どうしてこうなった。


今回の遠征の隊長を任された薬研藤四郎は必死に頭を回転させた。確か今回の遠征の目的は五虎退や乱、最近やってきた博多の練度を上げる為のはずだ。それほど難易度の高くない任務先を大将に選んでもらい、それなりに練度の高い厚と共にこの遠征に来たはずだったのに。


「くっそ、どうなってやがる…」


順調に敵を倒し、遠征を進めていた矢先の事だ。突如闇夜に乗じて現れたのは練度の高い薬研たちでも表情を引き攣らせてしまうほどの存在。いや、寧ろどうしてこの遠征先にヤツらが居るのだろうかという疑問の方が大きかった。


「薬研!」


飛んできた厚の声に、自分の間近まで迫る気配を感じてとっさん身を捩って自身を振るえば相手の刃がぶつかり合ってキインと音を立てる。弾かれ、距離を取ったソイツは少し残念そうに(あるのか分からない)表情を歪ませながらこちらを見ていた。既に疲労はピークに達していて肩で息をするこちらとは対照的に相手側は疲れているような素振りは一切見えない。最悪の事態でありながらもう怒りを通り越して呆れである。本当、とんだ災難だ。


「よそ見すんな!」

「すまん!」


兄弟も激しく体力を消耗している。これは下手に攻められれば破壊される可能性だってあるだろう。だが、もう少し。もう少しで助けが来るはずだ。そのために同行していたこんのすけを本丸にいち早く帰還させたのだから。きっと、主が手を打ってくれる。それまでの辛抱―…。
そう言い聞かせていた薬研の目の前できらりと光るその無機質な刃が1人の兄弟目がけて伸びていく。バランスを崩し、体制を立て直そうとしている兄弟にその一振りを避ける術は、無い。


「五虎退!」


慌てて地面をける。ヒュッと闇夜に紛れて風を切って飛び出し兄弟の元に手を伸ばした。直後だった。


「薬研!!」


乱の喉がつぶれる程の叫びで名を呼ばれてフッと視線を移せば、目の前の兄弟同様自分の元にも伸びる無機質な刃。やばい。槍の穂先がこちらを射とめようとかなりの速さで伸びてくる。ああ、間に合わない。そんな考えが冷静に脳裏で過ぎるが、体はどうにか兄弟だけでもと必死に手を伸ばしていた。
視界の端でこちらに身を乗り出している他の兄弟の姿が見えたが、当手に間に合いそうにない。届くとすれば今まさに射止められようとしている自分が目の前の五虎退を突き飛ばせるぐらいの位置に居るという事だけ。だから、せめて、兄弟だけは―…。

刹那。

ピシャーンという音と共に一つの光が自分と敵の間に1つ。そして五虎退と敵の間にもう1つ雷が落ちるように光が落ちる。と、同時にビリビリビリッ―…!!と音を立てて閃光が走りその眩さに思わずその場の誰もが目を閉じ、目を細めた。そして凄まじい光と音が止むと同時にとっさに閉じていた目をすぐさま開く。そこには先ほど自分を仕留めようと襲い掛かってきていた検非違使が少し狼狽えたように後退している姿。そして、その狼狽える検非違使の視線の先に立つ影。


「どうよ、兄貴仕込みの防衛札。触っただけで痛いだろ?」


宙に浮かんだ一枚の札に手を添えている1つの人影。ハラリハラリと微かに舞う薄桃色の花びらの向こうで薄っすらと"彼女"が笑う。その姿に薬研を含め、他の短刀たちも思わず驚いてその存在を何度も確認する。


「お、お嬢?!」

「はいはい」

「はいはーい!ぼくもいまーす!」

「今剣…!」


薬研と五虎退を背に、敵との間に割って入ったのは間違いなく自分達の主の妹あるサツキと、本丸に待機中だったはずの今剣だ。ぐるるるるるる…と獣の如く唸り声を上げる検非違使を平然と睨みつけながら札を翳している。


「な、なんで…?」

「そりゃぁお前たちがピンチと聞きゃあ黙ってなんて居られないでしょーが」

「ぼくたちはとくべつきゅうじょたいです!」

「そう、それだそれ」


にっこりと笑いながら平然と何事もないように今剣と会話を繰り広げる彼女。本当に不思議な人間だ。下手をしたら自分の命すら危ういこの戦場に現れたことを当たり前のように言ってのけるものだから、こっちの方があっけらかんとしてしまう。
と、不意にサツキが今剣とアイコンタクトを交わしたかと思えば翳していた出を動かし、ふっと意気込んで札を検非違使たちの方に飛ばすとその札は真っ直ぐ視線の先の検非違使に向かって飛んで行ってぶつかりビリビリとまた閃光が走らせて検非違使を弾き飛ばす。
それに合わせて今剣がかなりの速度で検非違使と間合いを詰めると一気に自身の得物を振るう。今剣に急所を突かれた検非違使が悲鳴にならない声を上げながら煙と化して消えていく。幾度となく見ているが、やはり妙な術…いや、ばぐ?とやらを利用していると言っていたが毎回凄いと見惚れてしまう。


「サツキさ、んんん…」

「ほらほら泣くんじゃない五虎退。まだ危機的状況は回避できてないんだから」


サツキの姿を見て安心したのか、へなへなと思わずその場に座り込む五虎退にほらほらとまるで一兄のように優しく声をかけながら頭をポンポンと撫でている。実際、他の短刀たちもサツキの姿を見て安堵していた。まず第一に、こんのすけに託した自分達が置かれているこの状況の事が無事に本丸に伝わっている。そこから主に伝わってきっと呼び戻し鳩がすぐに飛んでくることだろう。問題は、そこまで持ちこたえることだ。


「にしても、らしくないじゃないか薬研?いつもの余裕はどこ行ったんだい?」

「ふっ…この状況でも手厳しいな、お嬢」

「いや、よくここまで持ちこたえたって褒めてやりたいぐらいだ」

「へぇ…そりゃあ嬉しいな」


立ち上がった薬研がそっと刀を構えながらサツキの傍に寄り添い、言葉を交わす。彼女の言う通り元々レベルが低い兄弟もそうだが、それなりに経験値のある自分も厚も限界に近い。彼女たちが来なければ一気に崩れるのは時間の問題だった。


「えー、薬研だけずるい!ボクも一生懸命頑張ってるのに!」

「おっ!俺だって!」

「俺ばってん活躍しとる!」

「はいはい、乱も厚も博多もよくここまで頑張った頑張った」


プクゥと頬を膨らませる乱に、焦りながら自分の事も主張している厚と博多。みんな彼女の事が好きなのだ。薬研が独り占めしているように見えて、そのボロボロの身体ながらに思わず声を張り上げたのだろう。さっきまでの深刻な雰囲気が一気に吹っ切れている。


「じきに応援が来る。それまで持たせりゃこっちの勝ちさ」

「っ!了解だ」


此処が戦場である事を忘れてしまいそうになるぐらい、本丸に居る時と同じ笑顔を浮かべて自分達(刀)を見る彼女の顔は本当に安心する。最後の踏ん張りどころだとばかりに気合を入れる言葉を吐くサツキにはいつも助けてもらっている。いや、助けなければならないのはホントはこちら側なのだが…本当に、背中を押して貰ってばかりだ。


「さてさて…どうしてこうもものの見事に出くわしたかね。お前ら、打ち合わせでもしてたんだろ?ん?」


兄弟の支援に走る薬研を横目に改めて敵と向き合えば、フワリと風に乗ってカランカランと下駄の音を響かせて今剣が傍らに立つ。"検非違使"と呼ばれるその存在はこのように幾度も訪れていない合戦場にはそうそう姿を現すものじゃないし、そもそも2組同時なんて異常だ。何かの意図があったか、はたまたこの世界のバグか。どちらにせよ、迷惑な話だ。
とりあえず話しかけてはみるがやはり会話は成り立たない。静かに得物を構え直し、こちらを真っ直ぐに見据えている連中に撤退の文字は無い。あくまでも敵はどうであれ戦うつもりらしい。


「ほほう。人間相手でも容赦しないか。まるで遡行軍だな?検非違使諸君?」

「ふふ、サツキをなめるといたいめみますよ」


と、検非違使の内の1体が痺れを切らしたかのように一気に間合いを詰める。その動きにサツキが半歩ほど身を退き、右手を真横に翳す。途端、空間に何か文字の羅列のようなものが宙に並んだかと思えば、次の瞬間にはキインと金属の擦れる音が響く。
斬り込んできた検非違使の得物とぶつかり合うのはいつの間にかサツキの手に握られていた一振りの刀。突如現れた得物に流石の検非違使も驚いたのか、微かに揺らいだ気がした。その一瞬の隙を狙ってサツキはフッと少し力を込めて弾き受け流す。化け物の力だ真正面から向き合っての長期戦は圧倒的に不利だ。


「…ほんっとに、話し合いも何もないのかよ…!!」


苦笑しながら笑うサツキ。唸り声しか上げぬ相手に話し合いも何もないのだが、どうやら相手も敵とみなせば人間だろうと刀剣だろうと関係ないらしい。本当、これでは歴史を変える為なら手段を択ばない時間遡行軍と同じだ。
圧倒的な力の差、数の差でありながらもサツキは笑みを絶やすことは無かった。どこからその笑みがあふれてくるのかは知らないが、彼女がそう吐き捨ててからそれほど間を空けることなく続けてサツキと今剣、そして手負いのこちらに向かって検非違使たちが襲い掛かってくる。


「うらああっ!!」


宙を飛び回る敵の短刀にも、脇差にも臆することなく刀を振るうサツキ。力で敵わない分、彼女には技術とその動きの機敏さに長けていた。これと言って型にはまっているとは言い難い、がどれもこれも彼女と相手の差を見れば一番最善な動きをしている。止めを一気にさせなくても相手を消耗させ、翻弄させ、そして、


「今剣っ!!」

「はーい!」


高らかに呼ばれた今剣が彼女の動きに合わせて敵に止めを刺す。そう、彼女は刀剣男士とも連携を取れるのだ。本当に、どれだけ稽古を積んだのであろうか。辺りを飛び回る短刀たちを手負いでありながらもどうにかこちらも振り払って、一番傷ついている兄弟を安全圏まで守りながら後退する。それを確認しつつ、サツキも徐々に徐々に後退を始める。


「(にしても数が多いな…)」


切っても切ってもキリがない。いや、1体1体が強いのだ。幾ら練度を積んだ今剣とて全員を相手にするには荷が重すぎる。これはもう1振り2振り連れてくれば良かったか…いや、今の私には無理か。とにかく、時間を稼がねば―…。


「っ!サツキ!」



今剣の声に振り返る途端、ギラリと鈍く光る穂先が視界に飛び込んでくる。"槍"だ。そう直感した。


「ふっ!!!」


思いきり身を捩ってその穂先を避ける。が、微かに避けきれなかったらしい。ピッと僅かに走る頬の痛みと微かに舞う毛先。だが、自分自身に問題は無い。そのまま身を捩ってどうにか地面に着地し体制を立て直す。


「相手はちゃんと見なきゃ駄目だろ」


まさか避けられるとは思わなかったのだろう、ニィッと悪い笑みを浮かべたサツキの声が聞こえて検非違使の槍が慌てたように振り返れば、ザシュッという肉を裂くような音が響いた。


「ほら、言わんこっちゃない」

「せっかくサツキがけいこくしてくれたのに、ざんねんですね」


槍の急所を突いた今剣の得物。1人と1振りは笑顔を浮かべたまま切り裂かれ消えていく槍を見つめていた。サンキューと互いにハイタッチを交わすサツキと今剣。突然の襲撃にもこうして刀と息を合わせられる彼女の姿に、その場の誰もが見とれていた。


「…強え」

「本当…見とれるばい」


傍らにいた厚と博多が声を零してしまうほどに。そう俺達刀剣たちが惚れてしまいそうになるほど、彼女の1つ1つの動きは戦場で輝いて見えた。本来は俺達の方が強いはずなのに、どうしてこうも強いのだろう。どうしてこんなにも心強く感じてしまうのだろう。

だが、

敵が全て居なくなったわけではない。槍を切り払ったサツキと今剣の元に更に打刀や脇差、短刀たちが襲い掛かってくる。もちろん、薬研たち手負いの短刀たちの元にも容赦なく襲い掛かってくる。遡行軍もこちら(政府)も敵と見なしている連中だ。兎に角自分達以外の危険因子を取り除こうと必死なのだろう。


「やっぱり数が多すぎねぇか?お嬢…」

「はは、反論できないのが悔しいわ」


襲い掛かる攻撃をどうにか避けながら、例の札や自身の得物で応戦しつつ交代を繰り返す。押されているのは明らかだ。今剣もたった1振りで全部を相手するのには荷が重いし、かといって最早限界も近い兄弟たちを前線にでも出せば折れてしまう可能性だって…。いや、自分達も下手をすればサツキだって一瞬で…。
徐々に自分達が囲まれていくのを感じながらもどうも突破口が見えない。互いに背中を預け合う状態で近くに寄り、纏まり始める自分達に敵はさらに詰め寄ってくる。どうする。考えろ、考えろ。考え―…


チリン、


微かに聞こえたその音にサツキの顔色が変わる。ニイッと更に深く笑みを浮かべた彼女に合わせるように傍にいた今剣も微かに笑ったのを薬研は見逃さなかった。


「選手交代、だな」


サツキの呟くように聞こえた微かなその言葉に「え、」という乱の小さな疑問の声が零れた。と、同時に目の前に迫る検非違使たち。あ、と思う間もなく次の瞬間には。


「ガハハハハハハハ!!!!」


空間を切り裂くかのようにサツキたちの後方から伸びてきた薙刀の刃がサツキを斬ろうと振り下ろされた得物をその得物の持ち主ごと見事なまでに切り捨てた。ガハハハハハ!と高らかに笑う刀剣は1振りしかいない。


「おそいですよ!いわとおし!」

「いやなに、これでもかなり急いで駆け付けたのだ。許せ」


フワリと風を纏って大きな岩融の肩に降りる今剣に対し、岩融も嬉しそうに彼を肩に乗せながら自身の得物を構え直し更に高らかに声を張り上げる。


「さあ、此処からは我らの出番よ!」


その声に合せるようにぞろぞろと転移の穴から出てきた数名の刀剣男士たちが次々と短刀たちとサツキを守るようにして周りの検非違使たちと応戦し始める。と、パタパタと何かがはばたく音にサツキが振り返れば呼び戻し鳩が傷ついた短刀たちの周りを飛んでいた。


「遅いぞ、鳩助」


クルッポーと鳴く鳩の頭を軽く撫でてやればチリンチリンと呼び戻し鳩の首元の鈴が鳴る。これで一安心だ。


「お嬢…」

「先に帰ってゆっくり休んでな。私らも直ぐ帰るから」

「分かった」

「あ、ありがとうございます…」

「先に行って待ってるね」

「気ば付けて帰っちきんしゃいね」

「はいはい」

「すぐに帰ってこいよ!」

「分かった分かった」


早く帰ってゆっくり休めと短刀たちの頭を撫でてやる。と、それを合図に呼び戻し鳩がまたクルッポー!と一鳴きして短刀たちの周りをグルグルと回り始め徐々に空間が歪んでいく。そしてあっという間にその歪みの狭間に吸い込まれるようにして短刀たちの姿がスッと消えた。これで無事に本丸に帰還出来たはずだ。あとは本丸の連中と兄貴に任せておけば大丈夫。すぐに傷も癒えるだろう。
短刀たちが消えて行った空間を見つめながら立ち尽くしながら「さあ俺を楽しませろ!」なんて叫んでいる岩融の声を遠くに聞いていたサツキの後方でザシュッと肉を突くような音が響き、サツキの傍らに一つの大きな影が立つ。


「お怪我を」


柔らかい声に顔を上げれば、その闇夜の中でもしっかりと見える優しい蜻蛉切の顔に安堵の溜め息を漏らした。ああ、そういえば頬を斬られたんだっけかと蜻蛉切がそっと頬に触れてきて思い出す。


「これくらいなんともないよ」

「あまり無茶をなされるな」

「してないよ」

「………はあ…」


蜻蛉切の大きなため息を聞かなかったことにしてさっさと帰り支度を整えるかなと身を翻したその時だ。


「相変わらず嘘を吐くのが下手だな?」

「っ?!」


闇夜に慣れて薄暗い視界が眩しいほどの真っ白に染まった。金色の両目とバッチリ目が合って、グイッと怪我をしているであろう頬を親指でなぞられる。少し流血でもしていたのだろうか拭ってくれたらしい突如現れた彼に思わず息を止まりそうになるが、それを悟られないように静かに息を吐いた。


「…鶴丸」

「へへ、驚いたか?」

「はぁ…はいはい驚いた驚いた」

「なんだその反応は。つまらないな―…っと!」


呆れたように言うサツキに苦笑していた鶴丸が突如勢いよく振り返ると、キインと刃同士がぶつかる音が響く。鶴丸の背中を狙って検非違使が切りかかってきたのだ。


「後ろからとは、卑怯にもほどがあるんじゃないのか?え?」


鶴丸に検非違使が切りかかってきた瞬間、グイッと蜻蛉切に後ろに引かれ自然と距離を取る。それを見計らって鶴丸は勢いよく自身の得物を振るって相手を切り捨てて見せると「こりゃァ話してる暇も無いな」と呟きながらそのまま次なる敵に向かって駆け出していく。


「サツキ殿は自分の後ろに」

「私なら大丈夫だぁって、ッ!!のあ?!」

「ふっ!」


別に守って貰わなくても大丈夫、と蜻蛉切の忠告を受け流そうとしたその瞬間蜻蛉切に再び腕を引かれる。刹那、蜻蛉切が自分を捕まえている腕とは反対の手で槍を振るい相手を突くと後ろから飛んできた槍の穂先が目の前で停止し、そこでようやく自分が殺されかけたことを知る。そのまま流れるように「失礼、」と短く断りを入れ、サツキを俵抱きで抱えると再びもう一方の片手で槍を振るって相手を追い払うように蹴散らしていく。突然俵抱きされ呆然としているサツキを横目にふとニッコリと笑った刀剣男士の姿が見えた。


「どこか大丈夫なのかご説明いただけますかな?」

「い、一期…」

「本当、雅じゃないね」

「歌仙…」


キインキインとあちこちでぶつかり合う刃の音。徐々に数を減らしていく検非違使に畳み掛けるように第一部隊のメンバーである歌仙と一期一振が呆れながらもその表情はとても優しいまま声を零す。あ、これは確実に帰ったらお説教パターンだ。
なんて思いながら蜻蛉切の腕に抱えられて揺られながら察していると不意に視界に飛び込んでくる綺麗な紫色の布の端。闇夜の向こうでしかめっ面しながら応戦してる長谷部だった。


「いつまで主に心配かければ気が済むんだ」

「かけてないかけてない。いや寧ろ心配なんかしないでしょあの馬鹿兄貴は」

「全く…!こんな時でも口の悪さは変わらないなっ!」


心配かけたつもりなんてない。自分で大丈夫だと思って飛び出してきたのだから大丈夫なのだ。結果、短刀たちも無事に本丸に帰還できたし、自分自身も兄貴の第一部隊と無事に合流出来ている。
誰に似たんだか。なんて吐き捨てる長谷部に心の奥底では多分兄貴譲りだとか思いつつも何も言わずにその刀を振るう第一部隊の活躍をしっかりと目に焼き付ける。帰ったら覚えておけよ、なんて零す長谷部の声を聴かなかったことにして手持ちの札と指先を動かして設定をいじる。


「さっさと片づけて帰還するぞ!」

『応っ!!』


高らかに今回の部隊長であろう長谷部の掛け声に返答する隊員たち。相変わらず夜戦には向いていないメンツを1軍にしてるなぁと思いつつも、まぁこのメンツに戦場の環境はほぼ関係ないのだろうけどと思い直しながら徐々に数を減らしていく敵を遠くに見つつ、いつも通りに帰還システムを立ち上げる。このままいけば、数分後には兄貴の本丸に帰れることだろう。





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