっ、爆弾?」
「すみません! 警察の者ですが、現在こちらのマンションに爆弾が仕掛けられており、避難誘導をしております! お二人とも早くこちらへ!」

 言われるがままついていくと、警察官はエレベーターを睨んであぁ、くそ、と悪態をついた。エレベーターは地上1階で止まったまま、動く気配がない。

「非常階段を使いましょう」

 その提案に内心ため息をついた。明日の朝はきっと筋肉痛だろう。

 エレベーター奥の非常階段を降りて行くと、開けっ放しになった20階のドアの向こうに、見慣れた顔を見つけて思わず足が止まる。

「雨音様! はやく!」

 担当さんが階下から叫んでいるが、ちょっと今それどころじゃない。

 壁に背を預けて電話しながら一服していたタレ目のロン毛と目が合った。ぎょっとした顔をしているが、ねぇ研二くん、それどころじゃないのでは?

 カツカツとヒールを打ち鳴らしながら、彼の前を横切る。
 「澪っ!? 何でここに!?」とか驚いてる場合じゃないでしょう研二くん!!
 爆弾を取り囲んでいた爆処の方々がシールド越しに何か言っていたが、無視だ無視。

 爆弾横に放置されていたペンチを手に取り、しゃがみ込んで無心で解体する。あぁほら、これ遠隔できるやつ。

 ピーと云う電子音の後沈黙した爆弾を見下ろして、横でオロオロしていた研二くんを見上げる。

「研二くん」
「っ、ハイ」
「いろいろ言いたいことがあるけど、とりあえず殴らせろ」

 間髪入れずにしゃがんだまま研二くんのボディに一発拳を叩き込む。うぅ、と呻きながらうずくまる研二くんの前に仁王立ちして、にっこりと満面の笑みを浮かべると、私につられた研二くんも引きつった笑みを浮かべた。

「この事は私から上層に報告する。陣平ちゃんたちからもお説教と愛の鞭を入れてもらう」
「うっ、ハイ」
「だから私からは何も言わない。言い訳も謝罪も受け付けない」
「……ハイ」
「それから、私がここにいた事を絶対に報告しない様に。……他の皆さんも、よろしくお願いします」

 爆処の方々に目配せをして、恐らく班長であろう年配の方に向けて小さく頷くと、神妙な面持ちで頷き返してくれた。

「そう言う事だから研二くん、しっかり反省する様に」
「ハイ」

 項垂れる研二くんの頭をわしゃわしゃと撫でて、私は非常階段を降りた。


 * * *


 講義を受ける準備をしていると、声を掛けられた。

「隣、座っていいか?」
「はぁ、いいと思うけど……」

 席はあちこち空いているのに、何でわざわざ隣に座るんだろうか。お気に入りの場所?

「移動するから使うといい」

 腰を浮かせると、腕を掴まれた。

「すまない、ちょっと君と話がしたくて。ここに居てくれないか」
「えぇ……?」

 何でだ。私何かした?
 疑問符を浮かべながら隣を見ると、綺麗な水色と目が合った。

「どちら様……?」
「降谷零だ。ヒロから話を聞いた。君、雨音さんだろ?」
「そうだが……あぁ、もしかしてヒロの幼馴染みの?」
「……いつの間に名前で呼び合う程仲良くなったんだ?」
「えっ……初対面の時から」
「は?」
「よくわからんがすまない」

 思わず謝ると、彼はそうじゃなくて、そうだけど、と呟いた。どっちなんだ。

「……じゃあ、俺も名前で呼ぶから、澪も俺の事名前で呼んで」
「はぁ…ゼロ?」
「あ?」
「サーセン」

 えっ、めっちゃこわい。ヤンキーかよ。

「……いや、ゼロでいい。それで、その、ヒロが、澪から伝言って伝えてきた事、本当なのか?」
「ん? あー、あれか、まぐれの満点」
「そう。それ」
「まぐれだっただろ? 実際順位落ちてる」
「ホー? それから三回連続ジャスト十位が? ふーん?」
「いやぁ、偶然だな」

 視線をノートに移して素っ気なく返すと、顔を覗き込まれる。近い近い。パーソナルスペースどうなってんの。初対面だぞ。研二くんかよ。

「手を抜いてるのか? 馬鹿にしてるのか?」
「何の事だか分かりかねます」
「ふざけるなよ」
「えぇ……自意識過剰が過ぎる……」
「あ゛?」

 おっといかん、口が滑った。至近距離で凄まないでもらえませんかね。普通に恐いわ。

「講義始まるぞ」
「……終わったら覚えてろよ」

 えっ、このまま受講するとか何と言う拷問? なるべく隣を視界に入れないように板書を書き写していると、小声で声を掛けてくる。うーん、やめてくれないかな?

「……何でしょう」
「ノートに書いてるそれ、何語なんだ?」
「……スウェーデン語とスペイン語」
「見づらくないか?」
「帰ったら日本語で書き直すからな」
「へぇ……何カ国語使えるんだ?」
「さぁ? 読み書きだけなら今のところ二十くらいか」
「は?」
「えぇ……駄目なのか?」
「いや、駄目ではない。凄いな」
「はぁ……ありがとう?」

 何だそれ、と言いながら彼は小さく笑った。


 *


 陣平ちゃんからメールが来た。久しぶりにデートしようぜ、って。

「相変わらず集られてんなぁ」
「オイコラ、見てねぇで助けろ」
「この子誰ぇー? もしかして彼女ぉ?」
「えぇー、地味ぃ! マジウケるー!」

 両腕にケバいお姉様を装備した陣平ちゃんが、眉間にシワを寄せて盛大に舌打ちをする。柄が悪ぅい。

「だから待ち合わせやめよ? って言ったんだ。こうなる事は火を見るより明らか」
「悪かったって。あーもー!」
「ほら、ケバいお姉様方、散って、どうぞ」
「ハァー? 何このブス! ムカつくんですけど!」
「そりゃどうも。良いから散れ。目障りだぞ、寄り道せずにまっすぐ山に帰れ」
「お前なぁ…あー、悪いけどこれからコイツとデートなんで。いい加減離してくんねぇ?あとコイツ、ブスじゃねぇから」

 そう言うと陣平ちゃんは、私の野暮ったい伊達眼鏡を外して、手のひらで前髪を上げる。
ちょっと、公開処刑やめてくんない?

「な、何よ! 別にアンタなんか興味ないわよ! 行こっ!」
「フン! つまんねー男!」

 鼻息荒く去っていったケバいお姉様方に、陣平ちゃんは深いため息を吐きながら私の装備を元に戻した。

「うーん、4点くらいの捨て台詞」
「お前なぁ、いや、俺が悪かったけどよ……」
「陣平ちゃんは優しいが過ぎる。もっと立ち直れないくらい拒否らないと」
「悪かったって」
「はいはい。で、どこ行く?」
「特には決めてねぇけど、どこ行きたい?」
「んー、お腹すいた」
「ちと早いけど飯にするか」
「やった!」

 二人で並びながら、目についた飲食店をあーでもないこーでもないと吟味しながら宛てもなく歩く。小洒落たレストランに決めて、席に通され二人でメニューを決めオーダーを通し、料理を待つ間、たわいもない話をして、料理を食べて、また街をブラブラする。陣平ちゃんとのデートは昔からこんな感じだ。

 いつの間にか繋がれていた手を引かれながら、少し大きな公園に着いた。自販機で陣平ちゃんがココアを買ってくれて、ベンチに座りながらちびちびと飲む。陣平ちゃんはコーヒーを飲みながら、私の髪で遊んでいる。
 私はぼんやりと行き交う人々を眺める。楽しそうに遊ぶ子供、犬の散歩をする人、気合の入った服装でジョギングをする人。

「そういや、大学はどうだ? 友達出来たか?」
「うーん……友達というか……何だろうな?」
「何かあったのか?」
「十番おばけになり損ねて、目をつけられたと言うか……」
「はぁ? 何かされたのか?」
「目の敵にされたと言うか……」
「あ?」
「目をつけられた方は和解したけど、今度は違う方向から目の敵にされた、が正しいな」
「なるほど、前者が男で後者が女か」
「正解」
「相変わらず同年代の女と仲良くならねぇのか」
「それな」

 はは、と乾いた笑いを漏らすと、頭を乱暴に撫でられる。別に今更どうでもいいさ。陣平ちゃんと研二くんのおかげで慣れたもんだよ。はぁ。


 * * *


「雨音、ちょっといいか」

 呼ばれ、にらめっこしていた書類から顔を上げる。

「はい、どうしました風見さん」
「第3会議室まで来てくれ」
「今行きます」

 そう言って席を立ち、会議室へ向かう。中に入ると、先に来ていた風見さんが難しい顔をしていた。さっと室内を見回し、盗聴器などが無いことを告げると、風見さんは小さく息を吐く。

「この間の件だが」
「どの件か明言していただかないとわかりかねます」
「……その、警視庁の」
「把握しました。で、お渡しした資料は役に立ちましたか?」
「あぁ……おかげで査問会が開かれることになった」
「わぁ、私も是非参加したいです。ヒロを売ろうなんざ考えた事、今世で精神が崩壊するギリギリの生き地獄を味合わせた後に墓の下からこの世の終わりまで後悔するくらいギチギチに締め上げて差し上げたい」
「相変わらず思考が物騒だな……」
「でも風見さんもそれくらいしてやりたいでしょ?」
「当然だ」
「ですよね!」

 ガッチリと硬い握手を交わした後、風見さんが話を続ける。

「それで、この件は降谷さんにはまだ話さないのか?」
「ただでさえ潜入調査で神経すり減ってるのに、追い討ち掛けます? ゼロとヒロが人殺したって死にそうな顔で相談してきた話しましょうか? 正義って何だ? って訊かれた私の心境論文にして提出しましょうか?」
「……すまん。もう暫くは黙っていよう。査問会が開かれれば、嫌でも耳に入るだろう」
「そうですね。ゼロとヒロのお叱りは私が甘んじて受けますので。上層の方々にもそうお伝えください」
「わかった。だが本当にいいのか?」
「えぇ。私は何もしてあげられないので」

 だからこれでいいんですよ、と告げると、風見さんは神妙な面持ちで頷いた。

「……それから、あの2人から報告があった幹部の事だが」
「あぁ……スピリタス、でしたっけ? オカルト異能持ちの」
「雨音はどう思う?」
「んー、どうでしょう。会ったことがないので真偽を図りかねますね。聞いただけだとトリックがありそうとしか」
「だよな……見ただけで人殺しができるなど、あってはならない」
「……そうですね。起訴しようにも立件できない」
「今のところは無差別に殺すような事はしていないようだが……上層に何と報告したらいいのやら……」
「うーん、悩ましいですね。そのまま伝えたらゼロとヒロの精神状態疑われそうです」
「……だよな」
「話を聞く限り、今のところ二人に懐いてるようでしたし、このまま協力者に出来ればまぁ、万々歳ですけど、それはそれで爆弾抱えるような気もしなくもないです」
「捕縛不可、死傷不可、となるとお手上げだからな」
「もう懐柔するしかないですね」
「はぁ……やはりそうなるか」

 風見さんは胃の辺りを押さえながら遠い目をした。可哀想に。後で胃薬セット差し入れよう。


 * * *


 警察学校の入学式当日。

 いろいろ終わったその後で、ミーティングルームで睨み合う2組の幼馴染みコンビに挟まれて、私は彼方を見つめていた。わぁ、おそらきれい。

「……で、コイツら誰」
「陣平ちゃん、紹介するからメンチ切るのやめよ? ゼロも落ち着こ? 君たち顔が近いよ? チューすんの?」
「ンっふ……じんぺーちゃんステイ」
「ほらゼロも、ッく、離れような? な?」
「何で笑い堪えてるんだよヒロ」
「ニヤついてんじゃねぇよハギ」
「八つ当たりが過ぎる」
「「だからコイツら誰なんだよ、澪!」」

 仲良くハモって、また振り出しに戻る。
 もーこの2人ほっとこ。もう知らん。

「研二くん、こちら大学からの友達の諸伏景光。隣の金髪ヤンキーは降谷零。ヒロ、こちら小学校からの友人の萩原研二。隣の天パヤンキーは松田陣平。よろしくどうぞ」
「よろしく〜」
「おう、こっちこそよろしくなぁ」
「ヤンキー2人は肉体言語ではなく人間の言葉で会話願います」
「「誰がヤンキーだ!!」」
「ゼロ、澪があきれてるぞ」
「じんぺーちゃん、澪に嫌われちゃうよ?」
「「チッ!!」」
「同族嫌悪かよ」

 嫌々握手を交わす2人の手からミシミシミシィ! って効果音するんだけど、そんなん初めて聞いたわ。肉体言語やめろって言ったじゃん。

「これ以上喧嘩するようであれば、減点方式で最終的に空気扱いになるからな?」
「「すいませんでした!!」」
「だっはっは!! 仲良いな、俺も仲間に入れてくれよ」
「おお勇者よ、無謀にも程がある。そんな勇者のお名前は?」
「伊達航ってんだ、よろしくな!」
「伊達アニキよろしく! 私は雨音澪だ。順番に、ロン毛タレ目が萩原研二、天パヤンキーが松田陣平、金髪ヤンキーが降谷零、黒髪猫目が諸伏景光。みんないい奴だから、仲良くしてね」
「おう! よろしくな!」
「はい、そこのヤンキー2人はこの心の広さを見習うように」
「……よろしく」
「……宜しくな」
「急に落ち込むのやめな? 私の心のグッピーが全滅する」
「まぁまぁ、みんな仲良くしような?」
「そうだな、喧嘩してもしょうがない」

 ねぇ、幼馴染みって過激派と温厚派のペアしか認められてないの?

「そう言えば、澪の幼馴染みの……えぇと、ほら、俺たちと大学が同じだった」
「あー、ミヤの事?」
「そう、雅だ。アイツはどうしたんだ?」
「どうもこうも、ミヤは医学部だからまだ大学生」
「「「「えっ」」」」
「あぁ見えてミヤ、頭はいいぞ?」
「そうなのか……」
「まぁ、この間とうとう元カノに刺されたらしいけど」
「うわぁ……」
「自業自得だ。十股って。ヤマタノオロチもびっくりだわ」
「うっわぁ……」
「頭はいいけどバカなんだよな。尚、ミヤは浮気ではないと主張し、全員平等に愛していると宣っております。石油王かよ」
「相変わらずやべぇな」
「女性関係ぶっ飛んでるよねぇ」
「ちなみに十人中二名は男性な」
「「「「「うわぁ…」」」」」

 浮気ダメ、絶対。


 * * *


「……あれ、ゼロとヒロだ。二人でデートか? 仲良しだな」

 街中で二人を見つけて、声を掛けたらキョトンとされた。解せぬ。

「……えぇと、誰だ?」
「ほぼ毎日会ってるのに忘れられるとかショックだわ、ねぇひどくない? ヒロ」
「えっ……あ、もしかして澪?」
「もしかしなくてもそうだけど」
「ハァ!? 嘘だろ」
「ちょっとゼロがさっきから失礼なんですけど、どう思うよヒロ」
「そりゃまぁいつもと雰囲気違うから……そんなにおめかししてどこ行くんだ?」
「デートだけど」
「は?」
「ゼロいいかげんにしなよ? 泣くぞ」
「はは、そっか、デートかぁ……」
「相手は? そんな可愛い格好して……まさか男じゃないだろうな?」
「男だけど」
「あ?」
「ゼロまた寝不足なの?」
「いやぁ、違うと思うなぁ」
「澪、お前、付き合ってる奴いたのか」
「え?居ないけど」
「は?」
「んん? えーっと澪、誰とデートなんだ?」
「幼馴染み」
「付き合ってないのにデート?」
「二人で出掛けたらデートじゃないのか?」
「あー、そういう認識かぁ……なるほど、良かったなゼロ」
「なっ、別に、俺は!」

 何だかゼロがわたわたしてるけど、待ち合わせの時間に遅れそうだったからそのままバイバイした。

「あ、居た。ミヤ……って何してんの」
「俺もよくわからん」
「路上でハーレム形成すんのやめな? 頗る迷惑だろ」
「ハイハイ解散〜モブのみんなは持ち場に戻って〜」
「茶番が過ぎる」

 ベンチから立ち上がると、ミヤは久しぶり、と笑った。

「あれ、ミヤ身長伸びたな? 竹の子か?」
「お前と会うの二年ぶりなんだけど、もしかして忘れたかぁ?」
「あー、私のイマジナリーミヤビは3歳だから」
「へぇー、何故か幼馴染みのイマジナリーフレンドになってたとか今世紀最大の知りたくなかった事実」
「やめろよ、イマジナリーミヤビは幼女なんだぞ。安易にふえぇ、って鳴くんだ」
「ご本人を前にやめて差し上げろ」

 ふざけながら目的地へてくてくと歩く。

「なぁ、さっきからずっとつけられてんだけど、知り合いか?」
「あー、知り合いだな。大学の友達。待ち合わせの前に会った」
「ふーん、巻くか?」
「そうだなぁ、巻いとくか」

 目で合図して、それぞれ別方向に別れる。私は路地裏、ミヤはゲーセン。
 お互いに対ストーカースキルがマックスなので、容易く巻けた。現地集合で用事を済ませ、夕刻にミヤと別れて帰路に着く。

「あれぇ、澪じゃん! 久しぶり!!」
「お、ホントだ澪だ。元気だったか?」
「研二くん、陣平ちゃん、久しぶり! 元気だったぞ、2人もでっかくなったな」
「四年ぶりだからねぇ、どっか帰り?」
「うん、ミヤとお見舞いデートしてた」
「それはデートなのか?」
「二人で出掛けたらデートだろ?」
「うーん、判断に困るなぁ」
「あー、せっかくだし一緒に飯行かね?」
「いいねぇ、何食べる?」
「俺この前友達からオススメのいい店聞いたから、そこ行こうよ!」
「研二くんのチョイスなら間違い無いな」
「決まりだな」

 少し時間が早いけど、ゆっくりしようって事で3人で食事する。

「そういや、大学の友達とやらはどうなったんだ?」
「あー、今日会ったよ。声掛けたら誰だって言われた」
「それはしょうがないよねぇ、劇的ビフォーアフターだもん」
「それな」
「どっちの状態がビフォーでアフターなのか」
「うーん、それはまぁ、言わないけどさ」
「この格好すると未だに変質者寄ってくるんだけど何故なのか。今日だけで三人ほど警察沙汰なんだけど」
「相変わらずだな……」
「うへぇ、怪我とかしてない?」
「怪我はしてない。ただおまわりさんに過剰防衛ギリギリだぞって怒られた」
「それも相変わらずだな……」
「相変わらずだね……」
「顔色悪いぞ? 大丈夫?」
「いや、ちょっと昔を思い出しただけ……」
「それってもしかしなくても中学の時に陣平ちゃんのストーカーおじさんを社会的にも身体的にもボコボコにしたやつ?」
「「ウッ頭が」」
「さすがにそこまでする時間はなかったよ」
「時間があったらやるのか……」
「うーん、陣平ちゃんの件は陣平ちゃんに被害が出たから容赦しなかっただけだけど」
「まぁ、その件に関しては感謝してる」
「最近は大丈夫?」
「大丈夫だ、鍛えてるし、俺もハギも自衛してる」
「それなら良いんだが」

 その後も楽しく食事して、帰りは2人が送ってくれた。



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