08
 皿に鎮座したシュークリームは残り一つ。大して好きでもないが好物を目の前に向かえに座っていた双子の兄はぎらぎら餌を捕まえる獣のように瞳を光らせていて普段の温厚さが欠片すら見受けられない。そんな相手を前に大のゲーム好きなバクラは単純に負けられないと思った。

「貰った! 俺様の勝ちだぜ、ククク…!」

ルールは簡単に早い者勝ち。一々説明しなくとも兄弟がいるのなら至極わかりやすく、自然なルールだ。
腕を伸ばして手のひらが触れたところで勝利を確信した。筈なのに。突風が吹き、気を取られたその一瞬でシュークリームは皿の上から消え去っていた。

「馬鹿な!!」
「甘いねバクラ。まさか僕がやられるとでも?」

そう、代わりに了の手にしっかり渡っていた物を見て驚愕する。好物を獲得する為ならどんな状況でも引っくり返す、それが兄の強みでありバクラの苦手とする部分だった。こんなことでさえ勝てないとなると自分には運というものが無いに等しく感じてきた。良いところまで行っておいて最後には逆転され負けてしまうのがそろそろパターンで悔しさのあまり髪を掻き毟る。美味しそうに頬張る了を恨めしそうに見つめた。
 すると末の弟が双子の兄の方の服をきゅっと握り、動きを止めさせる。何々?と首をかしげた了へ勇気を振り絞ったかのようにはっきりと言葉を発した。

「いじめちゃ駄目だよ、了兄ぃ。バク兄ぃが可哀想」
「ほへ?」
「あ?」

別に苛めた記憶も苛められた記憶もない双方は声を揃えて驚く。恐らく一連の出来事の一部、きっと項垂れているバクラを了がしたり顔で見下していたところを見て苛めていたと勘違いしたのだろうか。

「あのね、こーくん。僕は誰も苛めてなんていないよ」
「けどバク兄ぃがそのシュークリーム食べたがってたし…二人で半分こ、しよ?」

こてんと首を傾けて純粋且つ同情の色を宿した瞳で訴えられ一番堪えたのが誰よりもバクラだ。了は了で末弟に嫌われてしまったら嫌なので涙を呑んでシュークリームの半分を、ショックで何かをぶつぶつ呟く片割れへと、べしゃり。手に置いた瞬間カスタードクリームが溢れた。

「あー!」

声を上げたのはもちろん了。
 しかしそんな事態に急遽対処したのは仕事からちょうど帰宅してきた長男だった。神経の集まりである指先にざらりとした感触がして、バクラの背はひくりと反応し意識は兄の口から忍び出る赤いものに集中した。

「な…、な……!?」

生温かなそれが大部分である手のひらへ移動したとき流石にハッとして綺麗な方の手で美味いと称賛していた盗の襟首を引っ張りあげる。物足りなさそうに引かれるまま離れる彼に怒鳴ろうとすればまた感じる違和感。犬のようにシューまでも貪る了に目を見張った。 だから、お前らは何なんだ! そんな悲痛な叫びは露知らず。頬を染色してうっとりと食す様に子盗までもがいいな…と呟きだす現状に頭痛がしてきた。



「天音もどおー?」
「………いい」

 いくら大好きな了の誘いであっても天音はソファーから動こうとはしない。男四人で盛り上がる食卓を横目に苦笑を漏らした。

 

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