■ 猫科の彼女は鰐がお好き
“クロコダイル”という言葉が耳に届いて、私はその瞬間にタッと地を蹴っていた。
一気に距離を詰めれば主人はソファに座って何か話している素振り。机の上のカタツムリから声がして、その声音にまたテンションが上がる。近くでうろうろそわそわすれば、伸びてきた大きな手がひょいと私を抱え上げた。
「フッ、フッフッフッフッフッ」
「何を笑っていやがる」
「※※※がすっ飛んできたからよォ…お前に会いたくてしかたがねーんだとさ」
主人が私の心境を代弁してくれる。そう、その通りなのだ。私はクロコダイルに会いたくて仕方がないのだ。
彼はやって来るのか、それともこちらが行くのか、それなら私も連れていってもらえるのか、気になってたしたし主人の太股を叩く。困った奴だなと笑いながら主人は私の頭を乱暴に撫でて、それから告げる。
「早く来ねェとそのうち愛想尽かされるぜ、鰐野郎」
◆ ◇ ◆
俺は猫を飼っている。
黒猫だ。目も黒で体毛も全部黒で、闇に紛れるとどこに行ったんだか分からなくなる色彩のやつだ。世間一般的には黒豹と言うらしい。
そいつは雌で、大層手触りのいい毛並みの利口な奴なのだが、困ったことが一つ。何故かクロコダイルに熱烈に懐いてしまっていることだ。
《主人、主人、クロコダイルが来るの? ねぇ、ねぇねぇ》
そんな声が聞こえてきそうなくらいにテンションを上げていたのは俺がクロコダイルに電話を掛けた3日程前のこと。それからというもの、※※※は日々窓際で外を眺めて過ごしている。到着までまだ5日は掛かるだろうに。
無理矢理退かそうとすると牙を剥いて嫌がるから、俺は大概放置モードだ。自分のご主人様よりクロコダイルにゾッコンってのはどういう訳だとぼやきながら艶やかな毛並みに指を通すが、まぁ当然ながら答えは返ってきやしなかった。
◆ ◇ ◆
敷地に踏み入った次の瞬間、俺は黒い毛玉にじゃれつかれていた。
豹──それも黒豹だ。ドフラミンゴのペットであるそいつ、※※※は何故か俺に懐いていて、毎度こうして足元に纏わり付いてくる。
体長は180を越えんばかり、尾長も含めればどこが“猫”だという大きさだ。研ぎ澄まされた爪牙は人間に向ければ或いは凶器になり得る鋭さを備えている。
「ちっとは落ち着け※※※、お前がそう──イテッ!引っ掻くなよ分かった、分かったって」
その黒豹を黒猫呼ばわりしているドフラミンゴは※※※を俺の側から退けようとして見事に失敗し、腕の中からするりと逃げられている。それなりの高さから優雅な動作で飛び降りた※※※はまた一直線に俺の足元へ、だ。
体を擦り付けられて甘えられ、仕方なく頭を撫でてやる。その途端に分かりやす過ぎる程に嬉しげな色を見せる瞳は俺に釘付けだ。一挙一動を具に観察されているようで、獲物とでも思われているのではないかとちらりとながら考えてしまう。
「あーあ、そんな無防備に腹見せちまって…愛されてんなァ鰐野郎」
「寧ろテメェが嫌われてんじゃねェのか」
もっと撫でろと言わんばかりに、※※※はごろごろと俺の前で転がっている。媚びる相手をどう考えても間違っているが、ドフラミンゴの悔しげな表情というのもなかなか見られたものではない。害がある訳でもなしもう暫く放っておいてやってもいいかと、俺はまた擦り寄せられた頭を撫でてやるのだった。
ドフラが猛獣飼ってたら可愛いなぁっていう
14.04.17
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