―ユグドラシアド中央駅

空中駅が"永遠の虚"の真上で街の中心点。転落したら"アッチ側"まで一直線のその場所に向かうと言い出したエイブラムスに連れられて伸びていたレオナルドとクラウス、そしてとばっちりに近い形で付き合う事になったザップが事務所を後にし、大分静まり返った事務所の中でシュタインは深くソファに腰掛けていた。


「………」

「もしかして、心配してるのかい?」

「?」

「いや、君にしては随分と難しい顔をしていたからさ」

「…そう?」


実際そんな顔をしていたつもりはサラサラないのだが、きっと少なくとも目の前の彼―…スティーブンにはそう見えたのだろう。心配なんてまさかそんな。確かにレオナルドは回復もままならぬ状態で連れ出されてしまったが何しろクラウスも居るし、ザップもいる。護衛としては十分すぎるぐらいだ。…唯一心配するとしたらエイブラムスの豪運だけだろうか。


「嗚呼、愛しい…」


ズキリと神々の義眼を目の当たりにしてから自棄に頭が痛む。私がきっとそんな難しい顔をしていた原因は別の所にある。脳裏で響くあの忌々しい声が鬱陶しい。どうしてこのタイミングでヤツのことを思い出したのだろう。考えるだけでも吐き気がする。
そんな険しい顔をしていた私の目の前にスッと差し出される1つのティーカップ。それを差し出してくれたギルベルトさんにお礼を言いながら受け取るとギルベルトさんはニコリと笑った。紅茶で落ち着かせてくれようとしてくれたようだ。


「愛おしいリリィ…。僕の、」


綺麗な紅茶の色をしていながらこれまた綺麗に透き通っているティーカップを覗き込めば自分の顔が鏡のように映り込む。未だに自分の脳内で囁き続けるその声を跳ね除けるようにして温かい紅茶に口をつけながら、悪態を吐いた。


「…誰がテメエのだ、バーカ」


様々な記事が載っている新聞を広げるスティーブンが首をかしげながら何か言ったかい?と問いかけてくるから、いいや何も。とそっけなく答える。こんな幻聴、いつも通り薬を飲めばすぐに消える。その前にこの紅茶のお陰ですっかりさっぱり消えてくれるだろう。あんなヤツの事、思い出す必要も無い。
一気に紅茶を飲み干し、御茶請けに置かれていたクッキーを1つ口の中に放り込む。と、不意に鳴り響く着信音に誰もがその動きを一瞬止めた。新聞を放って鳴り響いていた事務所の電話に出たスティーブンは何やら短いやり取りを交わしたのち、此方に向き直る。


「寛いでいるところ悪いが、出動要請だ」

「…どっから?」

「連邦捜査局(HFBI)からストムクリードアベニュー駅にて"屍喰らい(グール)"と応戦中だそうだ」

「 ?! ってことは…!」

「嗚呼、恐らく長老級(エルダークラス)だろう」


真剣な面持ちで伝えるスティーブンにシュタインは深く頷き、迷いのない動きで一直線に扉へと向かい、入口付近に掛けてあったコートを羽織る。チェインが真っ先に姿を消し、いち早く情報を集めに現場へと向かう。「スグにクラウス様に連絡をし、車を回します」とこれまた手慣れた動きでギルベルトさんが動く。スティーブンがギルベルトさんに「K.K.にも連絡を」と指示を出しているのを横目にドアノブに手をかける。もう皆、慣れたものだ。


「…ったく今日は次から次へと」


飛んだ厄日だ。クラウスもザップも今は現場から遠い場所に居る。このライブラ事務所の戦力として大半を占めている2人が不在な中でこんなタイミングよく奴らが動き出すなんて…。きっとあの人が来たからだ、そうに違いないと思い込むしかきっとこの最悪の一日を乗り越える事が出来ない。悪態をつきながらも、兎に角現場に向かうべくスティーブンと共にギルベルトさんが首尾よく回してくれた車に乗り込んだ。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -