視界に広がるのは室内から見える筈も無い霧の空。ズズズズ…ドオオンと地響きが下の方から聞こえた。恐らく、さきほどまでこの建物の屋根を担っていた部分が真っ逆さまに下に落ちて行ったのだろう。え?何故かって?そりゃぁ、建物を斜め横に真っ二つに切られたから。
『ああッ!くっそ…!!間に合わなかった…!』
「おいおい…まずは命の恩人に礼はねえのかよ、お前」
『無い!助けて貰わなくても避けてた!!』
「ハッキリ言うなあ?!おい!」
「シュタイン!無事?!」
床に張りかけた魔法陣のような模様がスウッと消えるのを視界に入れながらガバリと上体を起こせば、傍で呆れた様子のザップの声がした。どうやらとっさに私の腕を引いて助けてくれたようだが、実際彼に助けて貰わなくても私なら大丈夫だった。
寧ろとっさにその衝撃に太刀打ちできなかった事に腹が立つ。まさかあの暇人の仕込んだ仕掛けが、まさに此処に開くとは。誰が予想できたであろう。まぁ、何とか体は無事だしなんとかなるか。
『無事無事ー』
「俺の心配はねえのか」
「…チッ、怪我軽すぎなのよクソ猿」
「ああ゛?!」
心配した様子で駆け寄ってくるチェインにヒラヒラと手を振って返事を返すと、彼女も少し安心したようだった。だが、傍らに居るザップも無事だったことを知ると顔が険しくなった。あわよくば巻き込まれてくれれば良かったのに、という意味らしい。
「俺らよりも旦那だ。アッチの方を探せ」
「何でよ。アンタが生きてるなら彼が怪我するわけ無いじゃん」
「ガキが居ただろうがよ!!」
「…あ、そうか」
やれやれとゆっくりと腰を持ち上げる。と、床に手を着いた瞬間ガサリという感触。視線を落とせば、そこにはグシャグシャになった紙袋と、その紙袋の合間から覗くグシャグシャになった好物。もはや怒りを通りこして、呆れしか出てこなかった。
「…あーあ…やっぱり…」
先ほどまでの穏やかな室内の面影は何処へやら。あちこちが滅茶苦茶になった建物の上をチェインとザップに続いて歩き、先ほどクラウスとあの偽ジョニーの居た所へ向かうとそこではザップの言う通りの事態が起こっていた。
そこには血だらけになって床に倒れているクラウスの傍らでこちらの存在に気づき、こちらを見上げながら口をパクパクさせながらどうしていいのか分からず慌てている偽ジョニーの姿があった。
「クラウスさん…僕を…庇って…!!!…どうして…!!」
「そこに理由が無いのがこの男なのよ。強いて言えば貴方が"そこに""いた"のが理由ね」
『いつまで経っても利口にならないねえ…ウチのボス様は』
やれやれ、とまた小さく吐息しながらクラウスに歩み寄る。うん。呼吸もしているし、血は出ているがこれぐらいなら彼にとっても特に問題は無いだろう。慌てている偽ジョニー君を横目に静かに彼の肩に触れると彼もゆっくりと体を起こし始める。
『クラウス、しっかり。こんなぐらいで死ぬ貴方じゃないでしょうが』
「………む……ヤツの、正体は…?」
『テレビの半身を見た時大方予測は付けて置いたけど、恐らくあの半身の神様は"ヨグ=グフォト"だ。等級は神性存在2種。半分に割られても死ねなくって、激痛の中もう半身を求めて街中を暴れ回ってるって感じかな』
情報は少ないが恐らく以前読んだ書物の中に半身に似た文献を読んだ気がする。神様を半分にするなんて考え、普通の奴なら考えもしないだろう。でも相手はあの堕落王。何があっても可笑しくは無いが、随分とやっかいな相手を選んでくれたものだ。
「おいコラ、やっぱりお前が差し金かこのガキ」
「や、あの、くか…!」
「…違う…手を離すんだ…ザップ…!!」
ザップが、狼狽えている偽ジョニーの胸倉をいきなり掴んだ。苦しげに声を上げる偽ジョニーを気にすることなくザップが胸倉を掴んだまま持ち上げると、床に手を着きながらゆっくりと起き上がったクラウスが制止を上げる。その声にザップが偽ジョニーを掴み上げたまま視線だけこちらに向けた。
「脳みそ使いなさいよクソ猿。ミスタークラウスが"このままでは死ぬと判断して庇った"のよ?」
「……そうか…被害が及ぶのは周囲のみ。ゲート仕込んだ本体がおっ死ぬポカを堕落王が犯すはずもねえ」
クラウスの言いたい事を代弁するかのように、傍らに居たチェインが"クラウスが庇った"という事を強調しながらザップに言うと彼はその言葉の意味をすぐに理解したようだった。
そう。もしこの偽ジョニーがあの半身の化け物の片割れを出現させる為のゲートなら、この建物が真っ二つに斬られた瞬間、瓦礫の下敷きになったりして死ぬ可能性がある。もしゲートである彼自身が死んでしまえばそこまで。街の半身の化け物は永遠に半身のままだし、倒すのも時間の問題のみになる。ゲートからの出現が1度だけではあの暇人はきっと満足しないだろう。否、そんな簡単な事を予想していない訳がない。
『ってことは…?』
ドサリ、とザップの手から解放された偽ジョニー君が床に落ちる。そして、シュタインの呟きと共にその場にいた皆の視線がゆっくりとある1つの存在に向く。ゲートであるという候補から外れた彼を除いて、ゲートとして使われる可能性のある生き物はこの場に1匹しか居ない。
「(お前か―――!!)」
何故、皆の思考が自分に向いているのか理解していない様子の猿。詳しく言えば、音速の速さで移動する猿…音速猿である。困惑した様子の猿に向け、その場の誰もが思い浮かべた同じ思考をザップが思い切り表情に出しながら脳内で叫ぶ。皆の思考が見事に一致した時、まず動いたのはやはりクラウスだった。
「チェイン!!」
「了解」
「結局お前の持ち込み企画だったな」
「すいませんごめんなさい知らなかったんです本当に!!」
クラウスの指示にチェインが一気に音速猿に詰め寄る。2回目のゲート解放より前に猿を捕まえなければ。そういえば、どうして音速猿が此処にいるのかと考えれば、偽ジョニーと一緒にこのライブラに入り込んだことを思い出す。偽物だった上に、ゲートまで連れ込んでくれたのだから、まぁ…何という少年なのだろう。
「あ」
『あ、』
「しまった!!!」
再び偽ジョニーを掴み上げようとするザップを横目に、本当に今日はとんだ厄日だな…なんて思っていれば、次の瞬間。ジリジリと詰め寄るチェインに音速猿が恐怖を憶えたのか表情を強張らせながら音速猿が逃げ場を失い、ビルの淵から落ちて行った。瞬間。
「待て猿ウウウウウウウー!!」
何の迷いも無く、チェインが後を追ってビルから飛び降りるとそのままビルの壁を垂直に走って行く。重力なんてお構いなしだ。その光景に驚いている偽ジョニーは恐らく、"上"から来て間もないのだろう。そして、チェインがこの街の住人である事を改めて認識したのだろう。
「ガハッ…」
「動くなよ、旦那」
「…もうすぐ…警察が…集まる」
「ああ。面倒な事になる前に移動するわ。仲間への通達も今済ませた」
『クラウスは下手に動かずに搬送して貰った方が良い』
「…済まない」
『謝らなくていいから』
「…済まな……うむ…」
何とか他の仲間にも連絡は回したし、チェインがあの猿が捕まるのも時間の問題だろう。残るは既に出現している半身よりも先に捕まえなければならない、という事だけ。
思っている以上に出血しているらしいクラウスの肩に手を添えながらシュタインは安静にするように彼に言い聞かせる。下手に動いて更に傷を広げて貰っても困る。けど、きっと彼は無理にでも動くんだろうなぁとシュタインは脳裏のどこかで悟っていた。
「あー…元ジョニー・ランディス君?」
「レオです。レオナルド・ウォッチ…すみませんでした、ミスタ・クラウス。そして助けていただいてありがとうございます」
「…君は…"見えていた"ね?」
「………はい…猿の方から厚みのない巨大な腕が…」
「!?何だって?」
徐に口を開いたクラウスの口から飛び出た一言に、偽ジョニー…レオナルド・ウォッチはハッキリと"視えていた"と言い切った。それも事細かに、猿の方から腕が出たとまで。驚くザップを余所に、シュタインはといえば不思議と落ち着いていた。彼女も、彼の事を"見ていた"のだ。
「どういう事だ旦那!!俺はあの攻撃を目の端で捉えるのに精いっぱいだったんだぞ」
慌てて声を荒げるザップに向けシュタインはスッとすぐさま手を翳し、クラウスの代わりにその言葉の続きを制止させる。彼の言いたい事は分かるが、それよりも先にレオナルドの話を聞きたい。否、聞いておかなければ。
「君のその"眼"に関係しているのかね?…さっき言っていた"どうしても知らねばならない事"は」
「…はい…」
彼がこのライブラに足を踏み入れた理由。どうしても知らなければならない事。レオナルドの糸目のその奥にしまい込まれているその存在をシュタインは微かに感じ取っていた。背筋を駆け上がるこんな感覚、いつ振りだろうか。静かになったザップを横目にレオナルドはポツリポツリとある日の出来事を話し始めた。
―…ちょうど半年前、それは突然レオの前に現れた。
父と母、足の悪い妹…つまり家族でヘルサレムズ・ロットを見に来ていた。まあ対岸から霧に包まれた街を見るだけだったようだが…そう、彼はただそこから家族の写真を撮っていたそこにソイツは現れた。空間を捻じ曲げ、次元を裂いて現れたソイツはあっけらかんと当然の事を口にするように静かに言った。
「選ぶがよい。見届けるのはどちらだ」
言外に、そう言っているのを何故か彼は理解していたのだという。見届けぬものにその視力は必要ないという事を。そう。問われているのはレオナルドと、彼の妹さんの2人。そして、そのどちらかは見届ける事が出来るが、もう一人は―…
「…そうか…で、見えてるって事は…」
その行きつく先を知ったザップが、突如かなりの勢いでレオナルドの胸元を掴み上げる。再び、レオナルドの体が微かに浮いた。
「妹の方を犠牲にしたのかこの外道!!」
「………ッ…ッ…」
『…ザップ、』
掴み上げられたレオナルドは、泣いていた。率直に怒りを吐き捨てたザップに何も言い返す事も無く、レオナルドは喉を鳴らして泣いていた。その姿にシュタインはそっとザップの腕に手を添え、彼を離すように諭す。
「動げながっだ…僕は…その間…ずっと固まっで…!!」
大粒の涙を流しながら、上手く言葉を紡ぐこともままならないほど泣きながらレオナルドはどうにか言葉を紡いだ。彼の頭の中ではきっと昨日の事のように、その日の出来事が再生されているのだろう。何度も何度も後悔してきた、その日の出来事が。
そんな記憶の中で、レオナルドの妹は臆することなくソイツに向かって真っ直ぐにこう言ったそうだ。
「奪うなら、私から奪いなさい」
ソイツは動けないレオナルドを余所に、彼の妹からその視力を奪い、彼に忌まわしい記憶を植え付けるかのようにその眼を与えた。
「僕は…僕は…」
世の中にはその眼が喉から手が出るほどに欲しがるものが居るというのに、どうしてこんな些細な幸せを願うぐらいの平凡な彼らを、このような残酷な世界に引き吊り込んだのだろうか。嗚呼、いつの世も神は残酷だ。否、もうとっくにこの街は神に見捨てられてしまったのかもしれない。
「…僕は…卑怯者でず…!!」
兄として妹を守る事も出来ず、況してや妹に救われてしまったあの日を彼は何度悔やんだ事だろう。何度苦しめられている事だろう。自分を責めて責めて責め続けて、自分は卑怯者だと苦しめてきたのだ。嗚呼、こんな純粋な人間、久々に見た気がする。
と。
ドン!ドン!ドン!ドン!!とその空気をぶち壊すかのように上空から雨のように降ってきた幾つもの弾丸。自分達の立つ周りの床が撃ち抜かれ穴が開く。上空からの銃撃の音が止めば、聞こえてくるのはヘリのプロペラ音。そして、拡声器越しの警告。
「≪両手を頭の後ろに!そのまま俯せになれ!!こちらH・L・P・D特殊部隊、抵抗は無駄だ≫」
「来ちまったか…」
『面倒な方がね』
これから確保に移るとか何とかいうのが聞こえ、上から今度は特殊部隊のパワースーツを纏った隊員達が飛び降りてくる。ドスンドスンとシュタイン達を囲むようにヘリから飛び降りて来た隊員達は既に銃を構えて臨戦態勢である。
「非常事態だ、貴様等に人権はない!!法的にあらゆる拷問が許可されている。黙秘するだけ損をするぞ!!」
構えた銃を此方に向け、まるで脅しにも聞こえるようなセリフを吐きながら隊員がシュタインたちを囲う。しかしシュタインたちは彼らの出現にも顔色も何一つ変える事無く、寧ろシュタインとザップに至っては冷ややかな目で彼らを見ていた。
「…!?…聞こえなかったのか!!…両手を挙げて床に這いつくばれ!!!」
警告で声を荒げているのに、まるで表情も変えずに立っているシュタイン達に隊員達にも焦りが視える。普通の一般人なら、この脅しで素直に言う事を聞いているのだろう。だが、残念。私たちは普通の一般人ではない。
「…レオナルド君。君の能力のこと、その事情、全て了解した。その上で私は取引を申し出たい。いいかね?」
連中を囲むようにイメージしながら指先に神経を集中させ始めるシュタインの横で、静かにクラウスが口を開いた。視線の先には、まだ警告を無視し続ける此方に何やら声を荒げている連中。煩いったらありゃしないが、不思議とクラウスの声はまっすぐレオナルドに届いていた。
「恐らく今回、君の能力はこの局面を左右するカギになる。ついては、我々に協力して欲しい。我々も君の目的の達成に助力する事を約束しよう」
「……それって…」
『そ。そう言うこと』
クラウスは彼の生い立ちを知り、その眼の事も知った上で決心したようだ。クラウスのその言葉に合わせるように、そして彼の言葉の意味を汲み取ったシュタインがニコリと笑う。
「改めて、ようこそライブラへ」
その一言に、レオナルドは動けずに居た。ただ真っ直ぐにクラウスを見ていた。彼にはきっと理解できない…否、予想だにしていなかったこと過ぎて何も言い返せなかったのだ。
複雑な顔で後頭部を掻くザップの横でシュタインが小さくザップを小突く。久々の新入り、しかもあの眼を持った極普通の人間。これから面白くなりそうだと笑うと更にザップは複雑そうな顔をして此方を見ていた。
「き……貴様らァ…その不遜な態度…まさか首謀者の一味では無いだろうなァァ!!!」
『…ったく…最近の特殊部隊とやらは、空気すら読めないのかい…』
まるでそこに存在が無かったかのように扱われたのが気に喰わなかったのか、特殊部隊としてそんな反抗的な者たちが許せなかったのか、穏やかな雰囲気をぶち壊すようにズカズカと近づいてきた隊員にシュタインが明らかに不機嫌な顔を向ける。
「気に入らんぞその目つき…この場で抵抗と見なして射殺してやっても良いんだが!?…あァ!?」
『わぁ…出た出た職権乱用。それでいいのかよ』
「あァ!?何だ小娘、まずは貴様からかァ?」
ガチャリ、と何とも物騒な音を響かせながら銃の銃口をクラウスを始め、シュタインにも向けてくる。これが一般市民を守るだのなんだの言っている連中のやり方だろうか。指先に集中させていた意識を今まさに放ってやろうかとした、その時である。
「さて、ザップ君にシュタイン君…君たちは手を出すな。究極の修羅場はここではなくまだ先だ。力を温存したまえ。…ここは私が引き受けよう」
クラウスが淡々と声を上げるものだから、シュタインは指先に集めていた意識を一瞬にして打ち消した。彼が手を出すな、と言う場面で下手に手を出すと此方の方が危ない。それに彼の言う通り、私たちが能力を使うのはもうちょっと先である事に間違いない。
傷口を押さえながら立ち上がったクラウスはそのままゆっくりと歩き出し、目の前で展開している特殊部隊の隊員達に向かって行く。そんなクラウスの大きな背中に、シュタインとザップは嗚呼…と悟った。
「…八つ当たりだ」
『あーあ。私、知ーらない』
「…へ?」
「…気づいてねえのかっ!!さっきのアレでシュタインが買ってきたドーナツも、植木鉢がいくつか台無しになった。旦那はあれで意外に短気で理不尽なんだ」
『血の雨が降るよー』
足元の床に原型を留めていないほど潰れたドーナツの残骸と、グシャグシャになった紙袋。そして彼が大事に世話していた植木鉢の植物たちも皆、床に無残な姿になって転がっている。これがさっきの半身の化け物のせいなのか、はたまたこの特殊部隊のせいなのかは定かではないが、はっきりとした方向の分からない怒りほど怖いものは無い。
「ブレングリード血闘術」
歩みを止める事無く進んでいく彼の手にはいつの間にか彼愛用の得物が握られている。嗚呼、これはマジなヤツだ。…本当に血の雨が降る。
「…推して参る」
明らかに敵意剥き出し、況してや得物まで取り出したヤツを連中が大人しく構えている筈も無い。クラウスが特殊部隊の中心に足を踏み入れるや否や、特殊部隊の隊員達は一斉にその手に持った銃の銃口をクラウスの頭部に向け、囲った。すると、不意にクラウスが何かを思い出したかのようにこちらを振り返る事無く口を開いた。
「そうだ、レオナルド君。一つだけ認識を改め給え。君は卑怯者ではない。何故ならまだ君は諦めきれずにそこに立って居るからだ」
レオナルドは何も言わなかった。否、言えなかった。淡々と話すクラウスの口調はまるで難しい事を当たり前のように話し、そして何より優しく胸の奥に納まる。ストンと、気持ちいいくらいに彼の言葉は重たいようで軽く、そして温かい。
「いいか。光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じてない」
力強い、その言葉の重さと迫力にその場の全員が動けなかった。そうだ。レオナルドは今の今まで幾度となく後悔をし、挫折を繰り返した。しかし今彼は、此処に立って居る。自分の無力さを知りながらも諦めきれずに此処に立って居るのだ。彼の心はまだ、折れていない。進もうともがいている途中だ。なら、そのもがく彼の手にそっと手を差し伸べたって良いじゃないか。
クラウスは、静かにそう言って絶対安静レベルの怪我を負っている身とは思えないほどの素早い動きで自身の得物を振るった。
旋回式連突(ヴィベルシュトウルム)
その言葉と共に一瞬にして、特殊部隊のパワースーツは砕け散り、外装のパーツが宙に舞う。街の霧が薄っすらと静けさを漂わせ始める中、ようやく振り返った大きな背中はいつにも増して力強かった。
「征け!!手始めに世界を救うのだ」
クラウスのその一言に背中を押され、シュタインとザップは小さく頷くとすぐに行動に移すために足を動かす。そしてその場に立ち尽くしてしまっているレオナルドを何やってんだとばかりにザップが襟首を掴んで引っ張って行った。